昨日の外来で印象的な出来事がありました。
以前から当院に通っている63歳の女性の患者さんが、初めて私の診療枠を受診されました。現在、睡眠導入剤と抗不安薬が処方されています。私は内科医であり精神科の専門ではありませんが、「精神科には行きたくない」とのことで、内科で治療を続けています。診断名はパニック障害です。
お話を伺うと、数年前に受けたMRI検査が発症のきっかけだったようです。そのとき、検査の説明が十分にされないまま検査が始まり、「棺桶のようなドームの中に閉じ込められた」と感じたそうです。金属音が響く中で長時間身動きできず、強い恐怖と息苦しさを体験しました。
以来、「閉じ込められる」状況になると動悸やめまいが起こるようになり、電車や新幹線、飛行機などの閉ざされた乗り物に乗ることができなくなったといいます。ご主人の実家がある広島へ行くときも、新幹線や飛行機は避け、自分で車を運転して行くそうです。「車なら、降りようと思えばいつでも降りられるから安心なんです」と穏やかに話されました。
MRIの出来事があるまでは、まったくメンタルの問題はなかったそうです。それが一度の体験をきっかけに、生活に支障をきたすほどの不安障害へと変わってしまった――。人の心の脆さと繊細さを改めて感じた症例でした。医療の現場では、「説明を尽くすこと」がいかに大切かを教えられた気がします。