・第34話 恨みの底力

 

 好美は1人で歩きながら未だに昨日嘉穂に言われてことが引っかかって、胸の辺りがもやもやしていた。

「人殺し…人殺しかぁ…」、確かにそう言われたとしても仕方のないことをやってきたと思う。でも、主導権を握って積極的に彼女をいじめようとしていたのはあの松下理恵じゃないか。目の前に男5人が立ちはだかる。今井雄二たちである。

「この前は良くもやってくれたな。今度はああはいかないぜ。」と牧人。

「下劣ね。女1人相手に男5人がかりなんて」

昇が外界から遮断されたフィールドを作る。雄二が彼女に襲い掛かる。

「テメェごときの女の相手はこの俺1人で十分さ。ったく。なんで俺がこんな面倒なことしなきゃいけないんだか。」

「だいぶ見くびってくれてるわね。あんたなんかに私が負けるわけないでしょ。」

雄二の身体を好美が蹴り上げる。しかし、彼女の蹴りは何もない空中を切った。次の瞬間、後ろから雄二が後頭部に回し蹴りを放つ。好美は気を失って地面に倒れた。気が付くと彼女は手足を縛られていた。

「ちょっと、私に何する気よ?」

「決まってるじゃん、身体目当て」と牧人。彼は当初の目的を果たした。好美は目をつむって屈辱に耐えていた。そこに恥ずかしさも相まってとても惨めな気持ちになった。自分がやってきたことが、帰ってきたのかもしれないと思った。被害を受ける側がこんなにも苦しいだなんて。嘉穂もずっとこんな思いをしていたのだと思うと、はじめて彼女に対して申し訳ないという感情を抱いた。その時、何者かがフィールド内に入ってきた。ライフルを構えた朝比奈嘉穂がそこに立っていた。

「あんたたち、好美から離れなさいよ。」

「ちっ。」、雄二たちは舌打ちをしてその場から去っていった。

「嘉穂、あんた、どうして?」

「どうして、助けたかって?」、そう言うと嘉穂は薄気味悪い笑みを浮かべた。そして、手足が動かせない状態の好美の顔面を蹴り飛ばした。

「お前は、私がいじめるの。あの時のお返し。私が今までどんな気持ちで、屈辱に耐えていたか思い知らせてやるわよ。」

嘉穂は好美の身体を何度も蹴りつけた。そして、どこからともなく取り出したナイフで彼女の腕を切りつけた。彼女が悲鳴をあげる。

「覚えてなさい、殺人鬼。あんたにはお似合いの傷ね。その恐怖に満ちた目、最高だわ。ざまぁみやがれ。」

そして、彼女は高らかに笑いながら言った。

「この程度で済むと思うなよ、田村好美。私の恨みはこんなものじゃない。」