・神に選ばれし逸材
白石梨乃は物陰から不幸の残骸に向かって弓を構えた。
その時、彼女の目線の先を何者かが横切った。
人影の方に目線をやる。
梨乃は息を飲んだ。
小学5年生くらいの少年が目の前にいたのだ。
ラフな格好にくるくるした丸い目。
一般人である普通の男の子がどうして人の心の中に紛れ込んでいるのだろう。
そう思っていると、少年は梨乃の心の中を見透かしたかのように言った。
「なぜ僕が人の心の中にいるかって思ったでしょ? 簡単なことさ、それはこの僕が天才だからだよ。」
「ラブリエチェンジ!」
少年はそう言うと、あっさりとデューグリュックに変身してみせた。
その姿は天使のように神秘的だった。
不幸の残骸がこちらに向かってくる。
少年はその動きを正確に読んで、上手く立ち回った。
「天才である僕の前にひれ伏すが良い。サグレットアタック!」
少年はそう言うと、右手から虹色の光を放った。
大きな音とともに、不幸の残骸は燃え尽きた。
その間に梨乃は外の世界に脱出した。
少年が彼女が逃げていった方向を目で追う。
他のデューグリュックたちも立ち上がった。
「あなた何者?」と恵理。
少年は答えた。
「僕はこれから日本を変える者さ。君たちに1つ忠告しておくよ。今のままではデストロイアには絶対に勝てない。」
「どうしてそれを?」
「まあ僕は天才だからね。これを見てくれ。」
そう言って、少年が空中で指を鳴らすと、頭上にイメージの残像が浮かび上がった。
暗闇の中に死体のようなものが無数に埋まっている。
「これは?」と湊音。
「デューグリュックになり損ねた奴らだよ。デューグリュックになるには強い心、タフな精神が必要だからね。心が弱かったり、精神が衰弱したりしている者はこのように絶望の中を永遠にさまようことになるのさ。」
「そんな。この人たちを助ける方法はないの?」とほのか。
「さあね、それは僕にもわからないや。とりあえず今日はこの辺で。じゃ。」
少年はそう言うとどこへともなく消え去った。
向かった先は師匠の自宅。
「海翔、今まで何をしておった? 家事を...」
「分かってるって。家のことはなるべく手伝うからよ。」
そう言うと、海翔は家事を始めた。
師匠はそんな彼の様子を見つめながら心の中で呟いた。
「将来の名人、か...」