ー 捨てたられた者、捨てられなかった物 ー

「ギャハハハ~!サキをLINEのグループから黙って外しちゃおうよ。

友達大事にしない奴、最低~!」「あはは~!」

と、女友達のバカ笑いは続き、沈んだ私の心にナイフのように突き刺さる。

「ねーねー、ノブコ、聞いてる?さっきからボーっとしちゃってさ。

もう酔っ払っちゃった?カメラ持ってきたんでしょ?写真撮ってよ。」

と、ミチルは、相変わらずの図々しさだ。

 

 

 カメラは、ツトムからもらった初めてのクリスマスプレゼント。

「クリスマス一緒に過ごせなくて悪かった。これで機嫌直して。」って、

憎めない子犬のような顔で渡されたんだった。

「レトロなデザインがカワイイんだよね。どうしよう。買っちゃおうかな〜。」

と、何気なく話していたことを覚えていたらしい。

普通、浮気相手に、そんな些細な会話まで覚える⁈

はぁ〜。ホントに人たらしで、優しくて、憎めない人。

でも、悪い人だった。信じちゃいけない人だった。

ツトムが買ってくれた誕生日プレゼントも、クリスマスプレゼントも、

そして、カメラで撮りためた二人の思い出も全て捨てられた。

だけど、このカメラだけは手放せなかった。

カメラで写真を撮ることが、私の癒し。

どこにでも持ち歩き続けたカメラは、もうすでに私の体の一部。

 

 

 

 私は、この場に全くあっていない低いテンションで「別に、いいよ」と言って、

カバンからカメラを出し、レンズのキャップを外していると、

「ねー、ねー、そのカメラ誰にもらったんだっけ?」と

ニヤニヤしながら、ミチルのお節介がまた始まった。

「それ、言わなきゃダメ?」

「元カレからもらったんだよね〜!」と、嬉しそうにミチルが言うと、

みんなが笑うにも笑えない、沈黙の変な空気が流れた。

すると、すぐに場の空気を変えようと

「ノブコ、仕事やめたんでしょ?これからどうするつもりなの?」と

私の秘密をみんなにバラし、わざわざ心配そうなふりをして聞いてきた。

 

 

 短大卒業後に、とりあえず就職した職場は、

仕事自体は淡々とこなすだけの事務職で良くもなく悪くもなかったが、

職場の人間関係が地獄のようだった。

従業員が十数人の小さな会社だったから、

感情の振り幅が激しい社長のご機嫌次第で、私たちの感情さえも振り回し、

機嫌が悪い時には、八つ当たりのように仕事ができない社員を

「ここにいるのは、バカな奴らばかりだな!」と怒鳴りつけていた。

しかし、社員もただのバカではない。

影では、社長の事を鼻で笑い、誰も社長の話なんて聞いてもいなかった。

敬うフリをしている社員にも気づかない、優位な立場だけが武器のパワハラ社長も、

エゴ丸出しの社員達も地獄に落としあってるとしか思えなかった。

その醜い人間社会を見てるのが辛くて、何度も辞めようとしたが、

新しい仕事を探すことが、そもそも面倒だったし、

何の才能もない私は、どこで働こうとも、どうせ辛い思いをするなら

わざわざ、この会社の雰囲気を壊すような

行動を取らずにいる方がいいのかもしれない、なんて考えていたら辞めれずにいた。

 

ツトムと出会ってからは、寿退社することが私の夢だった。

『もしも、ツトムと結婚したら、

ツトムが働いている地方に引っ越ししなけえればいけない。

だから、社長も、同僚も退社を受け入れることしかできないだろう』って

きっと安泰に仕事が辞められると信じていた。

結局、その夢は叶わなかったけれど、

ツトムを公園で見かけてすぐに、会社に辞表を出す勇気は出た。

と、言えばカッコいいが、本当は全て無くなってしまえと投げやりな気持ちで出た行動だった。

案の定、社長は10年近く働いたベテラン社員が辞めることを、

グダグダと引き留めたい本心を隠して文句を言い続け、

同僚達も社長の怒りスイッチを押した私を恨み、

安泰どころか、次の働き場所を探す意欲を根こそぎ奪われるような終わり方だった。

 

*このストーリーはフィクションです。

 

最後まで、読んでいただきありがとうございました。

ブログのタイトルが『5分で読める超短編小説』なのに、

長くなってしまっています。この調子だと、まだ、続きそうです。

よかったら、続きも読んでくださいね。