・狙われた標的
気持ちの良い目覚めだった。階段を降りて行くと母が朝食を作っているところだった。
「おはよう、お母さん。」
恐る恐る声を掛ける。
「おはよう、恵理」
明るめのトーンで返事が返ってくる。
母は珍しく上機嫌なようだ。
その時、2階から階段を降りてくる足音が聞こえた。
心なしか身を震わせる。
だが、彼女のそんな心配を吹き飛ばすかのように父は恵理に挨拶を済ますと普通に席に着いた。
朝の食卓では会話が弾んだ。
家族全員が揃うことはなく、無音で静かだった食卓。
良心にどんな心境な変化があったのかは定かではないが、今日の食卓は温かい一般家庭と化した。
「恵理、どうしたの?」
心なしか俯いて物思いに耽っていると母が心配そうに顔を覗き込んできた。
「いや、何でもないよ。」
慌ててそう言って微笑む。
それは彼女が久しぶりに見せる本物の笑顔であった。
その時、急に床に穴が開いた。
身体が垂直に下に向かって落ちていく。
「恵理!」
父と母が同時に叫ぶ。
恵理は下に開いた穴をつたって垂直に落ちていく。
床に尻の辺りがついた感触がする。
「いててて...」
腰の辺りを摩りながら周りを見渡して驚く。
ほのかたちもこの場所に集められていたのだ。
「遅いぜ、恵理」
海翔が少し気怠そうにこちらを見る。
状況がまだ上手く呑み込めていない恵理は誰かに話を聞こうとする。
その時、部屋に不気味な機械音が響き渡った。
「ヨクゾキテクレタ、コウフクノセンシタチ。ワレノナハデストロイアー。ショグンノワザノデータハスベテキュウシュウシタ。イマコソケッチャクヲツケルトキ。キョウガショグンノサイゴノヒ二ナルダロウ。」
「今日が俺らの最後の日だと、笑わせるなよ」と海翔。
どこからともなくデストロイアーが姿を現す。
「ターゲットカクニン、ターゲットカクニン」
壁の両側から厚い鉄の板が現れる。
それが彼らを押しつぶすかのように5人のもとに迫ってくる。
海翔が上に向かってジャンプし、脱出を図る。
皆が目を丸くするほどの運動神経だ。
「久しぶりに心に火が付いたぜ、サグレットアタック!」
空中からカマを取り出し赤い光線をカマに蓄える。
光線の力を蓄えたカマは回転しながら鉄の塊を突き破る。
「あの技にはそんな組み合わせもあったのね」と梨乃。
一ノ瀬海翔は日々の生活の中で本気を出すことは滅多にない。
小学校の勉強も、運動も全くと言って良いほどやる気がない。
なぜなら簡単すぎてつまらないからだ。
彼がやる気を出すのは、心の中に火を灯すような困難な課題に直面した時だけなのだ。
学校の授業で国語をやる時も、算数をやる時も、体育の時も常に気怠そうな表情をしている。
その癖寝ているところを急にあてられてもすぐに答えを言う天才ぶり。
また、運動神経も抜群である。
そんな海翔の性格は常に計画を立てて行動をする梨乃と対照的。
「サグレットアタック、アナザーバージョン、サグレットアタック、アナザーバージョン」
デストロイアーが海翔がはじめて披露した技のデータを吸収した。
「恵理、行くよ」
「うん。」
「俺も協力します。」
ほのか、恵理、それに湊音が力を合わせて合体技を放つ。
「マジカルツインバースト!」
「プログレスソードファイアー!」
強力な力がデストロイアーに衝突する。
だが、彼は微動だにしない。
それもそのはず。幸福の戦士たちのデータは全て吸収済みなのだ。
デストロイアーの反撃が始まる。
地面にメカニカルな手を叩きつける。
粘り気のあるマグマが大量に近づいてくる。
逃げようとするが先は行き止まり。
南瀬ほのか、田中恵理、望月湊音、一ノ瀬海翔、白石梨乃の5人の上にマグマが降り注ぐ。
彼らはマグマの中に呑み込まれたと思われた。
だが、次の瞬間、手でバリアを作りマグマを受け止めている恵理の姿がそこにあった。
大量のマグマに押しつぶされてバリアに徐々にヒビが入る。
「私、今日ね、ようやく、お父さんやお母さんに家族の一員として扱って貰ったの。今まで色んなことがあったけど、人間として、親の娘として話して貰えて嬉しかった。やっと小さな幸せを感じられたの。今の人生を、終わりになんか、させない。」
彼女の手元のバリアが光りだす。
透明なバリアは透き通った美しい青色を帯び、輝きを増していく。
恵理の新しい力、スーパーマジカルバリアだ。
「今よ」
心の中で大きく呟くと、梨乃はデストロイアーに向けて弓を放った。
「ミラクルフィーチャーフィニッシュ!」
攻撃を喰らったデストロイアーの動きが僅かに止まる。
「マジカルシュート!」
ほのかが追撃を加える。
少しよろめきながら後退りしたデストロイアーはバランスを崩して倒れる。
デストロイアーは技のデータを読み取る際に動きが止まるのだ。
梨乃はそれを見抜いて素早く隙をついた。
「みんな、今だ!」と海翔。
だが、次の瞬間、デストロイアーは仰向けの状態で両腕からロープを発射した。
ロープは遠くまで伸び、ほのかの身体を拘束すると、彼女の身体を引き寄せる。
「ターゲット、ロックオン、ターゲット、ロックオン」
機械の身体から電撃が放たれる。
ほのかが苦悶の声をあげながら悶える。
「コイツガ、ドウナッテモイイノカ」
不気味な機械音でデストロイアーが淡々と話しかけてくる。
「器械の癖に、卑怯な奴ね。」
「ウゴキガ、トロイノガ、ワルイ」
梨乃に対し例によってデストロイアーの淡々とした答え。
「スコシデモウゴケバ、カノジョノイノチハナイ。カノジョヲミゴロシニスルノカ、ソノバデウゴカズテヲアゲルカ、キメロ。」
「くっ」
4人は苦渋の決断をして手を挙げる。
デストロイアーが右手を銃の形に変形させ、強力な攻撃を発砲する。
4人の身体は後方に吹き飛び、変身が呆気なく解除される。
「恵理、湊音君、海翔君、梨乃さん…」
ほのかが目に涙を浮かべながら拘束からの脱出を試みる。
だが、頑丈な拘束は彼女の身体を全く自由にさせない。
「オマエガ、ナカマノアシヲヒッパッテイル。オマエサエイナケレバ、ナカマガヤラレルコトモナカッタ。」
ほのかは痛々しくも目を伏せながら首を振る。
将棋界で目覚ましい活躍を見せ、運動神経も抜群な海翔。
音楽の世界で既に世間から才を認められ成績優勝な梨乃。
自身の障害を克服し、真っすぐな心を持つ湊音。
それに、敵の攻撃から仲間を守ったり逃がしたりすることに秀でているサポート役の恵理。
私は、私は…
勉強もできない。運動もできない。音楽も...
得意なことも無い。
それどころか、デストロイアーの言うとおりだ。
何の力もなく、みんなの足を引っ張ているだけの存在。
彼女の頬をつたって大粒の涙が流れた。