・心の中の悪魔

 

 瞳子は幾度も真由に助けられたことを思い出した。だから、今度は自分が真由を助ける番だと思った。今の真由はとても無防備だ。無理をして自信満々に振舞っていたかつての優等生はもうそこにはいない。瞳子は彼女を慰めながらある種の優越感に浸っていた。以前は真由に助けてもらってばかりだった。動物と会話ができたり人の気持ちがある程度分かったりしたとしても技能的な得意分野がないことを長らくコンプレックスに感じていたのだ。勉強もできなかったし、運動神経、音楽も絶望的…自分で言うのも何だが長所があるとすれば明るく前向きなところくらいか。真由には何一つ勝てる所がなかった。でも、今の彼女には何もない。一度精神が破壊されてしまった人間は、すぐには元には戻らない。

「ありがとう、瞳子…私…こんなんで、ごめんね……」

「ううん、今まで助けてもらってきたし、これくらい全然良いよ!」、瞳子は無意識のうちに、いや、意識はしていたのかもしれないが、自分が真由より上の立場になったと思った。同時にそんな発想をしてしまう自分に嫌悪感を感じた。

「あんたら、いつまで抱き着きあってるのよ。良い加減、離れなさい。」

好美が口を挟んだ。真由は精神的ダメージを引きずっているものの目の奥に光を取り戻した。「明日からは頑張って学校に行く」と彼女は言った。好美ももう卑怯なことをしないとその場で誓った。母親からは何度もお礼を述べられた。

「良い友達が持てて良かった。あんな情けない子だけど、どうかこれからも好美のことをよろしくね。」と。瞳子と好美は顔を見合わせて頷いた。

 その帰り道のことである。瞳子が好美に向かってお礼を述べた。

「ありがとう、真由の心を開かせてくれて」

「わ、私は別に、何も…」

「私ね、さっき、魔法少女として今の自分が、真由より上の立場だって、思っちゃったの…」

そう言って足を止める。

「私、イーグルと上手く戦えないし、一度も倒せたことがないの。自分では、何もできないから、何でも出来る真由のことが、羨ましくて……だから、真由が今の状態になったことに安心してる自分がいるんだ。最低だよ、私……」

「ほんと、あんた、敵の私の目から見てても戦闘センスゼロだったもんな。武器も弓しかないし、どん臭いし、いるだけで邪魔だし…」

「な、何もそこまで言うことないじゃない…」

瞳子がそう言った時、キュッピーと飛鳥が彼女に訴えかけてきた。

「気を付けて、イーグルが襲ってくる。」

瞳子が立ち止まる。

「どうしたの?」と好美。彼女も遅れて危険を察知した。瞳子の身体を好美が突き飛ばす。2人は一緒に地面に転がった。蝶のような姿をしたイーグルがこちらを見つめている。

「あんたは、下がってて。」と好美。

「でも、」

「自分で戦闘センスゼロだって自覚あるんでしょ。なら、私の足を引っ張るな!」

瞳子が黙って頷く。好美は魔法少女の姿に変身した。いつもより身が軽い。前までは理恵の前で失敗できないという重圧に晒されていた。けど、今は違う。瞳子が余計なことをしなければ、自由に動くことができる。イーグルを良く見る。首の辺りは細くて身体の他の部分よりも弱そうだ。狙いを定める。刀を構える。イーグルが襲ってきた瞬間を見計らって、刀を振った。見事に命中する。イーグルの首と胴体は真っ二つになった。