私の好きな時間は、夏の夕方、だった。

子どもの頃、団地に住んでいた私は、縁側のような風情のあるものはなかったが、

風通しがよく、子どもの私には十分見通しがよく、

暑い1日を終える夕方の夕涼みは最高に気持ちの良い時間だった、のだと思う。

 

子どもにどれほどの感性の記憶があるのか分からない。

とにかく大人になって、好きな時間?というと、夏の夕方になっていた。

薄暮の中、街にあかりがついていく情景も好きだった。

 

しかし、その好きな時間は二十数年前に奪われた。

無くなったのだ。

 

都会では、夕方になっても気温が下がらないばかりか、逆に熱せられたアスファルトから暑い熱気が沸き上がり、昼間の暑さとは違った不快な暑い空気に包まれる。

昼間の暑さが薄らいだその時刻、ただただ不快としか感じられない。

 

しかし、

5年前、信州の小さな村に移住して、私は自分の好きな時間を取り戻したのだ!

 

私には田舎と呼べるものがない。

親は東京と大阪出身、私は物心ついた時には船橋市。

でも、当時の船橋市(私の住んでいた地域)には、田んぼも畑も自然も充分にあり、虫達も普通に共存していた。

大人になって、仕事や遊びで、田舎、と呼べる地域に出かけていくと

決まって感じたものだった。

それは、田舎に来たと言うよりも、子どもの頃の情景に戻ったと言う感じだった。

 

ここ信州の田舎に来ても同じだ。

私は子どもの頃に、一応知っている、自然溢れる空気の美味しいところに来たのだ。

そして、そこには、私が大好きだったものが、まだ存在していた。

 

昼間どんなに暑くても、夕方には涼しい風が吹く。

ベランダで北アルプスを眺めながら夕涼みとばかり缶ビールを飲むことも出来る。

ちょっと虫が多すぎてなかなかのんびり外ではくつろげないのが悩みの種だけれど、

 

「今日は暑かったねぇ」と、汗ばんだ身体が、夕方の涼しい風を受けるのは、

暑い夏の最高の時間だと思っている。

 

地球上から、色々なものが消えていく。

もしも、手に入れることが出来るのならば、それが存在する地に行ってみるのは悪いことではない。