理人の自宅から也映子の家までは、途中駅を渡って20分ちょっとだ。
でもそれは理人のペースで歩いた場合の時間であって、隣に也映子がいると、マイペースにあちこち気を散らしながら歩くので、一人のときより遥かに時間がかかる。
でも一緒に話しながらだと、時間感覚としては一人の時よりあっという間に着いてしまうんだから不思議だ。
全部持つよ、と理人が言った買い物袋を、「いいからいいから」と一つ持って、スーパーからの道中、也映子が腕を組んできた。
普段は手を繋いで歩くことが多いが、也映子は上機嫌の時、腕を組んでくることがある。
不意に狭まる距離感と、近くなる顔、腕から伝わる体温に、戸惑うが嬉しい。
明るい日中に、ふたりで小暮家まで歩くのは初めてだ。
「小さい頃、よく遊びに来てたんだよ」
公園を通りかかれば、滑り台とブランコ、砂場くらいのごく小さなその公園が、一人っ子の也映子には友達と遊べる楽しみな場所だったと話し出す。
「夏の会社帰り、アイス食べたくなったらここのコンビニ寄るの」
自宅最寄りのコンビニを通りかかれば、夏場のスーツを着た営業がいかに暑いかを力説された。
そうこうしているうちに、あっという間に小暮家に着いた。
也映子が開けてくれた玄関をくぐる。
「…お邪魔します」
小さくそう言うと、也映子の家の香りが鼻から入ってきた。
「也映子さんちの匂いがすんなぁ」
「…そう?自分の家って、分からないんだよね~」
明るく笑いながら、也映子が中に入っていく。
ふと玄関脇の下駄箱上に、花と、幼い也映子が収まった写真立てが飾られているのが目に留まった。
小学校入学式、と書かれた看板の横で、まだ若い両親とともにぎこちない笑顔を見せている。
写真に見入ってなかなか入ってこない理人に、也映子がリビングから顔を出した。
「どしたー?大丈夫ー?」
「あ…あぁ、大丈夫。写真ちょっと見てた」
「え?あぁ、それかぁ。そういえばあったな。忘れてた」
「なんか…也映子さんが、小さい」
それを聞いた也映子が吹き出す。
「そりゃ、私にも小さい頃はあるよ」
「そうなんだけど」
「変なの」
也映子は笑いながら玄関までやってきて、理人の手から買い物袋を取り上げた。
「こっち生もの多いから、早く冷蔵庫入れちゃおう。持ってくれてありがとう。重かったでしょ」
袋がなくなった掌に、赤い跡がついている。それを見て初めて、そこそこの時間重い荷物を持っていたのだとに気付いた。
「理人くん、このスリッパよかったら使って。手洗うの、あっちの洗面所ね」
キョロキョロと落ち着かない様子の理人を見て、也映子がまた少し笑う。
「初めて来たわけでもないのに、挙動不審だね」
「…こんな風に来るのは初めてでしょ」
「まぁ、確かに」
初めて来たのは、突然の訪問で告白の日だったし、二回目は自宅前でのキスを父親に目撃され招かれた時で、どちらも落ち着いていられるような状況じゃなかったことは間違いない。
理人が手を洗い終えてリビングに入ると、也映子は髪を束ねて腕まくりをし、料理を始めようとしていた。
思わず時間を見る。まだ3時前だ。
「…え?もう料理始めんの?」
「だって、コトコト煮込む時間、必要だよ。しかも、幸恵さんのビーフシチュー、工程が多い。時間かかるよ、これ」
「…分かりました」
理人が袖をまくり始めると、也映子が突然大きな声を出した。
「あ!!!」
「なっなに!?」
「ちょっと待ってて!」
也映子がリビングから走り去る。
手持無沙汰になり、なんとなくリビングを見渡していると、也映子が風のように戻ってきた。
「あったー!これ、使って」
也映子が手に持っていたグレーの布を広げる。エプロンだ。
「昔使ってたんだけど、サイズ合わなくてお蔵入りしてたやつ…やっぱり!理人くんにならぴったり!」
広げたエプロンを理人にあてがう。
也映子の髪の香りがふと漂ってきて、理人は一瞬たじろいだ。
「いいよ、わざわざ…このままで」
「初心者ほど汚れるの!ほれ!いいからつけて!」
「…分かりましたよ」
ビーフシチューが出来上がるまでに、水しぶきや油ハネ等々が少なからず理人のお腹あたりに飛ぶだろうことが、お昼のお皿洗いの様子から也映子には容易に想像できた。
よく分からないシミをやたら付けた服で帰ったのでは、帰宅後、何をしてきたのかと芙美から突っ込まれるのが目に見えている。
「はい、これでいいすか」
(…!)
