・心の中のヒーロー

 

洗脳されたのは現代の人間だけではなかった。

 

過去、未来、すべての人間が彼の手によって洗脳された。

 

人間を傷つけるわけにはいかないため、幸福の戦士たちは彼らから逃げ惑う。

 

デストロイアは再び勝利の雄たけびを上げると、デューグリュックたちに向かって電撃を放つ。

 

「お前らも、地獄に落ちろ!」

 

電撃を浴びた戦士たちはその場に倒れ込む。

 

負けじと立ち上がった時、彼らの目の奥にも紫色の絶望が宿った。

 

「お前ら、殺し合え!」

 

まるで催眠術に掛かったかのように、人間同士の醜い殺し合いが始まる。

 

それは争いという一言で片づけられるほど綺麗なものではなかった。

 

幸福の戦士たちに限っても例外ではなかった。

 

梨乃がほのかの首筋を片手で掴み、壁に叩きつける。

 

海翔と湊音は意外にも互角に戦っていた。

 

ほのかにとどめを刺そうとする梨乃を恵理が止めに入る。

 

彼女だけは洗脳に掛かっていなかったのだ。

 

デストロイアから電撃を喰らった際、ほのかが彼女の身体を遠くまで突き飛ばしたのだ。

 

「ほのか、湊音君、梨乃さん... みんな、目を覚ましてよ!」

 

彼女の必死の訴えも虚しく、彼らは彼女を共通の敵として認識する。

 

湊音が剣を振りかざしてくる。

 

それをバリアで受け止める。

 

海翔が彼女の身体を壁に押し付ける。

 

梨乃が弓を弾く。

 

それは恵理の身体に見事に突き刺さる。

 

呻き声をあげてその場に倒れ込む恵理。

 

その姿を目にして、梨乃自身も彼女の身体に痛みを感じた。

 

デストロイアに受けた攻撃の痛みが脳裏に蘇ったのだ。

 

「恵…理...」

 

僅かに目線を上げて呟く。

 

恵理は少し嬉しそうに微笑むと、他のメンバーに語り掛ける。

 

「みんな、情けないわよ。こんな奴に洗脳されるなんて!」

 

「そうよ。目を覚ましなさい!」

 

彼女の発言に便乗する梨乃。

 

海翔、湊音、ほのかがハッとしたような表情をする。

 

「まさか、この俺があいつなんかに洗脳されるなんてな。」

 

「もう、あなたの操り人形にはなりませんよ。」

 

「そうよ。絶対に、世界をあなたから守るんだから!」

 

「理想論だけでは俺には勝てんぞ。」

 

「理想論だろうが、世界を守るには、あなたを倒すしかないの。」

 

「マジカルスラッシュ!」

 

攻撃を避けたデストロイアにもう一発攻撃を放つ。

 

「マジカルシュート!」

 

その攻撃はデストロイアの背中に命中するが、一瞬で蒸発する。

 

「今度は俺の番だ。消え去れ!」

 

デストロイアが5人に向かって、絶望の煙を放出する。

 

「まずいぜ。誰か、どうにかしろ。」と海翔。

 

「スーパーマジカルバリア!」

 

恵理が進化したバリアでメンバーの仲間をデストロイアから守る。

 

「プログレスソードファイアー!」

 

湊音がすかさず、炎に燃える大量の剣をデストロイアに投げつける。

 

彼はそれらを蹴って弾き飛ばす。

 

「これはさっきのお返しよ。ミラクルフューチャーフィニッシュ!」

 

梨乃が再び弓をデストロイアに向ける。

 

弓はデストロイアの顔の直前まで行って、奇妙に折れ曲がる。

 

「マジカルフラッシュ!」

 

デストロイアは恵理の銃弾をも物ともしない。

 

「このままだと、世界滅亡の危機だぜ。」

 

「そうね。でも、勝機が1%でもある限りあたしは最後まで世界を守るために戦うわ。そうじゃなきゃ、今までの闘ってきた意味がないじゃない。」

 

「俺がこの世界で戦うきっかけになった存在であるイデアが以前言ってました。共に長い時間闘ってきた仲間だけに与えられる最強の武器、奇跡の石を使うことがデストロイアに勝つ最後の方法だって。」

 

「そういう重要なことは速めに言えよ。で、そいつはどうやって手に入れりゃいいんだ?」

 

「長い間闘ってきたから、私たちの想いが1つになればきっとそれを呼び出せるんじゃないかな。」

 

「そんな上手くいくか?そもそも俺らそんなに親しくなるほど全員のことを知っているわけじゃないぜ。まぁ、ほのかが言うなら試してやるよ。」

 

5人は祈りを懸命に込める。

 

この世の物とは思えない神々しい光と共に青く光る宝石が5人の手元に姿を現す。

 

彼らは石を空高く掲げそれぞれの想いを口にする。

 

「これで終わりね。あなたは、初めてあたしに負けることになるわ。」

 

「まだ始まったばかりの俺たちの友情は男女関係なく不滅だぜ。因みに俺はデューグリュック界1を誇る運動神経なんだぜ。一ノ瀬海翔の名を胸に刻んでおくんだな。」

 

「イデアさん、湊音君にとっても大切な人だったのね。私に幸せな家庭の味を教えてくれた、彼の想いを無駄にはしないわ。」

 

「前から思ってましたが、人の不幸を悪用するのは最低の行為です。今までお前が奪ってきた多くの人々の不幸を、受け止めろ!」

 

「私ね、不幸な人が世界から完全にいなくなったら良いと思うの。そういう、平和な世界を作っていきたい。」

 

「どいつもこいつも綺麗ごとばかり。人間は、醜く、争いは絶えない。自然を破壊し、自己中心的に物事を進める。そんな生き物はいらない。」

 

デストロイアは両手から強大な絶望を大量に空中に放つ。

 

力と力がぶつかり合う。

 

「そうだね。人間は、確かに酷くて醜い一面もあるかもしれない。でもね、お互い支え合ったりとか弱いものを助ける心、世界を良くしようって想いも、同時に胸の内に持っている。弱さや儚さも、人間が持ち合わせている強さなんだから!」

 

ほのかの叫びと共に世界に強烈な歪みが生じる。

 

洗脳されていた人々は徐々に意識を取り戻していく。

 

平和な世界が再び訪れようとしていた。

 

その時、デストロイアや幸福の戦士たちの姿はもうそこにはなかった。

 

彼らは地球上からも、広い宇宙からも、人々の心の中からも忘れ去られた。

 

だが、彼らが生きた証、彼らの活躍が今の平和な社会の基礎となっている。

 

彼らの存在を、いつまでも忘れないでくれよな!