・2つの愛の交錯

 

「じゃあ、またね!」

 

「OK!」

 

学校に着くとほのかと恵理は別々の方向に向かった。

 

2人は別々のクラスなのだ。

 

それでも、2人の気持ちはいつも心のどこかで繋がっている。

 

とても長い期間を一緒に過ごしてきた、友達を越えた間柄なのだ。

 

お互いのことは誰よりも良くわかってる。

 

私は、いや、私たちは離れていても独りじゃない...

 

学校が始まって日直が挨拶を終えると、10分間の朝読書がある。

 

漫画でなければ基本的にどんな本を読んでいても大丈夫だ。

 

ほのかは楽しみにしていた小説の続きを読み始めた。

 

その時、ふと心の中にざわめきを覚えた。

 

頭の中に声が聞こえる。

 

「デストロイアが近くにいる。」

 

それは紛れもなく人の心を守っている精霊、セイちゃんのものだ。

 

「デストロイアが近くにいるの?私はどうすれば」、そう言いかけたほのかに向かって精霊が言った。

 

「この前と同じように人々の心のイメージを思い浮かべて、違和感がある心に意識を集中させるの。この前と同じようにイメージの中でその心に杖で円を描いて。」

 

「うん、やってみる!」

 

そう言うとほのかは目を閉じて学校内にいる人全員の心のイメージを思い浮かべた。

 

近くにデストロイアの存在を感じるということは、彼が学校内の誰かの心の中に入っている可能性が高いと思ったからだ。

 

「ビンゴ!」、ほのかは内心そう思った。

 

真ん中に黒い点がある心が見える。

 

その心に杖で円を描く。

 

その円からほのかがその人の心の中に入り込む。

 

その際、例によってセイちゃんもほのかの心の中に入り込む。

 

「やっと見つけた、デストロイア!」

 

セイちゃんが叫ぶ。

 

そこには高身長で背が高く、目付きがとても鋭い青年が立っていた。

 

周りに負のオーラを纏っている。

 

ほのかは彼のオーラに圧倒され、恐怖を覚えた。

 

立ちすくんでいると彼は維持の悪い笑みを浮かべながら言った。

 

「邪魔者が来たか。まあいい。こちらの用事は既に済んだ。見たところお前らからは覇気を全くといって感じない。いつでも片手で捻り潰せそうだ。」

 

そう言うと空中で指を鳴らした。

 

彼の姿が一瞬で消え去る。

 

ふと心の中に大きな虫のようなものが見えた。

 

それはニョロニョロと動いている。

 

「あれは幸福を奪われたあとの不幸の残骸。不幸の残額は幸福を求めて外の世界に出て他人の幸福を満足するまで奪うの。その前に戦って不幸の残骸そ倒して」

 

「でも、どうやって。」というほのかにセイちゃんは言った。

 

「自分のなりたいヒーローの姿を想像してみて。ほのかが想像したことは全て現実になるの。」

 

「分かった! やってみる!」、そう言うと空中から一輪の黄色の花を取った。

 

この花は現実に存在する花ではない。ほのかの想像力から生み出されたものだ。

 

それが小綺麗なアクセサリーに姿を変える。

 

「マジカルトランスフォーマー!」

 

ほのかが叫ぶと彼女の身体は黄色の光に包まれた。

 

次の瞬間、魔法少女の姿がそこにあった。

 

ほのかが「ヒーロー」と聞いて真っ先にイメージしたのは魔法少女だったのだ。

 

「行くよ!」、そう言うとほのかは不幸の残骸の方に向かっていきそれに蹴りを何発か浴びせた。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「強引すぎるなぁ。」、セイちゃんが頭の後ろに汗をかく。

 

それでも、不幸の残骸は多少のダメージを受けたようだ。

 

少しよろめいた後体勢を立て直すと、ほのかに向かって口から白い糸を吐く。

 

一瞬動きが止まったほのかにセイちゃんが言った。

 

「魔法を使って攻撃を防いで。」

 

「うん、分かった! マジカルスラッシュ!」

 

ほのかがそう叫ぶと彼女の手元に杖が現れ、その杖の先から黄色い光の線が何本か飛んでいく。

 

それが不幸の残骸が口から吐いた糸を切り刻んだ。

 

ほのかがジャンプして、不幸の残骸の後ろに回る。

 

「今だよ。必殺技を放って!」、セイちゃんが言った。

 

「おっけー。私、決めるよ! マジカルシュート!」

 

ほのかの杖の先から黄色い光弾が放たれる。

 

それが不幸の残骸に直撃し、不幸の残骸は呻き声をあげながら光となって消え去った。

 

「やった!」、ほぼ同時にそう言うとほのかとセイちゃんはハイタッチをかわした。

 

「はやく教室に戻らなきゃ...」

 

ほのかは変身を解除すると、クラスの中に戻った。

 

「南瀬さん、途中どこ行ってたんだ?」

 

1時間目が始まる前、担任の伊藤先生が訝しげな顔で聞いてきた。

 

「わ、私ずっと教室で読書していましたよ...」、内心汗だくになりながら答える。

 

「そうだったかなぁ。」

 

不思議そうな顔をする伊藤先生にほのかは言った。

 

「せ、先生はきっと疲れてるんですよ。たまにはゆっくり休養なさってくださいね。」

 

幸い、伊藤先生以外のクラス内の人間はほのかが朝読書の途中いなかったことに気づいていないようであった。

 

その頃、望月湊音はイデアに言われた言葉を思い出していた。

 

「昨日よりも今日、今日よりも明日、ゆっくりでも良いから一歩一歩進んでいけば良いんだ...」

 

実は、イデアは湊音の日常生活を見るにつれて日に日に彼を放っておけないという思いが強くなっていたのだ。

 

一生懸命頑張っているにも関わらず周りから全く評価されない湊音...

 

努力が全く意味をなさないなんて、そんな虚しいことがあるだろうか...

 

イデアの世界には不可能という文字はなかった。

 

そう、人間が想像力を失いつつある今より前は...

 

ファンタジーの世界から姿を消す際、王女であったローラはイデアにこう言った。

 

「たとえ私がいなくなってもあなたは最後まで希望を捨てないで。不可能という文字がある世界でも昨日よりも今日、今日よりも明日と一歩づつ、ゆっくりで良いから一歩づつ前進していけば必ず道は開ける筈よ。」


イデアはその言葉を拳を握りしめながら聞いていた。

 

彼は愛するローラが最後にかれに告げた言葉を湊音に託したのだ。

 

その言葉を聞いた湊音は一瞬イデアの方を見上げると、「ありがとう」と言って大きく頷いた。

 

「だからぼくといっしょに成長しよ。まずは体を鍛えるところからだ。凡事徹底という言葉もあるしね。」

 

そういう訳で、2人はその日から早朝ランニングを始めたのだ。

 

「昨日よりも今日、今日よりも明日... ゆっくり一歩づつ進んでいこう!未来の俺はきっと今よりも成長している筈」

 

強い思いを持って一生懸命練習に取り組む湊音の姿にイデアは心打たれた。

 

そしてイデア自身も心の中に改めて強い気持ちを抱いた。

 

「必ずファンタジーの世界を、ぼく自身の大切な仲間を取り戻して見せる...」

 

2人の強い想いが、今交錯した...