8月23日 水曜日
正確には、まだ22日の23時
目覚ましで起きた。
結構寝れたな。。。
もそもそと準備して、最終パッキングを済ませる。
トレランシューズを履く。
岩稜帯はビブラムソールの登山靴に限る。
と去年言ってたけど。。。
やっぱり足元は軽い方が楽。
なので、今年は靴を新調した。
ビブラムソールのトレランシューズを準備していた。
日記には書ききれていないけど、ちゃんと計画を練って、準備は進めていた。
靴紐を締め、車を出る。
見上げる夜空。
あぁ・・・
星空が綺麗。。。
手が届きそうだ。
今日もいい山になるといいな。
ヘッデンを灯す。
家の車のボンネットをパンパンっと叩き
『行ってくるね。』
と、おまじない。
少し歩き、新穂高の登山者センターに登山届けを提出する。
未だに紙で出すのは、ただの拘り。
トイレを済ませて、準備運動して。。。
居合わせた人と少しお話したりした。
槍に行くらしい。
いいね。
と言う事はしばらく一緒に右股林道を歩くことになるかな?
24時を回った所で、スタートする。
あれ?
槍に行くと行っていた人、左俣林道に行っちゃった。。。
まぁこの時間にスタートするんだから、コアな人が多いよね。
僕は右俣林道に入る。
いつも通りの林道歩き。
苦行。
寒いかと思ってソフトシェルまで着込んだけど、今日は気温が高い。
すぐに汗だくになったので、シェルはザックに詰めて半袖になる。
少し歩くと、穂高山荘へのショートカットルートが出てくる。
歩きにくいし暗い内は嫌なので林道を行こうと思ってたけど。。。
なんだか入り口に立派な階段ができてたりして、思わずそっちに進む。
うん、なんだか以前より歩きやすくなってる。
ちゃんと整備されてるね。
そこからはまた林道歩き。
時折吹く風が、火照った体を冷やしてくれるけど。。。
気温がまだ高い。
早く稜線に上がりたい。
たまに沢沿いに出ると、冷たい風が吹き下ろしてくる。
天然のクーラーみたい。
白出沢の水場は、枯れていた。
今年は雨が少ないと聞いていたけど、
ここの水も出ていないとはな~。。。
もともと給水は槍平の小屋でするつもりだったから良いけど。
そこまではペットボトルの麦茶一本で賄うつもり。
でも、予想以上に気温が高く、結構消費する。
配分考えないと直ぐ無くなりそう。
2時、滝谷の避難小屋。
いつもこの時間だね。
丑三つ時にココを通るのは本当に怖い。。。
説明は後でする。
けど、先行者のヘッデンの灯りが見えて、少し安堵した。
人が居る。
それだけで絶対的な安心感。
その方は休憩していたみたいで、パスさせて貰ってそのまま歩いた。
2時40分に、槍平小屋に到着。
ここで水タンクに水を給水する。
ここの水、美味しいから好き。
小屋前で行動食にパンとおにぎりを食べる。
先ほどパスさせて貰った方も到着して、少し世間話。
地元が一緒らしく、少し話し込む。
彼は槍まで行くと言う。
それじゃ、ここでお別れっすね。
また、どこかの山で。
さーて、ここからいよいよ本格的に登山道。
行きますかぁ。
南岳新道を、登る。
過去に通ったことはあるから知ってるけど。。。
ここの道は厳しい急登。
下の樹林帯は荒廃も進み、木の階段が抜けていたり、道が崩落していたり。
結構危険。
でも、新しい梯子もあったり、ちゃんと整備には入っているっぽい。
まぁ初心者は通らない道だし、これでいいよね。
深夜に通るのは初めてだけど。
それにしても、暑い。
ひたすら足を上げ続ける。
最近運動不足だったから、かなり痺れる。
暑さで体力が持っていかれる。
途中、何度辞めて帰ろうかと思ったか。。。
でもやがて、植生が針葉樹林から根曲がりしたダケカンバに変わり始める。
森林限界は近いはず、頑張ろ。
頑張って足を上げ続けると、ようやく支尾根の稜線に出る。
周りは低いハイマツの一帯に景色は変わり、冷たい風が吹きつけ、火照った体が一気に冷やされる。
涼しい♪
ほどなくして、尾根沿いにある救急箱に到着。