也映子は一瞬息をのんだ。
エプロンを付けてキッチンに立つ理人は、やたら様になっていて、 居酒屋での姿とはまた違い、思わず息をのむ格好良さがあった。
也映子の頭の中に、映画のワンシーンのように映像が流れてくる。
朝日の差し込む真新しいキッチンで、エプロンを付けた理人が、高い背を屈め、真剣な眼差しで何かを刻んでいる。
トントントン…と、時につまづきながらも、 リズミカルな音がキッチンに響いている。
也映子に気付いて、理人が顔を上げた。柔らかい瞳になる。
「もう起きたの?せっかく内緒で作ろうと思ったのに」
白い歯を少し見せて微笑み、優しい口調で言う。
甘い微笑みに目を閉じてとろけていると、現実の理人のドライな声が耳に届いた。
「…ねぇってば!聞いてる!?」
「はっ!?…あ、ごめんごめん」
「ったく、なに一人でニヤついてんの」
「なんでもないよ」
「なんでもないならニヤつくな」
「すいません」
「…で?」
「はい?」
「だから、野菜切ってればいいの?っつーか本当に全然聞いてなかったな」
「すいません」
「…ったくもう。也映子さんが作るって言ってきたのに」
「ごめんごめん。とりあえず、もう一回幸恵さんのレシピ、見せてもらっていい?」
「はい、どうぞ」
理人が携帯を差し出す。
「…そうだね。とりあえず野菜切っていこう!理人くん、ジャガイモの皮むき出来る?」
「多分」
洗ったジャガイモを理人に手渡す。
慎重に、丁寧に、とてつもなく真剣な面持ちでジャガイモの皮をむき始める横顔が、可愛らしかった。
傍らで、也映子はポテトサラダ用にと男爵の皮をむく。
「…さすがに、早いな」
次々と剥かれていくジャガイモに気付いて、理人が言った。
「こういうのは、慣れだからねー。…でも、理人くんの剥いた皮、どれも同じくらいの厚さできれい。仕事が丁寧だね」
「也映子さんのは?」
「もっと適当」
「也映子さんのモットーって、『適当』?」
「違うわ!」
人参を切るところでは、理人が本当にわずかの量しか入れたがらなかったので、とりあえずそこは理人を尊重した上で、こっそり横で、ごくごく薄切りにして、ポテトサラダの方にも入れることにした。
也映子も手を貸しながら、一通り野菜を切り終え、牛肉にも下味をつけて、小麦粉を振った。
ようやく鍋を火にかける段階になって、理人が材料すべてを一気に放り込もうとしたので、也映子が止める。
「まずは、玉ねぎだけ。しっかりいい香りがして飴色になるまで炒めるみたいよ」
ひとつひとつ幸恵のレシピを確認しながら料理を進めていく。
特に、トマトペーストとトマトピューレを10分以上炒めてデミグラスソースの素を作るくだりでは、理人が初めて弱音を吐いた。
「ビーフシチューって、こんなに大変なのか」
「だね。根気と愛情がなかったら、とてもやる気にならないよね」
幸恵のレシピはとても細やかで、美味しくするための工夫に満ちている。
家族へ惜しみなく手間と時間を捧げる幸恵の人柄が表れているようだと思った。
後は煮込むだけ、という段階まで来て、ふたりして同じタイミングで息を吐いた。
思わず顔を見合わせる。
「これをいつも一人でやってる幸恵さん、すげぇな」
「ほんとだよね~。工程が沢山あって、とても一度じゃ覚えきれない」
「だよな。正直、もう一回やろうとは思えない、俺」
「すごいよね…もう何年も、少なくとも10年以上は作り続けてるんだろうね、幸恵さん。もう何度となく」
「10年以上か…長いな」
10年前の理人はまだ小学生だ。
「新婚ラブラブな時も、多実ちゃんがお腹に来た時も、旦那さんともめたり、お義母さんと色々あったりした時も。何度もさ」
「多実ちゃんにタンシチューが好きって言われてからも?」
その話を聞いた時の幸恵の顔を思い出して、也映子は少し笑った。
「そうそう。色んな状況で何度も作ってきたんだよ、きっと。…だから、あんなに一杯ある工程も、頭に入っちゃってるんだろうね」
「…すごいな、それ」
「うん。すごいと思う。そんな幸恵さんの時間が詰まっているようなシチューを、この間私たちが食べさせてもらったって、改めてありがたいなって思う」
「うん、確かに」
「幸恵さんと同じ教室になれたのって、本当に…なんていうか、幸運」
「だな」
「うん」
「あと…」
「ん?」
「それは、俺らも」
ビーフシチューに向けていた目を、理人に向ける。少し照れたような柔らかい目をしている。
「うん…そうだね」
コトコトと具材の踊る音とともに、鍋からは湯気が立ち昇っている。
