岸田文雄外相は東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合が開かれたミャンマーのネピドーで、李洙〓外相と短時間接触した。
北朝鮮は拉致被害者らの消息について特別調査委員会を設けたが、岸田外相は徹底した調査を求めた。続行する短距離弾道ミサイルの発射の自制も強く促した。李外相が調査結果をいつ伝達するか、具体的な日程を示した可能性もある。
両国は外務省局長級協議を続けているが、外相同士が直接、意見交換したことで、拉致解決に向けて一歩進んだと評価できる。
李外相はかつて駐スイス大使を務め、十代でスイスに留学した金正恩第一書記の側近といわれるだけに、日本側の見解は伝わりやすいだろう。
まだ楽観はできない。北朝鮮側は調査対象について、戦後、朝鮮人の夫とともに渡航した日本人妻の所在や、太平洋戦争直後の混乱期に北朝鮮で死亡した日本人の遺骨の収集も含めている。
指導部は「自主的に入国した日本人については帰国を検討する」との方針を固めたという情報があり、最初の調査では主に日本人妻らの消息を伝達するとの観測も出ている。
しかし、日本側 にとって最優先すべきは、政府 が認定した拉致被害者十二人と、拉致の可能性が排除できない数百人ともみられる行方不明者 の消息確認だ。必ず拉致被害者らに関する調査結果を伝えるよう、くり返し要求しなくてはならない。
安倍政権は七月、日朝の人の往来 や送金の制限など、独自に科してきた制裁を一部解除した。核とミサイル開発を続ける北朝鮮は後ろ盾の中国との関係 も悪化し、外交的に孤立している。日朝関係で対話を重ねて拉致問題を進展させれば、経済再建のきっかけにな りうると認識すべきだ。
米韓両国は、日本が北朝鮮への制裁 を緩和すれば金正恩体制を支える結果を招くのではないかと懸念する。ミャンマーでは日米韓外相会談も行われ、北朝鮮の核開発とミサイル実験を止めるため引き続き連携することを確認した。
政府は今後も、周辺国に対し拉致問題には透明性を持って取り組むと説明を続ける必要がある。