・儚き愛
井沢健一の心の中に後悔はなかった。
愛する母を自ら手にかけたこと...
殺意があったわけではない。
憎しみがあったわけではない。
寧ろ母の幸子は彼が生涯のうちで最も尊敬し、愛していた人物の1人だった。
あれは、最期の、とても切ない親孝行だったのだ。
父の和正が他界してから、母は少しずつボケ始めた。
次第に認知症の症状が悪化し、会話もままならなくなっていった。
健一は既に独り立ちして手に職をつけていたが、母の介護のために仕事を辞めざるを得なくなった。
生活は次第に困窮し、生活保護を受給しようと試みたが、通らなかった。
せめてもの親孝行として、車椅子に乗った状態の母を外に連れ出して散歩に行った。
輝く夕日の中で、ある日母は呟いた。
「健一、もうええよ。お前は私の立派な息子だ。2人で楽になろう」
そう言って、彼に向かって微笑みかけた。
この時には既に会話もままならないほど症状が悪化していたはずの母であるが、この時ばかりははっきりと、自分の意志で話しているように健一には感じられた。
彼は、母の言うとおりに彼女を手にかけた。
そして、自身も準備を整え、あとを追おうと決めた。
しかし、目が覚めると彼自身の身体は病床の床とも言える柔らかく白いベッドの上にあった。
意識を取り戻すと、今までの一連の流れに対しての捜索がはじまり、更に時が経つと裁判が開かれた。
客観的に見れば彼は人殺しだ。
人1人の命を自らの手で奪った。
しかし、彼に対しては裁判官を中心に、心なしか同乗の目がそこにあった。
彼の一番の後悔は最後まで母親のもとにいてやれなかったことにある。
麗しき親子の愛とこの世に残されたものの不幸。
デストロイアーの検索にこの件はたちまちヒットした。
「ソノフコウ、キュウシュウスル、ソノフコウ、キュウシュウスル」
破壊の存在の手先であるロボットは無慈悲にもその不幸を吸収した。
巨大なカマを盛った不幸の残骸が現れた。
一度切りつけられたらひとたまりもなさそうな、鋭い切れ味を有するカマ...
そこに、幸福の戦士たち5人が駆けつける。
「マジカルトランスフォーマー!」
「スタイルチェンジ!」
「ミラクルフューチャーチェンジ!」
「ラブリエチェンジ!」
一斉に変身を終える。
「みんな、気をつけろ。」
海翔が叫ぶとほぼ同時にほのかが技を放った。
「マジカルスラッシュ!」
その攻撃は不幸の残骸の持つ鋭いカマによって丁度真っ二つに切り裂かれた。
「ミナセホノカ、マジカルスラッシュ、ミナセホノカ、マジカルスラッシュ」
不気味な機械音が発せられる。
5人が声の主の方向に視線を向ける。
金属でできた超高性能ロボット、デストロイアーの姿がそこにあった。
「奴は僕たちの攻撃のデータを読み取っているんだ」と海翔。
「そんな...」
みんなの動きが止まる。
その隙に、不幸の残骸が健一の心の中から抜け出した。
裁判官や検事をカマで切りつけようとした。
白石梨乃が弓でそれを止める。
「ミラクルフューチャーフィニッシュ!」
不幸の残骸に弓が貫通し、床をのたうち回る。
「今よ!」
ほのかと恵理が必殺技のマジカルツインバーストを放つ。
不幸の残骸はいつも通り光となって消え去った。
デストロイアーの目が不気味な効果音と共に赤く光る。
「ミラクルフィーチャーフィニッシュ、マジカルツインバースト、ミラクルフィーチャーフィニッシュ、マジカルツインバースト」
望月湊音がデストロイアーを刀で切りつけようと試みたが、その時には既に彼の姿はなかった。
「デストロイアーにかなりのデータを吸収されちまったよ」と海翔。
「仕方ないじゃない、あの状況じゃああするしかないわ」と梨乃。
またもや始まった2人の口論に、他3人は呆れかえるのであった。
