一昨日の外来で、インフルエンザ陽性の20代女性の患者さんを診察しました。発症時は40℃近くの高熱があったそうですが、来院時には38℃台まで下がっていました。
これだけ高熱が出ていると、「ワクチンは未接種かな」と思い、念のために尋ねてみると、「接種しました」とのこと。
私は普段、ワクチン接種の際に「インフルエンザの感染を100%防ぐことはできませんが、かかっても重症化しにくくなります。高熱が出にくくなることも多いですよ」と説明しています。
そのため、この患者さんの場合、「ワクチンの効果が十分に出なかったのかな」と感じました。
ところで、最近、H3N2 サブクレードK(subclade K、別名 J.2系統)と呼ばれる新しい変異系統が広がっているという報道が出ています。現在流行しているインフルエンザの多くは、H3N2型、特にこのサブクレードKが中心とされています。
ここで気になるのは、「この型にはワクチンは効くのか?」「タミフルなどの抗ウイルス薬は効くのか?」という点だと思います。
まずワクチンについてですが、現行の北半球向けワクチンは、subclade Kが広がる前に選定された「別系統(J.2など)」を想定した株をもとに作られているため、抗原のズレが生じている可能性があります。
もしかすると、冒頭の患者さんにみられた高熱も、この抗原のわずかな違いによって、ワクチンの効果が十分に発揮されなかった一例であった可能性も否定はできません。
ただし、「ワクチンを打っても意味がない」というわけでは決してありません。発症予防効果はやや低下する可能性があっても、重症化・入院・死亡を防ぐ効果は十分に期待できるとされており、専門家は現在も接種を強く推奨しています。
そのため、特に高齢の方や持病のある方は、ワクチン未接種の場合、ぜひ接種を検討していただきたいと思います。
次に抗ウイルス薬についてです。タミフルは、ウイルス表面のノイラミニダーゼ(NA)という構造を阻害する薬です。一方、このサブクレードKは、主にHA(ヘマグルチニン)という別の構造の変異が中心です。
そのため、理論上は、HAが変異していてもNAが大きく変化していなければ、タミフルの効果は保たれると考えられます。
実際、現時点ではタミフルが効きにくくなっているという確かな報告は出ていないようです。
【結論】
- ワクチンの感染予防効果はやや弱まる可能性がありますが、重症化予防効果は現在も十分に期待されています。
- タミフルなどの抗ウイルス薬も、引き続き有効性が保たれていると考えられています。
もっとも、私は感染症専門医ではありません。今後の公的機関や専門家からの報道・発表には、引き続き注意していく必要がありますね。