2007年ハンガリー映画です。

とっても良かった。

脚本が素晴らしかった。


ある老夫婦のお話。

彼らはとても貧しく、年金生活者なのだけど、家賃も払えない。

お金がなくなると何かを売って凌ぐような生活。

最後に残ったのが、1959年のなんとかっていうクラシックカー。

夫はそれだけは売らなかった。

そして、夫はそれに乗って銀行強盗をする。

一回目、簡単に成功してしまう。

そして、二回目。


少しお金が入り、妻にテレビを買って送る。

妻に電話して、鉱山で会うことにする。

家には警察が張っていて、妻は刑事の運転するタクシーで鉱山に向かう。


鉱山で再会する二人。

その時の夫の言葉「お前に会いたくなるなんて...」

この老夫婦は、なんとそのまま逃亡してしまう。


そのシーンが笑える。

クラシックカーに妻が乗り込み、そのまま急勾配の鉱山を物凄くゆっくりのスピードで昇っていく。

逃亡に気づいた刑事は、タクシーで昇っていく。

他の二人の刑事はタクシーの後ろを足で登っていく。

こんな急勾配の鉱山、あんな古い車が登れるの?ってクエスチョンで見つめていると、

なんとタクシーだけがバックしてズルズルと落ちてくる。

それに引かれそうになる刑事たち。

そして、足で追っていく刑事たち。

そして...諦める。


この後も、何度も刑事に追い詰められ、刑事が捕まえられないシーンがある。

実際、刑事たちが間抜けなのだけれど、

なんとなく責められないし、笑ってしまう、ほのぼのとしている。

そして、脚本の素晴らしさは、この刑事たちの恋愛関係としっかりリンクしていくところ。


さて老夫婦に戻ります。

この二人は、お金を手に入れて、ブティックで洋服を買う。

老婦人が試着している姿を見て夫が世界中で一番綺麗だと褒める。

豪華なホテルに泊まる。

彼女を王女のように扱う夫。

二人で温泉プールのようなところで過ごしていると

若いアジア人がマッサージをしましょうかと夫に迫り、喧嘩。

そう、とっても普通の夫婦なのです。

毎日の生活の中で

いつも喧嘩ばかりしていた夫婦が、

お金を得て、ちょっとリッチになり、心に余裕が出来て、

お互いを見つめなおす。

初めて一緒に銀行強盗を試みた時、

妻は、そこに初めての夫の姿を見て恰好いいと感じる。

しかし、ちょっとしたことでまた喧嘩になる。

長く連れ添った夫婦なので、

お互いのことを最も良く知っている。

大好きなところも。

しかし、ちょっとしたことで喧嘩にもなる。

そこがとてもうまく描かれていました。


実はこの二人には、普通の夫婦と違う問題がひとつだけ。

30年前に唯一の子どもを事故で失っていた。

それが原因で笑わなくなっていた二人が、

強盗で得たお金で、しばしの間、人生最後のアバンチュールを楽しむ。


その夫婦とつかの間触れ合った女性刑事が、

ちょっとした誤解で別れた男性刑事と寄りを戻す。


年金生活者である二人が、強盗を5件繰りかえし、逃亡を続けていると、

世間の人たちは彼らを肯定し始める。

年金で生活できないのがいけないのだ!

類似犯罪も起こり始める。

誰も、彼らを責めなくなる。


そして、彼らは最後自爆するのだが、

妻の唯一の心残りは「海が見たかった...」

普通の映画だったら、この後ちゃっかり海を見に行っちゃうんだろうなぁって感じた。

いえ、日本の映画だったらかなぁ?

日本映画は海に行くの好きですよね。

これもお国柄?


年配の役者さんが演じていたせいもあるでしょうが、

非常に繊細な心の動きが伝わってきました。

そして、ところどころにキーになる言葉や品物が表れる。

奥さんのダイヤモンドのピアスとか。


凄く普通で、凄く繊細で、少し間抜けで、少し笑える、そして泣ける。

そのバランスが素晴らしく、脚本の勝利でもあると思えます。