いい香りの白い湯気に包まれながら、見つめ合って、微笑んだ。

ざっと片付けも終えて、時計を見るともう4時を回っていた。
「え?もうこんな時間…洗濯物取り込まなきゃ」
気付けば外はもう日が陰ってきている。
「手伝う?」
「大した量じゃないし、大丈夫。ちょっとその辺で休んでて」
也映子がパタパタと走り、どこからか洗濯かごを抱いて戻ってきたかと思うと、庭へ消えていった。
理人はとりあえずエプロンを外して、外の也映子が見えるソファに腰を下ろした。
座って初めて、ずっと立ちっぱなしで意外と疲れていたことに気付いた。
体がソファに吸い付くようだ。
身を預けると、ソファからも小暮家の香りがした。
洗濯物を取り込み戻ってきた也映子が、そんな理人の様子に気付き、声を掛ける。
「疲れたね。お茶でも淹れるよ」
理人の家まで往復し、朝から起きてる也映子の方が疲れているだろうと思ったのだが、なんかぐったりしてしまって上手く言葉が出なかった。やり慣れない料理をして、体に変な力が入っていたのかもしれない。
「…ありがと」
もうキッチンに向かおうとしている也映子の背中に、声を掛けるのが精一杯だった。
お茶をトレイに乗せて戻ってきた也映子に、ふと訊いてみた。
「也映子さんの…小さい頃からのアルバムとか、あんの?」
「ん?そりゃ、あるよ。お母さんがまとめてくれたやつ」
「見てみたい」
「そう?いいよ。ちょっと待ってて」
也映子は少し笑って、部屋を出ると2階に上がり、すぐにアルバムを抱えて戻ってきた。
「はい、どうぞ」
テーブルに置かれた、可愛らしい熊の表紙のアルバムの、分厚い表紙を開く。
『命名 也映子』と書かれた傍らに、生まれたての也映子がきょとんとした顔で映っている。
ページをめくる。
首が座った、寝返りをした、ハイハイをした、歩き出した…そんな成長の一歩一歩が、丁寧に刻み込まれていた。
一緒に写っているまだ若い也映子の両親は、どれも満面の笑みだ。
甥の飛翔を見ている兄夫婦と、両親の顔が思い浮かんで、重なった。
「也映子さん、どんな子どもだったんだろうな」
「人見知りだったみたいだよ。知らない人に会うと、すぐお母さんの後ろに隠れてたって」
「今と大分違うな」
「そう?」
「ん~…也映子さん、初めての相手にもあまり緊張とかしてなさそうに見える。俺の時も」
「そんな風に見えてるだけだよ。内心してるって」
「そうなの?」
「うん。営業やってるのもあるかもしれないけど、初対面でも、それなりに話せる技術みたいのが身につくんだよ。大人になるとね~」
「急に年上みたいなこと言ってんなぁ」
「いやだから、年上だから!」
幼稚園の頃くらいから、頻繁に同じ女の子と一緒に映っている。
「この子、いっぱい映ってるね」
「あぁ、それ、いとこのはーちゃん。ほら、3コンにも来てくれてた人」
「あー…あの、双子連れてた人か」
「そうそう。お母さん同士が一つ違いの姉妹でさ、近くに住んでるし、同じ年の同じ4月生まれだし、小さい頃からよく一緒にいたんだよね」
「へー。仲良かったんだ」
「うん、そうだねぇ。いとこっていうより、友達か姉妹みたいな感じ」
「ふぅん」
更にページをめくる。玄関にあるのと同じ、小学校の入学式の写真だ。
少しフォーマルな服を着て、髪を結われた可愛らしい也映子がいる。
「うっわ~…お父さんもお母さんも、若いわぁ」
「也映子さん、あんまりどっちにも似てないよね」
「それ、よく言われる。お父さん方のおばあちゃんに似てるらしいんだよね」
「へ~」
小学校時代の発表会や運動会などの写真が続いていく。
「運動会…私、走るの苦手だったから、毎年憂鬱だったなぁ」
「その割に、楽しそうな顔してるよ」
「皆でワイワイする感じとか、お弁当は楽しみだったんだよね」
「弁当の時間だから、こんな笑ってんのか」
「うん、多分そう。徒競走の前とか、本当に嫌で嫌で」
「走るのなんて、体の使い方ですよ。ちゃんと論理的に訓練すれば、誰でもある程度は速くなります」
「そうなの?運動神経とか、遺伝とかじゃなくて?」
「はい」
「なんだ~…小さい頃の私に教えてあげたい。でもよかった、子どもにも移るのかと思ってた」
「遺伝的要素はむしろ小さいんですよ。それにもしそうでも、俺の遺伝子も入ってるから大丈夫」
也映子は思わず理人の顔を見た。事も無げな横顔。
理人はたまにこういうことをさらりと言うことがある。
理人の言葉に心が動いたのを隠すように、写真を指差した。