槍平小屋の方が置いてくれている、緊急時用の救急箱。
ここの道の登山中の目安になるランドマーク。
ここまで1時間半か。。。
結構かかったかな。
一般のコースタイムより速いけど、僕的には遅い。
4時30分頃、
ぼんやりと空が明るみ始める。
もう、ヘッデンも要らないかな。
しばらく気持ちの良い風に吹かれながら、標高を稼ぐ。
やがて道は一旦南沢に降りていく。
南沢のカールを詰める。
ザレた沢は登りにくい。。。
でもここには、小さなお花畑がある。
一生懸命に、短い夏を咲いている。
この花はウサギギク、高山植物。
花弁がウサギの耳みたいだから、そう呼ぶらしい。
かわいいよね。
山で花を眺めるのは、好き。
元気を貰える。
僕もあと残り少ない人生を、一生懸命咲かせるよ。
ただ枯れていく人生では、終わらせない。
そこから再び支尾根の稜線に戻る。
稜線に出る直前に、ちょっとしたポイント
下が無い丸太橋を越える。
タマヒュンポイントらしいけど、全く怖くないんだよね。。。
ここを越えると、再び稜線に。
振り返ると、笠ヶ岳に朝日が当たる。
おはよう、笠ヶ岳。
今日も綺麗だね。
いつか、緑の笠にも行ってみたいな。
朝一番に槍様の姿も見えた。
やっぱり槍ヶ岳は、圧倒的な存在感だね。
何よりカッコいい。
でも、結果的にこの日槍様の姿を見たのは、これが最初で最後だった。
やがて、南岳の小屋に到着。
小屋の前をスルーして。。。
稜線に出た瞬間に飛び込む景色。
Good Morning世界!
おはよう
今日もよろしく!
太陽、暖かいね。
漆黒の世界からの解放。
全てに光を灯し、様々な色合いを与える。
太陽系唯一無二のエネルギー源。
単純な物理現象による核融合反応、壮大すぎる。
足元の草木が朝露で湿っていたのに、一気に乾き始める。
この瞬間が好き。
山って不思議だね。
当たり前の光景が、一つ一つ凄い事に思えてくる。
なんで空は青いの?
どうして夕日は赤いの?
そんなん、説明したらただの物理だ。
でも、山で見るそれは、ただの物理には思えない。
普通の朝日に、心から感動できる。
山の上ってだけなのにね。
稜線の岩の上にザックを降ろし、小休止する。
景色を眺めながら、再びパンとおにぎり食べる。
最高か。
時間は5時40分。
うーん
槍に行こうが、南岳新道登ろうが、穂高山荘へ行こうが、新穂高を0時にスタートするとどこに登ってもこの時間に穂高の稜線に出るね。
やっぱり、横移動の時間じゃ無くて、標高を稼ぐ時間の方が優先されるって事か。
距離で言えば槍に行くのが一番移動距離が大きいんだけど。。。
一番短い穂高山荘へ上がるのと時間が変わらない。
僕の場合、軽装だと1時間あたり350mの標高を稼ぐ。
過去最高は400m超なんて時もあったけど、もうそんなに若くない。
太陽を眺めおにぎりを頬張りながら、そんな事を考えて居た。
おにぎり、んまい。
さーて。。。
ここでヘルメット装備。
行くよ。
今回の目的地。
大キレットへ。
ちなみに、キレットと言うのは山と山の間をつなぐ稜線が、深く落ち込んでいる所を言う。
日本には有名な3大キレットと呼ばれる場所があり、ここはその一つ。
穂高連峰の南岳から北穂高岳の間が大きく切れ落ちている上に、ルート的に落ちたら助からない場所が多く、また岩場も結構難しい。
特に飛騨側の滝谷に落ちれば、まず助からないだろう。
難易度のグレーティングはかなり高い。
そしてこの場所を、大キレットと呼ぶ。
他に有名なのは、不帰キレット、八峰キレットかな。
僕にとっても、大キレットは初のチャレンジになる。
行きますか。
南岳の小屋から、キレットに向けて再び標高を下げる。
ザレた登山道に、梯子と鎖の連続で高度を下げる。
いきなり200m強下げるとか、鬼下り。
まぁでも。
南アルプスの無慈悲な500mクラスのアップダウンに比べれば、200mなんて大した物じゃ無い。
一旦降りると、しばらくは難しくない。
朝一に小屋を出た集団をどんどんパスしていく。
こっちは軽装だからね、軽いから速い。
