第二話「特別なレシピ」前編

午後3時、魔法学院以下の校時間もあって、アストラの店内は徐々に学生たちで賑わい始めた。

紺色のローブに身を包んだ若者たちが、魔法の練習や課題の話で店内を活気づけていた。

 

「お待たせしました。ラベンダーシロップのカフェラテと、ブルーベリーのマジカルスコーン」

 

浮遊するトレイからカップを受け取ったルナは、窓際の席に座る少女に微笑みかけた。

ソフィア・ブルームフィールド。

彼女は3ヶ月前から毎週のようにやって来る常連だ。

 

「ありがとうございます…」

 

いつもの明るい様子とは違い、今日のソフィアは元気がない。 

机の上には『中級から上級への道 〜属性魔法の深層理解〜』という分厚い魔導書が積まれ、そのページには魔力反応のある付箋が無数に貼られていた。

 

「昇級試験、大変ですか?」

 

「え?、あ…」 ソフィアは疲れた表情で聞こえた。 

「来月、中級魔法師から上級魔法師への昇級試験なんです。でも、火属性の制御が全然うまくなくて…」

 

昇級試験は魔法使いにとって重要な節目だ。 

 

特に中級から上級への昇級は、複数のプロパティを同時に操る技術が問われる難関として知られている。 

この試験に合格しなければ、魔法省や魔導ギルドでの昇進はもちろん、高度な魔法具の製作許可も得られない。

 

「前回の実技試験では、火の強さを抑えようとしすぎて、逆に暴走しちゃって…」ソフィアは肩を落とした。

 

「あの、ルナさん」彼女が優そうに声を潜めた。 

「噂では、このお店のコーヒーには魔力を整える不思議な力があるって…」

 

ルナは一瞬、モカの言葉を思い出した。

自分のコーヒーに込められている魔力のこと。でも、それを意識しすぎてはいけない――。

 

「そうね、特別なブレンドを考えてみましょう」

 

ルナは棚から、古めかしい革表紙のレシピノートを取り出した。先代から受け継いだこのノートには、様々なブレンドのレシピが記されている。

 

「あら?」

 

ノートの真ん中辺りから、一枚の紙が滑り落ちた。見覚えのない、古い羊皮紙。
そこには、『魔力の調和 〜五大元素の均衡〜』という前向きの表記と共に、詳細なレシピが
されていた。

 

「これは…」

 

「何かいいものが見つかりましたかにゃ?」

 

「!」

 

カウンターの上に、いつの間にかモカが座っていた。昨日と同じように、優雅な姿勢で尾を揺らしている。

 

「モカさん!いつの間に…」

 

「秘密のレシピを見つけたみたいですねぇ」モカはやりました笑った。

 

「え?私のこと知ってるんですか?」ソフィアが見た様子で声を上げる。

 

「この店の常連さんのことは、ほとんど把握していますにゃ」

 モカは当然のように答えました。

 

INIC coffee