「懐かし~!このSL!うっかり窓開けたらすっごい煙臭くてびっくりしたっけ」
「家族旅行でも色んなとこ行ってるんだね」
「そうだね。お父さんが鉄道好きで、いつも電車の旅だよ」
「そうなんだ」
家族旅行だけでなく、家族との何気ない時間の写真も多い。
誕生日だったり、どこかへの買い物だったり、先ほど通った公園で遊んでる写真もあった。
穏やかで力の抜けた家族の笑顔。
也映子が一人娘として大切に育てられてきたことが伝わってくる。
ページをまためくる。小学校の卒業式だ。
看板に書かれた文字は平成15年。理人はまだ4歳だ。
普段はほぼ全く意識することはないが、改めて年上なのだと実感する。
「この頃は、髪短いね」
「うん?あぁ、そうだね。小学校5,6年から中学時代は、ずっと短かったよ」
中学校の入学式の写真では、今の也映子の顔に大分近づいている。
少し長めのショートヘアで、まだ眼鏡も掛けていない。也映子の大きな瞳がよく分かる。
テニスをしている写真もあった。
「中学校、テニス部?」
「そうそう。友達に誘われて入ったんだけど、びっくりするくらい上達しなかった。楽しかったけどね」
「なんか、すげーイメージ沸く」
「そう?」
「コートの片隅で、練習そっちのけで友達と喋ってたでしょ」
「…なんで分かんの」
「今と同じじゃん」
「へ?」
「カラオケ行っても、練習そっちのけで喋ってる」
「なんだよもー!」
「図星」
中学校の卒業式を経て、高校時代に突入すると、急に感じが変わった気がした。大人っぽくなったような…どこがどうとは表現できないが、髪も肩まで伸びて、今の也映子に近い。
友達と楽しそうに笑っている。
…そういえば、也映子さん、初めての彼氏っていつなんだろうな。
この頃、彼氏とかいた?
余計なことだと逡巡しつつもそう聞いてみようかと思った時、也映子の携帯が鳴った。
「…げ。クライアントさんからだ」
「どうぞ」
「ごめんね」
也映子が席を立つ。
話す也映子の声を片耳で聞きながら、一人高校時代の也映子の写真に見入る。
母親がまとめたアルバムだ。
もちろん彼氏らしき男と映っている写真なんてありはしない。そもそもただの想像だ。
でも…也映子が初めて誰かを好きになって、初めてキスをしたかもしれなくて、もしかしたら初めてそれ以上の関係も持ったかもしれない頃。
ただの想像上の相手に嫉妬するのもおかしいと分かっていても、なんとなくモヤモヤが湧いてくる。
「…はい。申し訳ありません。今手元に仕様書がなくて…あ、少々お待ち頂いてもよろしいですか?ちょっと確認してすぐに掛け直します」
電話はなかなか終わらない。
その声とともに、也映子が急ぎ足で二階へ上がっていく音がする。
休みの日まで大変だな、と思いつつ、理人は也映子が仕事している様子を見聞きするのも好きだ。
自分といるときでは見られない也映子の顔や喋り方を知ることができる。
とはいえ、一人きりだとやはりどこかつまらない。
ため息を一つついて、高校の卒業式から、大学の入学式へと進む。
背伸びしたスーツに身を包んだ也映子がいる。
もうこの頃の写真は少ない。
家族旅行の写真が何枚か入り、すぐ成人式の振袖をまとった也映子が出てきた。
少しはにかんだように笑う笑顔は今の也映子そのままだ。
その後の写真は、もう卒業式だった。
袴姿で、髪をアップにまとめ、卒業証書を抱えて友人たちと映っている。
(この頃はもう…元婚約者と付き合ってるんだよな)
写真に映る也映子の瞳を覗き込む。
もちろんそこに元婚約者が映り込んだりはしていない。
でも、楽しそうな表情のどこかに、元婚約者との時間の切れ端くらい、挟まっていないだろうか。
そんなことを考えていると、也映子が戻ってきた。
「ごめんごめん!お待たせ」
「無事終わった?」
「うん。待っててくれてありがと。何見てたの?」
「…今より若い也映子さん」
「若いって言うな!その通りだけど」
隣に座る也映子の瞳を覗き込む。
「うん?」
眼鏡越しの大きな黒い瞳には、ただ理人が映っている。
「いや…あ、この卒業式の写真、すげぇ楽しそうだね」
「そうそう!皆で打ち上げしたんだよね~。あ、実可子もいるよ」
「ミカコ?…あー、あの、赤ちゃんできなくてって人か」
「そうそう。A子もB子もいるよ」
「その話、誰が何だか思い出せない」
「忘れちゃった?ほら、A子はさ…」
いつか温泉へ向かう電車で聞いた話を也映子が語りだす。
そこから滔々と大学時代の友人たちの話が始まる。
話している也映子の横顔は楽しそうだった。
