「競争の戦略」という分野で仕事をしておりまして、ここしばらくディメンショナル・ファンド・アドバイザーズ(DFA)という、米国はオースティンに本部がある資産運用会社について、わりとつっこんだ調査をしております。金融や投資や資産運用の業界は、僕の分野からするとあまり面白みがないので、これまでそそられる会社はごく少なかったのですが、ひょんなことから知るに至ったDFA、この会社は「優れた戦略ストーリーの生きた標本」といってもイイほど面白すぎる事例であります。これだけでご飯3杯はイケるという上玉中の上玉、この際腰を据えて考えてみようという気になり、いろいろと勉強しております。

で、先日のこと、日本の投資業界の方々に向けて、これからの資産運用のあり方についてのDFAの独自の考えを伝えることが目的として、東京国際フォーラムにてDFAが「ディメンショナル・インベストメント・フォーラム」という大規模な集いを開きました。これに僕も登壇させていただきました。

で、ファイナンス理論の研究者と密接に協働していくというのがDFAの特徴のひとつでありまして、このフォーラムにもDFAに協力しているファイナンス分野の科学者がたくさんいらしていました。これがどうしようもないほど豪華メンバーで、ノーベル賞を受賞したロバート・マートン先生&マイロン・ショールズ先生をはじめ、シカゴ大学のジョージ・コンスタンティニディス先生やジョン・グールド先生などが一堂に集結。ファイナンス分野に無知な僕でも知っているような大御所が大勢登壇なさいました。同僚のファイナンス学者の本多さんも登場。

で、僕だけがファイナンスの埒外。しかも、こうした大科学者とは違って、一応大学に所属はしておりますが、僕のやっているのは「科学」ではありません。この違和感をどう説明しようかと思ったのですが、とりあえず聴衆の皆さんには「お集まりのファイナンスの先生方がオリンピックの金メダリストだとすれば、僕はプロレスラーですので注意してください」と申し上げておきました。

で、ただのチンピラ学者の僕にとってはまことに光栄な経験だったのですが、さすがに緊張したのはフォーラムの前の準備段階でのディスカッション。フォーラムの本番は午後からだったので、午前中に登壇者が集まって事前の話し合いを行いました。で、僕が待ち合わせの場所に行ってみると、すでに議論がガンガン盛り上がっていました。

で、DFAのジョン・アルカイヤさん(この人が僕にDFAの面白さを気づかせてくれた恩人)が、「あー、ケンさんここの議論に参加してくださいね」と部屋に入れてくれたのですが、入ってみるとマートン&ショールズのノーベル・コンビがワンワンやっていらっしゃるんですよ、これが。僕はミーハーにも「おー、これがマートン先生とショールズ先生その人か…。生きているノーベル経済学者と話をするのははじめて、ラッキー!」と思ったのもつかの間、ショールズ先生がチンピラ学者(←俺)の目を見据えて、「で、キミはどう思う?」とおっしゃるんですね、ええ。

このときはさすがに「むむむ・・・」とばかりに言葉がすぐに出てこなかったのですが、ここで怯んではチンピラ・プロレスラーの名が廃ると気合を入れて、手前勝手な意見を申し述べました。若干の汗をかいたことをここにご報告いたします。

で、事前のミーティングも終わって、本番となりました。僕の出番はDFAのデイヴィッド・バトラーさんとの対談で、業界におけるDFAの独自の戦略がテーマでした。


チンピラ学者ぶりをいかんなく発揮。



デイヴィッド・バトラーさん。これまでヴィデオ会議では話したことがあるのですが、実際にお会いするのはこの日が始めて。僕の身長は182センチなので日本人としては背が高いほうなのですが、彼は206センチ!若いころは有名なバスケットボール選手だったそうです。




深くてイイお話を伺いました。


で、終了後はディナーがありました。


ショールズ先生。「写真をとってもよろしいですか?」と聞いたら、「1枚100円ね!」。ずーっと冗談ばかり言っている、以外にも軽いストロークの方でした。



マートン先生(左)とDFAのCo-CEOのエデュワルド・レペットさん(右)。マートン先生はヒジョーに話が長い方で、そのスピーチの深さにシビれました。ゴッドファーザーの映画に出てくるようなボスの風格。レペットさんはDFAにはいる前は宇宙工学の科学者だったそうです。


シカゴ大学のアビー・スミス先生。この方の実証研究は、学者の鑑というべき素晴らしい業績で大レスペクト。ご本人から研究についてのお話をわりとじっくり伺ったのですが、その悠然たる語り口に感動しました。


オリンピック・ゴールドメダリストの方々にお目にかかるという貴重な経験。いやはや勉強になりました。科学といえども芸術的。目が澄んでいる。

「俺はこれからもプロレスの道でやっていくぞ!」という意を新たにしたチンピラ学者の一日でございました。