特段クルマがスキというわけでもないのですが、電車や徒歩がキライなため、基本的に仕事場へはクルマで通っています。仕事場と自宅との往復だけでなく、現場をあちこち動き回るため、僕のクルマには「営業車」としてのスペックが強く求められるわけでして、とりわけ大切なのは小さいこと。この10年で時間貸し駐車場が増え、営業車が格段に使いやすくなりましたが、中には「えー、これって駐車できるの?」というような強烈に停めにくい配置の駐車場も多うございます。小さければ小さいほどストレスなくスカッと駐車できるという次第。


で、5年ほど前に営業車に就任したのがトヨタiQ。これは小ささという点では最高の営業車でございまして、横幅はわりとあるので社内空間はゆったりしておりますが、全長が軽自動車よりも短いという異形のクルマ。どこであろうと駐車できますし、道路上の時間貸スペースへの縦列駐車もお茶の子さいさい。これぞ営業のためにあるような傑作と惚れ込み、日々使用しておりました。


で、そのうちに英国のアストンマーティン社が何を血迷ったのか、iQの内外装だけをアストンマーティン・マナーに改装して新車「シグネット」として売る(つまり、エンジンやシャシーはiQそのまんま)というヘンな商売を始めました。


007のジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー時代)をトータルメディアとして敬愛しつつも、モノホンのアストンマーティンはデカ過ぎで営業車としてはまったく失格、何より僕には高すぎて買えないので、渡りに船とばかりに2年ほど前にシグネットに乗り換えたのでした。アストンマーティンのディーラーに発注後1年近く待たされた挙句に納入されたシグネット、現在も毎日営業車として大活躍しております。




僕の営業車の色はJBの「ゴールド・フィンガー」マナーの銀色になっております。



で、iQ(およびシグネット)の前は同じくトヨタのプリウスを営業車にしておりました。これは1回給油すると1000キロ走る素晴らしいクルマでしたが、ちょっと大きいんですね。その前はアルファロメオの147。小さくてカッコイイんですけど、ここぞというときに故障するので、プリウスに乗り換えたという次第。


このところの営業車遍歴はこんな感じなのですが、僕が学生のころに最初に手に入れた自分のクルマは、お友達から譲り受けたトヨタ・レヴィン。なぜか族車仕様で、すごい小さい径のハンドルがついてまして、お巡りさんにしかられました。で、これは前にも書いた記憶があるのですが、次が19万円で買ったいすゞ117クーペ。その流麗なスタイリングがスキ過ぎて、かなりヤバい個体をヤバさ承知で買ったのですが、1年ちょっとで走行中に車輪が取れるという凶悪な故障をし、その後も意地で修理して乗っていましたが、さすがに断念いたしました。


で、その後20代の半ばに乗っていたのがアウトビアンキ。いまから思えばこれも十分に凶悪なのですが、前任の117に比べると何に乗っても安心安全な気がして躊躇なく乗り換えました。案の定、高速道路でいきなり動かなくなってやむを得ず一人でAピラーに肩を寄せて押しつつ高速を人力走行するという貴重な経験もいたしましたが、これで小さいクルマの良さを知りました。


で、20数年前になりますが、突然ホンダから発売されたのがビート。オープン専用のバイクみたいな軽自動車でして、一目ぼれでこれに乗り換えました。いまでもビートこそが最高の営業車だと信じておりますが、そのころに子供が生まれまして、2人乗り、荷物はバイクみたいに後部にくくりつけて走るビートは現実的でなくなりました。


で、次に乗ったのが(当時としても)古い丸目のBMW320。かっこよくて大スキだったのですが、羽田空港からの帰りにエンジンから火を噴くというとんでもないことになりまして、廃車となりました。


さすがにヘンなクルマに乗るのに懲りて、30代からはフツーのBMW(これが僕にとってはじめてのオートマティック車でした)とかメルセデスベンツのEクラスとか、しばらくは面白みのない営業車に乗っていました。で、Eクラスがでかくてたるいので、前に記したアルファロメオに乗り換えたという成り行きです。


ということで、乗り始めて2年が過ぎたシグネットには大満足しているのですが、しばらく前から性能のイイ、速いクルマを営業車にしてもイイのではないか……という迷いがなぜかムクムクと鎌首をもたげてまいりました。


で、ポルシェ911とかアウディのRSとかメルセデスのAMGのGTとかは高額すぎてアレなので、日本車に限定して探してみたところ、ありました! レクサスがRCFというスポーツカーを昨年あたりに発売しているではありませんか。いまどき5リッターの自然吸気エンジン、トヨタの技術を結集したスゴそうなクルマでありまして、速いのはもちろん、BMWのM3とかその手のガチガチ系のスポーツカーに比べて運転もしやすいという評判です。


で、先日レクサスに行って試乗してみました。フツーのRCと乗り比べてみたのですが、RCFはもうまるで違いました。走りは素晴らしく、これが現代技術か!とビックリ。ドイツ車のキチキチに締め上げた感じというよりも、日本的な柔らかなタッチも気に入りました。わりと英国車系の味わい。


で、RCFの最大の美点はカッコイイ外観。これがRCとは似て非なるものでありまして、ドイツものよりも攻めていて、かといってアメリカンでもなく、日本的な洗練を感じます。賛否両論の派手なグリルも、外観だけでいえば僕がいちばんスキなアストンのザガートを髣髴とさせます。


これがそれ。RCF。


とくにリアビューがイイ。


で、多いに心を動かされたわけですが、結局乗り換えるのはヤメにしました。最大の理由はシグネットの小ささという利便性を捨てきれないからですが、もうひとつの大きな理由は、その稀少性にあります。シグネットは商業的には大失敗でありまして、150台ほど販売した時点であまりの売れなさ加減に生産中止の憂き目にあっているのでありました。販売期間はわずか2年。世界中で150台しかないわけで、日本にはおそらく30台もないのでは? 


先日の集いで聞いた話ですが、藤田さんも江端さんも同じクルマに長いこと乗り続けているようで、それが正しい中年の選択。還暦まではおとなしく現行営業車に乗り続けようと思います。すでに4万キロほど走っているので、とりあえず、いつも利用している出光にピットインしてタイヤを交換しました。