今、也映子の瞳に映っているのが自分なら、それで十分だ。
也映子の脈絡のない話に突っ込みを入れながら、理人はそんなことを思った。

大学の友人たちとの旅行写真まで持ち出してきた也映子の話は止まることなく、あちこちに話が飛びながら、気が付けば5時を回っていた。
キッチンからはシチューのいい香りが漂ってきている。
「シチュー…混ぜたりしなくて大丈夫?」
「はっ!ほんとだ!焦げ付いてないかな」
也映子が急ぎ足でキッチンへ向かう。理人も付いていく。
鍋の蓋を開けた途端、覗き込んだ也映子の眼鏡がまた真っ白になった。
思わず理人が吹き出す。
「ほんと…コントだな」
「見えない。理人くん、混ぜて」
「はいはい」
お玉を受け取って混ぜる。
「焦げてない?底の方」
「うーん…大丈夫そうな気がするけど」
「よかったぁ~…焦げ臭くなっちゃったら台無しだったね」
「なんか、匂い嗅いだら俺、腹減った」
「だね。ちょっと早いけど、食べちゃおっか」
「うん」
ふたりで取り皿やらを準備して運ぶ。
真剣な顔でテーブルにスプーンなどを並べている理人の顔を見て、ふと、也映子は我に返った。
(うちのリビングに…理人くんがいる)
ぼーっと自分を見ている視線に理人が気づいて、声を掛ける。
「…どした?」
「え?あぁいや…改めて、うちのリビングに理人くんがいるって…不思議だなと思って」
理人が吹き出す。
「いきなり、今そこ?」
「いやだって…不思議だから」
「まぁ、俺も昼間思ったけどね」
「え?」
「也映子さんが、俺んちの台所に立ってるの見て。不思議だなぁって」
「やっぱり?」
「思うよな」
「うん」
外で会うのは慣れても、自分の日常生活の一場面に入り込んでいるのは、やっぱり不思議だ。
いつか…そんな日常生活に、当たり前のようにお互いがいるようになる日が来るんだろうか。
そんな思いが一瞬よぎって、也映子は頭を振った。
「理人くん、ご飯、どのくらいよそう?」
「うーん、とりあえず普通で」
「はーい」
器にご飯をよそい、シチューを掛けようとしていると、理人がちょうどキッチンに来た。
「あれ?ご飯少なくない?」
「え?そう?うちでいう普通だけど」
「なるほど。普通が違うのか。もう少しよそっていい?」
「もちろん。このくらい?」
也映子が少し足して尋ねると、理人が頷いた。
ビーフシチューを掛ける。いい香りが漂う。思わず也映子は深呼吸した。
「なんかさ~、もう、匂いから美味しそうじゃない?」
「鼻開いてるよ」
思わず也映子がぱっと鼻を手で覆う。それを見て理人が笑った。
「でもまぁ、確かに美味そうな匂い」
「ね~!食べる前からもう、お替りしたい」
「気、早すぎ」
食卓には、也映子が作ったポテトサラダに、新玉ネギと豆腐の和風サラダ、也映子の母が作り置きしておいてくれたという浅漬けが並ぶ。
「なんか、ビーフシチューの割に、微妙に和風寄りな副菜になっちゃった」
「いんじゃね?どれも美味そうじゃん」
「そっか」
「では」
「うん」
「「頂きます」」
向かい合って座ったふたりの声が揃う。
理人はスプーンで掬いあげながらも、也映子の最初の一口が吸い込まれる瞬間を見守った。
口に入った瞬間、也映子の表情が崩れる。
「んんん~!!!うまっ!すっごいおいしい!」
「…まじで?」
その也映子の顔を見届けてから、理人もスプーンを口に運ぶ。確かに美味しい。
「ねぇ、凄くない?初めてでこれ、凄くない?…まるでお店で食べてるみたい!」
「テンション上がりすぎ」
突っ込みながらも、也映子の幸せそうな顔が理人は嬉しい。
「私、自分でこんなに美味しいシチュー作れたことないよ!理人くん、すごい!」
「いやまぁ、也映子さんが一緒にやってくれたから、出来たんですよ」
「でも、最初に考えて幸恵さんからレシピ貰ってくれてたのは理人くんじゃん」
「それは…そうだけど」
「だから、ありがとう!」
「うん…じゃあまぁ、そういうことで」
興奮しながら、はふはふ食べている也映子が可愛い。
「火傷しますから、ちゃんと落ち着いて食べて下さいよ」
「大丈夫だよ~、大人なんだから」
「はいはい」
「理人くんこそ、人参残しちゃダメだよ」
「食べてますよ」
「そもそも少ないもんね」
「…で、こっちのポテトサラダに、人参入れたな」
「入れた」
「なんでだよー。人参、要らないだろ」
「でも、めっちゃ薄切りだよ。しかも火通してあるから、人参感ないって。食べてごらんよ」
理人が渋々一口頬張る。食べた後、表情が変わった。
「…ほんとだ。人参、感じない」
