080912



いや~、暑いんだか寒いんだか分かんないっすね。
今日は真っ昼間に美容院へ行ってきたんですが、NHKの天気予報で仕入れた「今日は30度越えの残暑」情報なぞ完無視して五分袖ニットワンピとロングブーツで表参道に降り立ってやりました。一度シーズンを越えた装いをしたら後には引かぬ!!!!あちーマジで。

…とファッション繋がりでH&Mなんかの話題に行くと見せかけて「あしたのジョー」考をお送りします。


本当に恥ずかしながら「あしたのジョー」を初めて読んだのです(電車でバッグから取り出すと視線が痛い)。全20巻一気に読破しましたが、うーん…そりゃぁ面白かった。圧倒されるというか、置いてけぼりを食らうというか、読者を突き放すような作品でした。もちろんいい意味で。
以下、「あしたのジョー」の魅力についてヘボヘボながらも考えてみます。


「ボクシングマンガ」というと「はじめの一歩」世代の私。連載開始時からマガジン本誌で愛読し、最近は単行本で目から汁が出るほど楽しませて頂いています。ご存知のように「はじめの一歩」もイマドキのマンガにしては相当ドロ臭くてその熱量に圧倒される作品ですが、「あしたのジョー」はそれとはまた全然別の、ギラギラした輝きが溢れている。

数ヶ月前、CSのヒストリーチャンネルで放映していた「ニュース映画で見る昭和」というシリーズ番組を見て大変なショックを受けたのですが、「あしたのジョー」を読んでその衝撃が胸に甦り、更にその作品世界に入り込むことができました。ヒスチャングッジョブ。「ニュース映画で…」を簡単に説明すると、日本激動の高度成長期に於ける政治・経済・商業の発展やそれに伴う様々な問題、庶民の暮らしぶりや都市の様子などなどを、豊富かつ貴重な映像で詳らかに見せてくれるドキュメンタリー番組です。

その番組で見た昭和の日本は、私が見たことの無い日本でした。人々は貧しくて、無知で、粗野で、みすぼらしくて、けれどもそれを補って余ある荒々しいパワーを放出し、ぶつかり合い、国家権力と戦い、敗戦国である自国を経済大国に押し上げていく程の計り知れない「熱」が、陽炎のように立ちのぼっている。現代の取り澄ましたおりこうで気の弱い日本人のイメージからはほど遠い…!

「あしたのジョー」はそんな時代の人々に愛されたマンガなのだという事実。当時の人々は、明日をも知れないみなしごで乱暴者のジョー、胸にこびりついた孤独を掻き消すようにリングに上がり、無謀だと言われる戦いばかりに挑み続けるジョーに自分たちの姿を重ね、心の支えにしたのでしょう。泪橋を逆に渡る日、栄光を手にする日を夢見て。我らが日本は正にジョーのように、暗中模索・やぶれかぶれで今日に辿り着いたのです。


また、主人公ジョーの心情が推し量れるようなモノローグはほとんど無く、読者はその不可解な行動に只ひたすら「ど、どうなっちゃうんだろう?!」と翻弄されるばかり。最後の最後まで、正体不明のヒーローであり続けるのです。周囲の人間のみならず、読者の感情移入すら許さない程の、ジョーの孤独。武士は食わねど高楊枝。なんだか寂しくなってしまうが、なんてカッコいいんだ!と思わずにいられない。リアルタイムで読者だったなら、こんな風に生きたい!と奮い立っていたに違いない。

しかもジョーは、かわいい。私は男の人特有の意味不明の強情さだとか無鉄砲さに出くわすにつけ「しょうがないなあ」という言葉が口をついて出てくるのですが、これは諦めと愛情の言葉。どんなに強いボクサーになってもいつも体育座りでうつむくジョーを見ると、しょうがないなあ大丈夫だよと背中を撫でてあげたくなる。
でもジョーは私達を置いてけぼりに、自分だけを見つめて、自分の思うままに燃え尽きてしまう。あっけに取られる。


という観点から「はじめの一歩」を考えてみると、非常に親切で分かりやすく、感情移入しやすいことこの上ない。魅力的な登場人物たちや彼らの闘いぶりを丁寧に丁寧に描き、読者に対して彼らと共に泣き笑うことを許している。一歩は暖かい仲間と共に、現代に生きているのだから、同じように恵まれた現代に生きる私達が感情移入しやすくて当然だ。実際私は「あしたのジョー」では興奮こそすれ泣けなかったが、「はじめの一歩」では何度も何度も泣かされた。数々の名ファイトを思い出すだけで、胸がふるふるしてくる。

しかし「あしたのジョー」に代表される往年の名作マンガは大概、怒濤のストーリー展開で非常にスピーディー、そして突然物語は終焉を迎え、多くを語らず読者の想像に委ねる。現代の若者たちは、「あしたのジョー」を読んで興奮し、面白いと思うのだろうか?思わないのだとすれば、親切に一から十まで説明され、どうも初めまして私はこういう者ですと暖かく迎え入れられることに慣れすぎてしまったということなのだろうか。所謂「想像力の欠如」というやつ。

毎日垂れ流しにされるアホみたいなニュースを聞くにつけ、いつからか「想像力の欠如」という言葉ばかりが浮かぶのです。想像してごらん!想像できる??とは早過ぎた変態天才岡村ちゃんの名台詞ですが、本当にそう。他者について、自分について、世界について、もっと想像してごらんよと。モンスターペアレントだの政治家だの自殺する人だの他殺する人だのマスコミだのの皆さんさあ。


おかゆのような柔らかいものばかり食べていると、胃はそれ以上硬い食物を消化吸収できなくなってしまうと言いますが、それと同じような現象が現代日本人に起こっているのかも。私も「あしたのジョー」のような手強い食べ物を消化できなくなってしまわないように、用心して生きていかなければ…。だってすごい栄養を与えてくれる作品なんですから、もったいないでしょ。

「立て!立つんだ日本人!」と、段平おやじがリングサイドで叫んでいる気がする。気のせいかもだけど。