● 迷信・前進・恐怖心
太田高校に通う村上大晴とは夏休みの間も定期的に連絡を取っていた。
大晴は少し変わったところはあるものの、基本的には良い奴だ。
純粋で天真爛漫で俺のことを慕ってくれる彼はとても可愛い。
ところで、俺は誰かって?
同じく太田高校に通う青春真っ盛りのJK、月島伊吹!
と言いたいところなのだが...
あいにく俺の高校生活は順風満帆とは言いにくい。
普段は明るく活発な女子高生を演じている俺だが、実は身体の性別と心の性別が違う。
このことは幼いころから俺を大いに悩ませてきた。
今でも性に関する問題のニュースを目にすると、自分はこの先どうなるんだろうかと少し不安になる。
生物学上の性別を変えてくれとは言わないが、せめてそっとしておいてほしいのだ。
マジョリティと異なるものは、人の目には奇異に映る。
そんな俺も純粋な自分を表に出していたころは異質な目で見られた。
それが嫌で、成長するに連れて大多数の一般人の中に溶け込んで生きるすべを身に着けたのだ。
そのためにした苦労は計り知れない。
差別などせず、そっとしておいてくれれば何もそこまで努力を積み重ねる必要はなかったのだ。
今は夜の12時。
俺と大晴はとある神社の前に来ている。
1週間ほど前、大晴が電話の雑談の中で幽霊の話を持ち出したのだ。
「あの神社には夜に、出るらしいよ。」
「何が?」
「出ると言ったらあれだよ、ほら、幽霊...」
「あほか。そんなもんいるわけないだろ。テメェは高校生にもなってまだそんなこと言ってるのか?」
「でも、何人もの友達から聞いたよ。その幽霊が夜の12時頃呪いの儀式を行ってるんだって...」
「そこまで言うなら、確かめてみるか。」
とまあ、こんな流れで真偽を確かめることになった訳だ。
大晴には両親に友達の家に泊まってくるという嘘をついてもらい、俺たちは人気のない夜の神社に向かった。
大晴が友達と上手くやっていけるか心配していた両親はそれを聴いて大いに喜んだらしい。
大晴は幽霊が出るかどうか真偽を確かめることに賛成したくせに、もうビビりまくっている。
「伊吹さん、やっぱりやめとこうよ。俺たちも呪われちゃうかもよ...」
「テメェはどんだけ臆病なんだ...」
その時、神社の中に白い服を着た男が現れた。
悲鳴をあげそうになった大晴の口を俺が防ぐ。
男はどうやら藁人形と釘、そして金づちを持っているらしい。
気に藁人形を結び付けると、男はそれに釘を打ち付け始めた。
大晴は恐怖で今にも気を失いそうである。
「ありゃ幽霊じゃねーよ。」
静かにそう告げると俺は男の後ろに足を踏み出した。
足音を聞いた男が振り返る。
俺は言った。
「テメェ。何してんだ?」
男は目を見開くと肩を震わせ、地面にしりもちをついた。
そして、「呪っているところを見られた。俺はもう死ぬんだ。」
そう言って、泣き出した。
「テメェはアホか。そんなの迷信だっつーの。まあ、神社に勝手に入って気を傷つけたんだし、呪いの1つや2つは報復を受けるかもしれないがな。」
泣きやんだ後話を聞くと、どうやら男は好きな女の子を親友に奪われたことがきっかけで、親友を恨み、呪い殺してやろうと思ったらしい。
確かに好きな人を奪われるのは辛いだろう。
親友にならなおさら...
しかし、まさか本当に毎晩のように呪いをかけ続ける奴が存在するとは驚きだ...
毎晩夜12時に起きるのも大変だっただろう。
だが、藁人形に釘を打ち付ける前に誰か氏らに目撃され引き返すことが多かったため、毎度呪いは失敗に終わっていたようだ。
「テメェも色々辛かっただろうがな、復讐は何も生み出さねぇ。また前だけを見て歩きな。」
俺は奴に向かってそう言うと、「悪いがこれを捨ててきてくれねぇか。」と藁人形を大晴に向かって差し出した。
大晴は「呪われても知らないよ。」とおどおど言いながらも快くお願いを受け入れてくれた。
「君の不幸は俺、いや、私が奪ってあげる。」
俺は大晴が藁人形を捨てに行っている一瞬の隙をつくと、男の心の中に入り込み不幸を奪った。
男の心の異変にセイちゃんが気づき、寝ているほのかを起こした。
「またあの女があら現れた。」
「マジカルトランスフォーマー!」
ほのかは男の心の中に入り込むと、不幸の残骸と対面した。
男は「そうだな。また前だけを見て歩き出すか。」というと家に向かって一歩を踏み出した。
今回の不幸の残骸は心なしかいつもより大きかった。
「やぁぁぁぁぁぁ!」
ほのかがパンチを食らわせてもそれはびくともしない。
「マジカルスラッシュ!」
技を放つがそれがそのまま跳ね返ってくる。
自分の攻撃をもろに喰らったほのかはその場に倒れ込んだ。
不幸の残骸が起き上がろうとするほのかにとどめを刺そうとする。
その時、どこからか青い光が飛んできて不幸の残骸に直撃する。
ほのかが後方を確認するが、誰の姿も見えない。
更にどこからともなく跳んできた弓が不幸の残骸に直撃する。
不幸の残骸は一瞬で光となって消え去った。
「ふぅ。今回はたまたますぐに不幸の残骸に気づけたからよかったけど、あの子あたしがいなかったらどうしてたのかしら。」
不幸の残骸を倒した白石梨乃は木の陰で髪をかけあげた...