「でしょでしょ~」
也映子は得意げだ。
「このお豆腐も、美味しいんだよ。うちはお豆腐は必ずここのなの」
「こだわりあんなぁ。豆腐なんて、どれも一緒じゃないの?」
「違うんだって。食べてみて食べてみて~」
「はいはい、順番にね」
也映子と囲む食卓は、賑やかで会話が尽きない。
也映子が美味しそうに食べている姿を見ながら食べていると、不思議とそれだけで満たされるし、食事ってこんなに楽しかったのかと理人は思う。
願わくばこれからも、ずっと、食卓の向こう側に、也映子が居てくれたらいい。
思わずそんなことを考えている自分に、理人は少し驚いた。

「…ほんとに美味しかったぁ。ありがとうね。ご馳走様」
也映子が二人分の食器を持って立ち上がる。
「なんかお茶入れるからさ、理人くん、そっちのソファででもゆっくりしててよ」
「片付けは?」
「私、ちゃちゃっとやっちゃうから、大丈夫!」
「俺もやりますよ」
「いいからいいから」
「いやでも…」
早く終わらせて、ふたりでゆっくりしたい。
理人が食い下がろうとすると、也映子が戻ってきて顔を覗き込んだ。
「…顔」
「え?」
真顔で急に近づいてきた也映子に、少しドキッとした。
「理人くんの顔。すっっっごい、疲れた顔してるよ」
「…そうかな」
「そうだよ。さっきだって、ソファでぐったりしてたでしょ。こぉーんな顔して、頑張って作ってくれてたから」
也映子が眉間に皺を寄せて、わざとらしくしかめ面を作る。
「バカにしてんの?」
「してないって。一生懸命さが伝わってきたってことだよ。」
「…子ども扱いかよ」
「そんなことないよ。嬉しかったの」
也映子が柔らかく微笑んだ。
「そもそも、このところ寝不足でしょ?顔色もなんか青白いし。それなのに慣れない料理なんてしてくれてたんだもん。今は休んでてよ。ね?ホラホラ」
促されてソファまで連れていかれる。
也映子はテレビをつけてリモコンを理人に渡すと、鼻歌を歌いながらキッチンへ戻っていった。
とすぐ、大きな声を上げた。
「あ!」
「どした?」
「お茶より、お酒にするー?…でも、疲れてたら酔い回っちゃうかな。帰り道危ないか」
帰りの心配をする也映子に、ちらりと目を遣る。
(…っとに、也映子さんは。)
「…いや、ビールで。寒いし、少しずつ飲んでます」
立ち上がり取りに行こうとした理人を、也映子が制した。
「だから、休んでてって!今持ってくよ~」
「…なんか、サービスよくない?」
「んー?…そうだね。美味しいシチュー食べさせてもらって、今、懐広くなってるかな」
ははは、といつもの笑い声と一緒に、也映子はビールを持ってきてくれた。
テーブルに置いて、そのまま也映子はキッチンに戻る。
テレビでは、バラエティ番組がにぎやかな声を張り上げていた。
画面に、あの也映子に似ている女優が映った。
先日ポスターを見かけた映画の番宣のようだ。
映画の映像が少し流れて、走ったり、悲しそうだったり、深刻な顔をした彼女が、最後に俳優に抱きしめられている。
なんとなく現実世界の也映子を確認したくなり、キッチンの方へ目を遣ると、視線を感じたのか也映子が顔を上げた。
「…ん?どした?」
「あ…いや、なんでもない。…ただ、いるの確認したくなっただけ」
「なんだそりゃ」
明るく笑い飛ばす也映子の声に、安心する。
間もなく、皿洗いを終えた也映子がビール片手にやってきて隣に座った。
「…面白い?」
「いや、ぼーっと見てただけ」
「普段、どんなテレビ観てるの?」
「基本あんまり観ないな。居間は兄貴夫婦がいること多いし、自分の部屋にはテレビないんで。そもそも、大学行ってバイト行って帰ったら勉強で、あんまり時間もない」
「まぁ、確かに」
「それに、テレビ観てる時間あるなら、也映子さんに電話してる」
思わず理人の顔を見る。
やや上気して紅を差したような頬に、トロンとした目で、こちらを見ていた。
まだ一本目のビールだというのに、酔いが早い。やっぱり疲れているからなのか。
酔いが回っていそうな理人の目は、妙に艶っぽくて、なんだか直視できない。
いたたまれずテレビに目を逸らしていると、理人の手が也映子の手に触れた。
理人は指を絡めて也映子の手を握ると、そのまま絡めた手を自分の方に引き寄せた。
也映子の胸の鼓動が早くなる。
(こ、これは…どうしよう)
心とは裏腹に、口からは意外と平然とした言葉が出てきた。
「…最近、ほんとに勉強頑張ってるよね」
「本気で、受かりたいと思ってるから」
