・避けられぬ戦い

 

 理恵には勝算があった。どんな天才でも、不治の病に勝つことはできない。和樹が不治の病だという確証はないが、彼女には直感的な確信があった。無論その勘が絶対ではないことは百も承知だ。しかし、彼女の体感的な感覚では人間を良く見ている彼女の勘は当たることの方が多かった。今一番の強敵を潰すには絶好のチャンスだ。彼女は例によって好美たちを集めて作戦会議を開いた。結構当日、彼女たちは再び下校中の嘉穂の前に現れた。彼女の前身は恐怖で震えていた。今までも散々な目に遭わされてきたのだから無理もない。力なく後退りする。

「お前、まだ死んでなかったんだ。マジうざい。そんなにいじめられるのが楽しいわけ?」と理恵。

「そうよ。理恵を裏切ってこの最高のメンバーから追放されたあんたの居場所なんてどこにもないのよ」と好美。

嘉穂は力強く拳を握り締めた。そして身体を恐怖心で震わせながらもありったけの勇気を振り絞って言い返した。

「そ、そりゃあ私は確かに迷惑かけてばっかりで人の役にも立てないし、弱い上にドジで泣き虫だけど、それでも自分なりに頑張ってるの。弱い者いじめは魔法少女みたいな正義の味方がやることなの?私に構ってる暇があったら、1人でも多くの今困ってる人を助ければ良いじゃない。」

話を聞き終わってすぐに、理恵の拳が嘉穂の顔面に直撃した。嘉穂は後方によろけて地面に倒れた。

「ごめん。当たっちゃった。お前みたいなブスが生意気抜かしてんじゃねぇよ。」

しかし、嘉穂はすぐに立ち上がって魔法少女に変身した。これには絵里たちも少し驚いたが、即座にいつもの表情を取り戻した。

「好美、天音、唯、あんたたちは下がってて。弱いくせに出しゃばってくるこのブスは絶対に私が叩き潰す。」

好美たちは彼女に言われた通り身を引いた。戦いは予想以上に一方的だった。力任せに暴行を加えてくる絵里の前に嘉穂はなすすべもなかった。だが、それでも彼女は戦いをやめようとはしなかった。以前の彼女であれば、すぐ逃げ出していた筈なのに…変身姿もあっけなく解除された。その時、意識が薄らぐ彼女に少し懐かしいような声が聞こえた。

「この女帝に逆らうなんて良い度胸してんじゃんか、お前。あとは俺に任せて逃げろ。」

「かず…き…くん…」

和樹は苦しそうに胸の辺りを抑えながら理恵の前に立ちはだかった。彼の体調がすぐれないことは誰の目にも明らかだった。

「嘉穂、悪いことは言わないから早く逃げろ。」

「で、でも…」

「悪いことは言わねぇ、男にはよ、勝つ可能性が低くても避けられない勝負が待ってるんだ。」