普段は滅多に映画館に行かないので(理由は横になれないから)、新作映画を観る機会はあまりございませんが、先日、キャリフォーニアはサンノゼへの出張のおり、往き帰りの飛行機の中で何本か新作を観ることができました。

 

『アイ・トーニャ』『バリー・シール』『ザ・コンサルタント』『キングズマン ゴールデンサークル』、どれも面白かったのですが、とくに『アイ・トーニャ』はよろしゅうございました。

 

一癖も二癖もあるフィギュアスケーター、トーニャ・ハーディングとそれを取り巻く人々を通じて、アメリカンな愚と間抜けをヴィヴィッドに描いておりまして、出演俳優がいずれも素晴らしい演技で魅せてくれます。ハーディングの「腹に一物」ぶりが余すところなく描かれまくりやがっておりまして、だからといって憎めないという微妙なキャラクターをマーゴット・ロビーがヒジョーに上手く演じております。母親役のアリソン・ジャネイの芸達者振りも実にイイ。ダメ人間のオンパレードなのですが、全員とにかく反省しない。前へ前へと進んでいく。この妙にカラッとした人間の愚にグッときました。

 

で、選手としての絶頂期、スケートリンクで縦横に滑る場面にかぶせて、フォリナーの"Feels Like The First Time"が流れます。これが映像とジャストミート。ルー・グラムのザラザラと乾いた歌声がハーディングのキャラクターとパーフェクトマッチング、ミック・ジョーンズの高揚感のあるメロディがハーディングの才能が爆発する瞬間を煽りに煽る。映画における音楽の使い方として最上のものを見せていただきました。

 

「歌は世につれ世は歌につれ」と申しますが、ある曲を聴くとその頃のことごとがブワッーとホリスティックに脳内で再生されることがありますね。名曲の文脈保持力・再現力と申しましょうか、これが音楽のひとつの素晴らしいところ。僕にとって"Feels Like The First Time"はまさにそういう曲です。『アイ・トーニャ』で改めてこの曲を全身で楽しんでいたころを思い出させてもらいました。以来、営業車の中でヘビーローテーションがかかっております。週一で出ている文化放送の朝のニュース番組『The News Masters Tokyo』でもエアーしていただきました(ちなみに、この番組ではしばしばオンエアする曲の選択もやらせていただいておりまして、ご用とお急ぎでない方はご一聴いただけますれば幸いに存じます。このところは「都倉俊一先生傑作選」という持ち込み企画コーナーで、「私の歌」「ブルドッグ」「ひと夏の経験」「渚のシンドバッド」「個人授業」といった一連の名曲美メロを解説いたしました。僕の出番は火曜日の8時台です)。

 

この曲の邦題は「衝撃のファーストタイム」。当時中学生だった僕にとって、フォリナーのデビューアルバム"Foreigner"との遭遇はまさに「衝撃のファーストタイム」でありました。ヒットした"Feels Like The First Time"はもちろん、"Cold As Ice" "Long, Long Way From Home"など名曲満載。フリーやバドカンがスキだった僕にしてみれば、同じ路線のザラっとしたロックでありながら、メロディーがもっとキャッチーで("Long, Long Way From Home"の中盤のホーンのフレーズはビートルズのパクリとしか思えない)、これはステキなバンドが出てきたものだと大喜びで聴いていました。

 

私見ではフォリナーはこの最初の1枚がすべてであります。2枚目の"Double Vision"の大ヒット、さらには4枚目の”4”の特大ヒットの後、「スーパー・スタジアム・バンド」になってからのフォリナーはデビュー時の美点がことごとく除去されてしまいまして、まったく関心ございません。

 

フォリナーの"Foreigner"は僕にとってワン&オンリーの歴史的名盤。少しでもイイ音で聴きたくなりSACDフォーマットで買いなおしました。

 

日常生活の中には、強文脈・濃文脈の名曲と再会する意図せざる機会が潜んでいます。名曲は忘れた頃にやってくる。文字通り、”Feels Like The First Time” feels like the first timeなわけでありまして、これぞプレシャス・モーメント。これからも偶然の再会が楽しみです。