理人は、今年の試験問題を試しにやってみたら、想像以上に分からなかったことに少なからず焦りを感じていた。
春休みが明ければ、また新しく覚えることが山積み待っている上、6月末からは長い実習が入っている。
受験までまだ1年あるとはいえ、もう少し受かりそうな自信をつけたかった。
「昨夜も遅かった?」
「2時半くらいまでやってたのは覚えてる。気づいたら寝てた。そんで、起きたら也映子さんがいて…ビビった」
理人の言葉に也映子が笑う。
「…でも、今日の分まで、やっときたくて。」
「今日の分?遅くなってもいいように?」
「今日、泊まりになってもいいように。…ってか、泊まらせてもらえるように」
ビールに口をつけようとしていた也映子の動きが止まる。
真顔になって理人を見た。
「それは…こないだ電話でも、言ったと思うけど」
「言われたけど、ごめん、納得してない」
也映子の言葉を遮るように、理人が続ける。
「…ご両親のいないときに、俺が来ること自体はダメじゃないのに、どうして泊まりはダメなわけ?」
「…そもそも、理人くんだって、連日無理してる疲れもあるだろうし、急じゃ泊まりの用意だってないだろうし。うち、男物の寝る服とかもないし…」
ビールを置いた也映子の手が、ニットの裾をいじいじと摘まんでいる。
目線も理人に合わせない。
こういうとき、也映子が本音で言いたいことを言っていないことを、理人は経験から知っている。
「疲れてるのは、大丈夫。今日昼まで寝てたし。泊まりの用意も、もしかしたらOKしてくれるかも、って思って、念のため持ってきたから平気。俺、行き当たりばったりしない主義だし」
也映子の目線が泳ぐ。確かに、理人はいつもより大きめの鞄を背負ってきていた。
「でも、本筋はそこじゃないよね?也映子さんが引っ掛かってるとこって」
少し間が空いて、也映子がちらりと理人を見てから口を開く。
「だから…まだちゃんと、理人くんのご両親にご挨拶してないから」
「もう、也映子さんと付き合ってることは、うちの家族、もちろん両親も知ってるよ」
「それはそうかもしれないけど…それについて、どう思っているかは、分からないでしょ」
理人は一瞬、也映子の言っている意味が分からなかった。思わず眉間に皺が寄る。
「え?…それって、也映子さんが、うちの両親にどう思われてるかってこと?」
也映子は躊躇いながらも小さく頷いた。
「その、私みたいな…アラサーが、まだ若干21歳の息子の彼女って…結構ビミョウなお気持ちだったりするんじゃないかと…」
俯きながら、相変わらず裾をいじりつつそんなことを言う也映子に、理人は小さなため息をついた。
繋いでいる手はそのままに、空いている方の手で携帯を取り出し、電話を掛ける。
也映子は怪訝な顔で理人を見た。
何回かの呼び出し音の後、明るい声が也映子の耳にも漏れ聞こえてきた。
〈はーい!もしもし、加瀬です〉
「あ、芙美さん?あの、理人です」
〈あー!理人くん!帰ってきたら、也映子ちゃんもういなくなってて、お義母さんたちガックリしてたよ~〉
芙美の言葉に、也映子の顔が曇る。
やはり、ご挨拶もなしに上がり込んだ上、お帰りを待たずに立ち去ってしまったのは、よくなかったのではないか。
也映子の表情の変化を目で追いながら、理人が続けた。
「そのことなんですけど…母さん、いますか」
〈いるよいるよ~!ちょっと待っててね〉
芙美の声は高くて大きくて、電話越しでも表情が浮かんでくるようだった。
少ししてから、やや落ち着いた女性の声が聞こえてきた。
〈はいはい、電話代りましたよ~。どうかしたの?…っていうより、んもう!今日也映子ちゃん来るなら、そう言っておいてくれたらよかったのに〉
「そのことなんだけど。明日、也映子さん、うちに連れていきたいんだけど、いい?」
一瞬間があった。
不安がよぎって也映子が顔を上げた瞬間、電話口から歓声が聞こえた。
〈え、えぇぇ!!!も、もちろん!もちろんよ!いい、いい!大歓迎に決まってるじゃない!〉
途端に先ほどの芙美よりも甲高い声に変わり、也映子の耳にもはっきりと理人の母の声が届いた。
「付き合ってるってことで、正式にちゃんと紹介したいんだけど」
〈いい!いい!待ってる!もう本当に待ってる!!!お昼、召し上がっていって!!!〉
理人の母の声の後ろから、内容を察したのか、芙美がキャーキャー言う声まで聞こえてきている。
「うん、ありがとう。あ、あと、もし也映子さんがいいって言ってくれたら、今日泊まってくから」
理人は也映子を見ながら話している。
