あれからどれくらいの時間が経っただろう。

 

目が覚めると景色が明るくなっていた。

 

どうやら私は昨日家族やクラスメートがどうしているかについて考えているうちに寝てしまったらしい。

 

そう言えば私がクラスメート達のことをあんなに考えていたことはかつてあっただろうか。

 

思い返せば、そんなことは今までなかった。

 

家族のことを心配したことはもちろん何度もあるが、クラスメートを気にかけた覚えはない。

 

好きな本を読んだり、ピアノを弾いたり、イラストを書いたりといった、自分が好きなことをしているだけで満足していた。

 

また、私は同じ年齢の他の人より精神年齢が高かったのだろう。

 

自分以外の人が幼く見えてしまい、クラスの中では浮いた存在になってしまっていたように思う。

 

そんな私を周りの大人たちは「莉菜ちゃんはしっかりしているね。」、「大人びているね。」と誉めてくれたが、私はそういう言葉をかけてもらう度に複雑な気持ちになった。

 

確かにそれは私の長所の1つではあるだろう。

 

だが、その長所は逆に言えば、「子供らしくない」「可愛くない」「子供らしい独創性がなくてつまらない」と言い換えることも出来るだろう。

 

そういう意味で、それらの長所は私の短所だと解釈することも出来る。

 

ここまで読んでくださった皆さんはご存知だろうが、私は小さい頃から変わった子供であった。

 

小学2年生の時に自分の一人称を「僕」にしていた時期があった。

 

性別に違和感を感じていたという訳ではない。

 

理由は何となく男の子の一人称に憧れていたからというだけだ。

 

女の子の一人称は「私」、「あたし」くらいで代わり映えがしない。

 

また、「うち」というのもあるが、私にはあまり合わないように思った。

 

そういう訳で、当時の私は「僕」や「俺」と言った男性の一人称に憧れているところがあった。

 

「俺」はちょっと癖が強い気がしたので、「僕」にすることにしたという訳だ。

 

その1人称を私は何気に気に入っていたのだが、当時のクラスメートの1人から「女の子で僕は気持ち悪いから辞めた方が良い。」と言われたことがきっかけで結局一人称を「私」に戻した。

 

私は変わってはいたが、普通の女子だったので、抵抗なく一人称を元に戻すことが出来た。

 

その時に思ったのだ。

 

生まれつきの性別と身体が一致しない人はなかなか他の人に理解されずらいのではないかと。

 

私が一人称を「僕」と言っただけでもそのことについて抵抗を持つ人は決して少なくはなかったように思う。

 

私は性別と身体が違う人々も普通の性別の人と同じように扱われるべきだと思う。

 

少し他人とは違うところがあったとしても、それは個性として認めれるべきだろう。

 

しかし、理想と現実は違う。

 

そのような少数者は理解されずらいという面は否定出来ない。

 

そういう意味で少なくとも現代社会ではどうしても大なり小なり普通の人にはない苦労をすることになってしまうだろう...

 

そんなことを考えていた。

 

もちろん、当時の私にそのようなことを言葉にして伝えるという芸当は出来なかったが笑

 

その時、大きな音がした。前にも聞いた地響き。

 

嫌な予感がした。

 

私は慌ててベッドから飛び出し、様子を見に行く。

 

外に出るとそこには昨日と同じ紫色をした化け物、シサーガが立っていた。

 

シサーガは私に向かって紫色のたまを発射する。

 

「しまった、これは失敗した。」と心の中で思った。

 

普段はある程度計画を立ててから行動する私だが、突然攻撃されては計画も何もない。

 

「ここで死んだらそれまでだ!」と半ば投げやりになりながら私は高く跳びだいと強く願いながら、地面を蹴った。

 

サーヤが「強く願うことこそが魔法の基本」というようなことを言っていたのを思い出したからだ。

 

次の瞬間、私の身体は宙に浮き、シサーガの攻撃をかわした。

 

体制を立て直して地面に着地する。

 

「なぁんだ。本当に簡単じゃないか。」

 

清水さんこと純花が高く跳んだ時には凄いと思ったが、いざ自分でやってみると非常に簡単なことだった。

 

逆に純花が何故着地に失敗したのかがわからないくらいだ笑

 

私は敵の方向を向くと叫んだ。

 

「ミラクルトウェルブ、緑の魔法!」

 

サーヤに直接教わった訳ではないが、この前の純花の闘い方やサーヤが4つの色が完全なる世界を作りあげると言っていたこと、魔法を使う練習をした部屋にあったボールが赤、緑、黄色、青の4色だったことなどを考えるとこれで攻撃が出来るのではないかと思ったのだ。

 

私の予想は的中した。

 

私の呪文?によって空中のどこかから出現した緑色の線上の何かがシサーガに直撃する。

 

シサーガは呆気なく倒れると黒色の液体と化した。

 

「莉菜ちゃん凄い!」

 

いつの間に外に出て来たのか純花が叫ぶ。

 

同じくいつの間にか外に出て来て純花の隣にいたサーヤがいう言う。

 

「凄い才能ね!でも、才能だけでは一番強いシサーガには勝てない。」

 

私は前にピアノの先生が「ただ才能があるだけでプロのピアニストに成れるとは限らない」と言っていたことを思い出した。

 

才能以外の物とは何だろう。

 

それは恐らく言葉に表すのが難しい要素なのではないかと思う。

 

 そう言えば、私は最近ピアノを弾いていない。

 

プロを目指しているとかいう訳ではなく、単なる趣味でやっているだけなのだが、やはり数日練習をしていないと不安になるし、寂しい。

 

そのことをサーヤに告げると彼女は言った。

 

「そうね。純花も莉菜もそろそろ自分の世界に戻りたいわよね。わかったわ、復活したシサーガ2体は倒したから、元の世界に戻っていいわよ。その代わり、他のシサーガが復活したら強制的にこっちの世界に来て貰うことになってしまうけど、いいかしら。」

 

「復活したシサーガが2体だけだってことを先に言ってよ。」と内心思いつつも、私は現実世界に戻る方法をサーヤに聞いた。

 

「ここに来た時と同じことをやれば良い」と彼女は言った。

 

「ここに来た時何をしたんだっけ?」という純花に私が言う。

 

「誰にも見つからずに夜の12時に学校の桜の木の下にいって、木の周りを歩いて12周して、「ミラクルトウェルブの世界よ、我を呼びたまえ」って10回唱えたじゃない。」

 

「そっかぁ!」

 

「もう忘れちゃってたわけ?」

 

そんなやり取りをしたあと、私たちはこの世界に来た時と同じことをした。

 

最後のセリフを唱え終えた瞬間、突然強風が吹いて、私たちの視界が暗くなる。

 

やはり身体が光に包まれたような感覚があった。

 

現実の世界に戻った時、私たちはどこにいるのだろうか。

 

また、向こうの世界に居なかった時の私たちの存在はどのように扱われているのだろうか。