・2人の約束 最高のカップル「ほの×えり」


今は定期試験1週間前。


ほのかたち3組は、4時間目は情報の授業だ。


前半は誹謗中傷に関するビデオを見て、後半は各自テスト勉強をして良いらしい。


去年の夏頃、ネットの匿名掲示板アスカ・プラネットに書き込まれた誹謗中傷によって有名アイドルグループAcid boys loveの1人、一之瀬鈴が亡くなった件に関して、誹謗中傷を行った加害者に対して取材を行うというのがビデオの主な内容だった。


「去年の夏、一之瀬さんが金州区のマンションの10階から飛び降りたという事実に対して、今の心境をお聞かせください。」


「別に。特に何も思わないですね。彼女が亡くなったからと言って僕の日常生活が変わる訳でもないですから。」


インタビュアーの質問に対し、加害者Aはあっさりと応えた。


「誹謗中傷で自殺にまで至ってしまうこともあるのか...」


山口和也は心の中で罪悪感を感じていた。


彼もYouTubeのコメント欄や匿名掲示板などで誹謗中傷のようなことを何回かやっていたのだ。


しかし、それは誰かを貶めようと思ってやった行為ではない。


子どものいたずらと変わらぬ、単なる悪ふざけなつもりだった。


「僕は何て配慮に欠けた行動を...」


「その不幸、俺が貰ったぞ。」


和也の心の声を聞いたデストロイアは彼の心の中に入り込んだ。


「デストロイアが近くに現れた。」、ほのかの頭の中にセイちゃんの声が反響する。


もう1人、デストロイアの出現をいち早く知った者がいた。


白石梨乃、彼女の頭の中にもミラクという精霊の声が反響する。


「デストロイアが近くに現れたよ。」


梨乃の動きが一瞬止まる。


体育でバスケットボールをしていた彼女の手からボールが滑り落ちた。


「どうしたの?」


周りが心配そうに声を掛ける。


「ううん。何でもない。ちょっとよそ見しちゃって、ごめん。」


そう言うと、梨乃はまた試合に集中した。


7点、8点と瞬く間にシュートが入る。


そのほとんどは梨乃が決めた物だ。


ほのかたちがビデオを見終え、テスト勉強をし始めた頃にはデストロイアは和也の心の中から姿を消し、不幸の残骸は幼虫から成虫へと育っていた。


ほのかたちがテスト勉強を初めて程なくして、和也の背中から成虫となった不幸の残骸が姿を現した。


更なる幸福を求めて心の中から外の世界にでてきたのだ。


クラスの中に悲鳴が沸き起こる。


混乱状態になりながらも、皆は教室から抜け出し校庭に向かって駆け出した。


他の教室にいた人も異変に気づき、注意喚起の緊急放送が流れた。


ほのかは他のクラスメートと一緒に逃げると見せかけて途中でどさくに紛れてUターンした。


「マジカルトランスフォーマー!」


掛け声をかけ、魔法少女に変身した。


恵理も状況を察し、ほのかのもとに駆けつけると空中から一輪の花を取り、「マジカルトランスフォーマー!」と叫ぶ。


彼女もまた魔法少女に変身した。


「みんな揃った? これで全員無事ね!」


白石梨乃はクラスメートたちに避難誘導を行ったあと、全員が無事に避難できたかを確認していた。


緊急事態が起こっても焦らず冷静に対処する。


まるで学級長みたいだ。


不幸の残骸が学校を飛び出し、校庭の方に向かってくる。


先生も生徒も皆身構えた。


その時、凄いスピードで走ってきた何者かが不幸の残骸に正面から強烈な蹴りを入れた。


それは2人の魔法少女...


「この時代にも想像力を持つ幸福の戦士が...」


梨乃は2人の姿を見上げながら心の中で呟いた。


「マジカルスラッシュ!」


1人の魔法少女が叫ぶと杖の先から出た黄色い無数の線が不幸の残骸に直撃した。


もう1人の魔法少女が空中から銃を取り出し「マジカルフラッシュ!」と叫びながら弾を連続で発泡する。


立て続けに攻撃を食らった不幸の残骸は後退りする。


「今よ!」


「うん!」


2人の魔法少女は声を揃えると、1人は右手で、もう1人は右手で空中にハートの半分の形を描いた。


それらが空中で繋がって完全なハートの形になる。


本当はお互いのことを名前で呼びたかったけれど、みんなの視線が集まっているからやめておこう...


「マジカルツインレインボー!」


2人がそう叫ぶと空中のハートの形から出た虹色の光が不幸の残骸に直撃した。


不幸の残骸は呻き声を上げ、光となって消え去った。


「今日の蝶みたいな怪物は何だったんだろう。」


「あの2人格好良かったね。」


「子どもの頃に憧れたヒーローみたい。」


放課後は今日現れた怪物や魔法少女の話で持ちきりだった。


校門を出てすぐのところで恵理がほのかの肩に手を置いた。


そして、耳元で小さく囁いた。


「これから闘う時は、私たち、ずっと一緒だよ。」