ミークはその日、朝早く目覚めた。
得体の知れぬ不吉な予感が彼を襲っていた。
空はどんよりと曇っていて、雷が鳴っている。
この世界はもう長くないことは確実だ。
そのような不安な気持ちが彼の足をサーヤ王女の寝室の前に運ばせた。
勝手に部屋に入るのは失礼だと思ったが、気が気ではなかったので王女を起こさないようにそっと足を踏み入れた。
だが、そこに人の気配はなかった。
サーヤ王女は難病を患っていることもあって余程のことがない限り外にはお出ましにならない。
サーヤ王女が外に出る時があるとすればただ一つ…
それは復活したシサーガを倒す時。
ミークは外に出て、王女を探すことにした。
その頃、王女は丁度Aランクのシサーガと闘っていた。
今までの中で一番醜い闘いであった。
魔法を使って手を触れずに倒すことが出来れば良いのだが、今度ばかりは今までと事情が違う。
何しろ相手はシサーガの中で最強クラスだ。
見た目は人間に限りなく近いが、体格が良くとても貫禄がある。
シサーガは各々の欲望に従って行動しているため組織には属さないが、もしそのような組織があったとすれば、目の前のシサーガはラスボスかそれに近い存在にあたるだろう。
壮絶な闘いの末、お互い血まみれの状態になっていた。
もっともシサーガの血は赤色ではなくどす黒い緑色なのだが…
「今度こそ決着をつけようぜ。」と、シサーガは言った。
「言われてなくてもそのつもりよ。」
サーヤが応える。
実はこの2人は過去にも闘ったことがある。
その時はお互い重症を負いながら相打ちで終わった。
そしてサーヤはシサーガを倒すことを諦め、一旦封印することにしたのだった。
シサーガたちは封印した場所は鏡や水面など、姿が映る場所だった。
死ぬ前に一匹でも多く片付けなければならない。
サーヤは一瞬の隙をついてシサーガを蹴り倒すと、魔法を繰り出そうとした。
その時、視界の端に黒い虫のようなものが写った。
良く見ると、一匹だけではなく、何匹もいる。
しかも、それらは自分の腕から出ているようだ。
そんなことはある筈がない。
幻覚!?
しかも全身が思うように動かなくなってきた。
サーヤが焦っている間にシサーガは体勢を立て直し、静かに最後の攻撃を加えた。
「ははぁん。お主も運が悪かったな。病気さえなければ俺に勝てていたものを… まあ、ゆっくり休むといい。これで世界は俺の物だ。」
そう言ってシサーガは高笑いした。
しかし、次の瞬間身体に激痛が走りうめき声をあげた。
「ちっ。サーヤめ… こんなに大きな傷を俺に負わせやがって。しょうがねぇ。フィーチャーストーンを手に入れるのはこの傷が完治してからにするか…」
そう言って静かに立ち去った。
暫くして倒れているサーヤのもとにミークが駆け付けた。
「手遅れだったか…」
いつかこうなることはわかっていたが、実際にその状況に遭遇すると気持ちの整理がつかなかった。
サーヤ王女は小さい頃から王女になるべく厳しい訓練を受けて来た。
難病が発覚して8歳まで生きれないと言われながら12歳まで生きておられたのは正に奇跡だと思う。
ふとサーヤ王女は本当は王女などやりたくなかったのではないかとも思った。
この国の普通の住人として人生を全うしていた方が幸せだったかもしれない...
それならこんな結末にならなくて済んだから。
ミークはほんの僅かな時間でそのような考えを巡らせながらミラクルトウェルブの世界と人間の世界が瞬く間にに融合していくのを見つめているしかなかった。