数ヶ月前。
まだまだ寒さが身にしみる季節の夕方、最寄り駅の近くで車を一時停止して人待ちをしていた時のことだ。
助手席の窓をトントンとたたく人がいた。
見てみると老人が立って運転席の某を見ている。
老人はきちんとした身なりで、ホームレスのようではない。
某、窓を開ける。
すると老人がA4位の紙を差し出しながら話しかけてくる。
老人「来週の水曜日にお金が入るので500円貸してもらえませんか?」
某、予想もしなかったことなので逡巡したが、咄嗟に「無理です」と反応していた。
老人は「無理ですか!」と言ってからもその場に立ち尽くし某を見ていた。
おそらく数秒のことだと思うが、某にはちょっとした時間に感じた。
老人のその眼は決して怒っているわけでもなく、開き直っているわけでもなく…
なんとか貸してもらえないかと懇願しているような眼に見えた。
ほどなく老人は立ち去って行った。
きっとその夜の食事にも困っていたのかもしれない。
どうしていいか分からずに考えた末の行動だったのか。
差し出したA4位の紙は、入金を示す書類だったのだろうか?
事情は分からない。
しかし某には老人がいつもそのようなことをしているようには見えなかった。
ならば500円位だったら貸してあげればよかったと思う。
それが良いか悪いかは別だ。
少なくとも貸していれば某の気持ちはもう少し穏やかになれたような気がする。
先日「生活保護とびわ騒動」(6月10日記事)を書いていて思い出した一件でした。