軽いと速いと言うのは、物理的にも証明される。
振り返ると結構な岩壁。
あれを降りてきたんだね。
真正面には北穂高岳が見えるはずなんだけど、ガスの中で見えない。
上り下りを繰り返し、
やがて、キレットの間にある長谷川ピークに来た。
名前は良く聞くね。
そしてまた下る。
道は難しいのは難しいんだけど。。。
鎖やステップが沢山あって、少し拍子抜け。
どれも使わないけど。
自分で岩をホールドして上り下りする。
でも、下を見ると解る。
落ちたら助からないね。
これ、雨が降って岩が濡れていたら怖いな。
そう言う場所が何カ所もあった。
このキレットから落ちて亡くなった人の数は知れない。
なかなかの所に印がついていたり。
結構落ち込んでいたり。
でも、振り返ると通ってきた道。
綺麗。
やがて。。。
雲が切れた一瞬、視界に入る。
目の前に岩壁がそそり立つ。
滝谷ドームか。
初登攀した人に
「鳥も通わぬ・・・」
と言わしめた、日本屈指の岩壁。
それが、滝谷。
あの岸壁を登る人たちが居る。
凄いね。
だから。。。
細かく書くのもあれだけど。。。
朝通るときに怖いと言っていた滝谷の避難小屋。
避難小屋なんだけど、かつてあそこは滑落したクライマーの遺体が一時安置される場所になることもあった。
当時はまだヘリも無い時代だから、皆で担いで滝谷の避難小屋に安置して。。。
下まで下ろせないとなったらそのままそこで荼毘したり。
滝谷の避難小屋で寝ると、夜中に誰かが来ると言うのは有名なお話。
「俺のアイゼンはどこだ?」
と聞かれるらしい。
それが、滝谷だ。
知らんけど。
ま、余談だね。
上を見ると、北穂の小屋も見える。
あそこまで頑張るのか。。。
道は一層険しくなり。。。
これが有名な「飛騨泣き」かな
ここは右も左も、どっちに落ちても助からないな。
特に滝谷の飛騨側はヤバい。
鎖もステップも使いたくないけど。。。
通りたいところにステップがあって、流石に除けきれない。
最初の1段目だけ、ステップを踏んだ。
後は自分で岩を掴んで登る。
意外とホールドある。
いいね。
調子が良い。
既に足はパンパンなんだけど。
体が動く。
難無く、飛騨泣きを通過。
後は北穂に登るだけ。
目の前の岩壁の横を、ひたすら登り続ける。
やがて、あと小屋まで200mの印。
うれしー♪
小屋も見えてきた。
小屋って、見えてからが辛いんだけどね。
ゼーゼー言いながら、小屋に到着。
ついたー♪
時間は7時55分。
ここまで8時間切ったか。。。
大キレット通過に2時間半だね。
ちょっとペース落ちてる。
仕方ない。
運動不足の足には負担が大きい。
ちゃんとトレーニングしないと、やっぱり厳しいね。
最近、体重もまた戻り始めてるし。
小屋のテラスで、休む。
晴れていれば、ここからバーンと槍ヶ岳の姿が見えるんだけど。。。
ガスで見えない。
おにぎりとパンを食べながら、しばらく待ったけど無理っぽい。
思えば、北穂に最後に来たのは。。。
息子が保育園児の時だったかな。
いや、小1だったかな?
まぁ、10年以上前なのは間違いない。
3000m峰チャレンジで、涸沢に泊まって往復したっけ。
懐かしい。。。
少し、昔を思い出した。
あの頃から比べれば、僕もかなり山に慣れたな。
息子と共に、日本の屋根も歩き回った。
この10年、楽しかったな。
元嫁も、協力してくれていた。
懐かしい日々だね。
でも、色々ともういいな。
ホントに、もういい。
そんな事を考えて居た。
とりあえずは、目標だった大キレットの通過。
これを達成したことを素直に喜ぼう。
穂高の稜線で、歩いていないのはココだけだった。
一般縦走路でね。
でももう、満足だ。
小屋の売店で、北穂のバッジとマグカップを買う。
10年前に息子と来た時に、買っておけば良かったと後悔していた。
買うのに10年かかっちゃったよ。
…さ、行くか。
今日の目標を達成しても、ルート的にはまだ半分。
ここからも厳しい。
~後半へ