也映子はポカンと口を開けて、パチパチと瞬きをした。
〈あらまぁ!はいはい。あ、でも也映子ちゃんにご迷惑おかけしないようにね!あと、也映子ちゃんにもよろしくお伝えしておいて!待ってるからって!〉
「うん、伝えとく。じゃあ、そういうことで。また後でLINE入れるから」
とにかく展開についていけずに、也映子はただ口を開けて黙って話を聞いていることしかできなかった。
理人が電話を切った後も、まだ頭がついていかなかった。
「…と、いうわけで。うちの親は也映子さんと付き合うことをむしろ推し進めてるくらいです。明日、ちゃんと挨拶に行こう。…これで、不安材料、なくなった?」
理人は真剣な眼差しで真っ直ぐに也映子を見ている。
也映子は、思わず笑ってしまった。
「…なに?」
理人が訝しがる。
「ううん。まさか…ここまでやってくれるとは、思わなかったから」
「やるよ。やんないと、また也映子さん一人で不安膨らませて、変なこと言い出したら困る」
「うん…ありがとう」
也映子がおでこを理人の胸元に預けた。
「で。…泊まらせてもらっても、いい、ですかね」
「うん」
也映子の返事を受けて、理人の顔がほころぶ。
理人は空いている左腕を也映子の背中に回して、也映子に唇を重ねた。
お互いの唇から、ほろ苦いビールの香りがした。
理人の口づけはどんどん深くなっていく。
口づけの深さに呼応するように、自分の鼓動が早くなっていくのを也映子は感じた。
どうしよう、と思っていると、ソファに押し倒された。
「ちょっ…!ちょっと、待って!ここ、リビングだから」
「やだ」
理人はお構いなしに耳や首筋に口づけてくる。
背筋にゾクリと這い上がってくるものを、也映子は必死に遠ざけた。
ここは実家のリビングだ。
ここで始まってしまうのはさすがに困る。
でも、理人をどう制止したらいいものか。
理人の唇に触れられていると、頭のどこかが痺れてしまって、冷静な判断ができない。
少しして、強張る也映子の体から、也映子が本当に困っていることに理人が気づいた。
「ごめん。…也映子さんの部屋、行っていい?」
也映子がほっとしたように頷く。
理人は立ち上がり、也映子の手を引いた。

暗い部屋に灯りを点ける。
リビングと違い、也映子の部屋はひんやりと肌寒かった。
理人が荷物を下ろす。
自分の部屋に理人がいる、というだけで、也映子はどこか落ち着かない。
(とりあえず、今朝、念を入れておいてよかった)
「…ここも、少し暖房つけておけばよかったね。これじゃ寒…」
エアコンをつけていると、理人が後ろから抱きついてきた。
「くっつけばあったかいよ」
そのまま抱き上げられて、ベッドにふたりで倒れこんだ。
理人はどんどん唇を重ねてくる。
手が也映子のニットの下に滑り込んできた。
理人の手がニットをまくしあげ始めて、也映子は慌てた。
「ちょ…ちょっと待って!」
「…えー?また?」
「あ、明るいから。電気、消させて」
「たまには、明るいのもいいじゃん」
「やだよ。恥ずかしいよ」
「その、恥ずかしがってる顔を、見たいんだけど」
「はい?」
何を言い出すんだ、と顔が赤くなる。
「也映子さんの表情とか、反応とか…感じてるとこを、もっと見たい」
瞳を見つめられ、真剣な声でそんなことを言われると、息が止まりそうになる。
そのまままた始まりそうになるのを、必死で制した。
「ま、待って!枕元の灯り、つけるから。部屋の電気は消させて」
「…分かった」
理人がベッドを出て灯りを点けると、戻ってきてそのまま也映子に覆いかぶさった。
也映子も、先ほどの電話の嬉しさと安心感から、いつもより自分のタガが外れているような気がした。
理人の手が也映子の服を次々と解いていく。
也映子も、理人の服に手を伸ばして、脱ぐのを手伝った。
背中のホックを器用に外すと、理人の手が也映子の胸を捕える。
也映子も、自分から理人の体に口づけ、触れた。
理人が少し驚いた顔をしている。
「少し私も…自分から、いってみようかな、なんて」
「…うん。めちゃくちゃ、嬉しい」
理人の手が、唇が、也映子を泳ぐ。
理人の指先が触れるだけで、也映子の体は熱をもつ。
その上口づけられて見つめられれば、十分すぎるほど、体はもう理人を求めている。
抗いがたい気持ちの波にさらわれそうになる。
「もっと…俺に、触って」
耳元で囁かれるだけで、こんなにクラクラと眩暈がしてしまうことを、この青少年は分かっているんだろうか。
「…也映子」
いずれにせよ、おそろしく魔性だ。


(つづく)