・不幸の上の幸福

 

ほのかと恵理は放課後、学校の自習室で勉強をしていた。

 

普段は学校が終わったら部活以外の目的で室内に残ることは許されていないけれど、今はテスト2週間前。

 

この期間は部活禁止だけれども、自習室は5時まで特別に解放されているのだ。

 

といっても丁度2週間前からここを利用する人は少なく、今この部屋にいるのもほのかと恵理の2人だけだった。

 

「ここはこうやるんだよ。」

 

「そっかぁ。なるほど。」

 

勉強が苦手なほのかに対して恵理は丁寧に説明をしてくれる。

 

「私のクラス、最近落ち着いてるんだよね。」

 

少しの休憩の合間に恵理が言った。

 

恵理のクラスである2組は以前まで他のクラスより雰囲気が悪かった。

 

クラスの中に1人、とても意見が強い子がいたからだ。

 

自分の思い通りにならないことがあると不機嫌になり、周りに八つ当たりをするので、次第に誰も彼に口出しできなくなっていった。

 

彼の名は山下かける。

 

周りがかけるの思い通りに動けば動くほど彼の幸福度は上がっていった。

 

彼の心を支配していたもの、それは承認欲求に他ならなかった。

 

さほど目立たない小学生時代を送った彼はクラスの中で目立ちたかったのだ。

 

そのための方法の1つがクラスの中で主導権を握ることだった。

 

だが、それは不幸の上に立つ幸福。

 

彼が欲求を満たせば満たすほど周りの幸福度は下がっていった。

 

「俺に本当の友達はいない。」、彼自身も心の中ではそのことに気づいていた。

 

そんなかけるに目を付けたデストロイアは彼から幸福を奪った。

 

そしてかけるの心の中に残った承認欲求という不幸の残骸をほのかが倒したことによって、彼の心から偽の幸福が消え、承認されたいという気持ちが源流である不幸も消え去ったのだ。

 

かけるの内面が変わったことにより、他のクラスメートも次第に本当の気持ちをクラス内で表出できるようになっていった。

 

かける自身に本当の友達ができたのは言うまでもない。

 

「かける君、最近先生に誉められることも多くなったんだよ。この前もさぁ...」

 

恵理が話している途中、ほのかの心の中に声が聞こえた。

 

「近くにデストロイアの気配を感じる。ほのか、頼むよ。」

 

セイちゃんの声だ。

 

「分かった。」、心の中で頷く。

 

「ほのか、どうしたの?」

 

「ちょっと教室に忘れ物しちゃったから取りに行ってくるね。」

 

怪訝そうに訪ねてくる恵理にそう応えるとほのかは急いで教室に向かった。

 

「嘘だ。」、恵理は心の中で思った。

 

ほのかとは古くからの付き合いだ。

 

お互いのことは誰よりも良くわかってる。

 

「でも、私に嘘をつくような秘密があるんだろうか...」、気になった恵理はこっそりほのかのあとを着けた。

 

ほのかは教室に入ると目を瞑った。

 

次の瞬間、ほのかの身体が一瞬で消えた、ように恵理には見えた。

 

ほのかが世界中の人の心をイメージして異変がある心の中に飛んだのだ。

 

ほのかが向かった先にはこの前と同じ不幸の残骸の姿があった。

 

デストロイアは既に消え去ったみたいだ...

 

とにかくコイツをどうにかしなきゃ... 

 

空中から一輪の花を取ると、それが小綺麗なアクセサリーに姿を変える。

 

「マジカルトランスフォーマー!」

 

ほのかは魔法少女に変身すると空高く舞い上がり勢いをつけて不幸の残骸を殴り付けた。

 

だが、弾力のある身体はその攻撃を受け付けない。

 

空中に飛んで蹴りを浴びせるが簡単に弾き返される。

 

「こうなったら... マジカルシュート!」

 

ほのかが空中から杖を取りその先から黄色い光弾を放った。

 

その時、不幸の残骸が膨張し、色が緑色から茶色に変わった。

 

幼虫から蛹に成長したのだ。

 

蛹となった不幸の残骸の身体はほのかの放った光弾を弾いた。

 

次の瞬間、不幸の残骸の表面が割れ中からどす黒い色をした蝶が現れた。

 

不幸の残骸が成虫になったのだ。

 

それが羽をバタつかせると、無数の火の玉が飛んでくる。

 

「ほのか、気をつけて!」

 

セイちゃんの声を聞いてほのかが身構えたときには時既に遅し。

 

火の玉はほのかに直撃し、彼女は心の中から弾き出された。

 

変身が解除され気を失ったほのかが教室の床に倒れ込む。

 

「ほのか、しっかりして!」

 

それを見た恵理がほのかの元に駆け寄って彼女の身体を揺する。

 

ほのかが弾き出された穴を伝って不幸の残骸も教室に入ってきた。

 

それがほのかの方に向かってくる。

 

「ほのかに手出ししないで!」

 

恵理がほのかの前に立ちはだかった。

 

不幸の残骸が片方の羽で恵理を弾き飛ばす。

 

だが、恵理はすぐに立ち上がった。

 

「ほのかを守らなくちゃ。でも、どうすれば... 私に魔法でも使える力があれば...」

 

そう思った時、目の前に天使のような小さい生き物の姿が見えた。

 

「あなたは?」

 

驚いている恵理に天使のような小さい生き物は言った。

 

「話しはあと。自分がヒーローになった姿をイメージして変身してみて。そうすればほのかを救えるかもしれない。」

 

「うん。やってみる。」

 

そう言うと恵理は叫んだ。

 

「マジカルトランスフォーマー!」

 

空中に一輪の青色の花が現れたそれが小綺麗なアクセサリーに姿を変える。

 

恵理は魔法少女に変身した。

 

「ヒーローと言われて想像した姿がほのかとほとんど同じ...」

 

驚いているセイちゃんに恵理は言った。

 

「長い付き合いだからね。ほのかが何を考えているか、大体のことはわかるんだ。」

 

恵理は魔法少女に変身して女の子らしい格好ができて嬉しかったが、その気持ちは表に出さなかった。

 

ジャンプすると、早速不幸の残骸に攻撃をする。

 

「マジカルフラッシュ!」

 

空中から魔法の銃を取り、後ろから乱射する。

 

不幸の残骸に多少のダメージが入った。

 

不幸の残骸が振り返って恵理に向かって火の玉を発泡した。

 

「マジカルバリアー!」

 

セイちゃんが「危ない」と避けると同時に恵理が空中にバリアをはった。

 

火の玉がバリアで防御される。

 

恵理は不幸の残骸の周りを走りながら銃を乱射した。

 

そして、不幸の残骸の前に回り込むと心臓の辺りに銃弾を3発ほど撃ち込んだ。

 

不幸の残骸はその場所に倒れ込んで動かなくなった。

 

それはその状態でも少し動いていたが1分程経つと光となって消え去った。

 

変身を解除した恵理が再びほのかのもとへ駆け寄った。

 

「ほのか、しっかり!」そう言って何度か揺するとほのかはうっすらと目を開けた。

 

「大丈夫?」

 

「恵理、それにセイちゃん...」]

 

ほのかの身体を抱き起した恵理と空中に浮かんでいるセイちゃんをほのかは見た。

 

そして、小さく呟いた。

 

「うん、大丈夫。ありがと...」

 

「良かった!」、そう言って恵理がほのかに抱き着く。

 

ほのかは恵理に身をゆだねた。

 

意識を失っている間何があったのかほのかに正確に知るすべはないけれど、分かっていることが1つだけある。

 

「恵理が、私を助けてくれたんだ...」