日本経済新聞社の重原さん、この方とこのところちょくちょくお仕事をさせていただいておりますが、髪型こそ違うものの(氏はロン毛)、体質や体臭がわりと近い方でして、仕事以外にもちょくちょく「趣味の情報」を供給していただいております。

で、重原さんからお誘いを受けて試写会に行ってまいりました。『黄金のメロディー:マッスル・ショールズ』であります。音楽ドキュメンタリー。どういう映画なのかは公式ホームページをご覧いただくとして、あらすじだけ以下に引用しておきます。

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アメリカン・ネイティヴが<歌う川>と呼んだアラバマ州テネシー川のほとりにあるマッスル・ショールズ。人口8000人の小さな町、森の中にある小 さな町のフェイム・スタジオ、マッスル・ショールズ・スタジオの2つのスタジオから生み出された音楽は、歴史に残る重要な名曲を輩出してきた。マッスル・ ショールズは、政治や地理的な影響を受けずに創造性豊かな音楽活動ができる場所であり、白人・黒人という肌の色に関係なくミュージシャンが才能を発揮でき た場所でもあった。

マッスル・ショールズ出身のリック・ホールは地元の金属加工工場に勤める青年だった。貧しい家庭に生まれた彼は、友人と2人で田舎の薬局の 2階に小さな音楽スタジオを作る。そこでの活動はすぐに終わりを迎えるが、やがて1959年にマッスル・ショールズでフェイム・スタジオを設立する。地元 の白人のミュージシャンを集めて作ったリズムセクションを背景に同じく地元の黒人歌手アーサー・アレクサンダーを起用して録音した「ユー・ベター・ムー ヴ・オン」がヒット。これによりフェイムスタジオの名声はアメリカだけでなくイギリスにも轟くことになる。のちに“スワンパーズ”とよばれるこのリズムセ クションがつむぐメロディを武器に、リック・ホールとフェイムスタジオは1960年代のソウルミュージックシーンを席巻していく。全米で公民権運動が起こ りながらも南部には人種差別がまだまだ根強く残るその時代に、政治や肌の色に関係なく数々のソウルの名曲を生み出していく。
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試写会場は目黒にありますSONY PCL。さすがに音が素晴らしく、音楽映画の試写会場として最高でした。関係ないけど、配給しているアンプラグドの広報の人も可愛かった!

で、話を戻しますと、これが実にイイ映画でした。僕はうかつにもリック・ホールという人も、マッスル・ショールズという町も、フェイム・スタジオのことも、そこから分派したマッスル・ショールズ・スタジオのことも知りませんでしたが、音楽の理屈抜きの楽しさ、素晴らしさを心の底から知らしめてくれる感動佳作でございます。

で、とくに感銘を受けたのが、音楽、とくに軽音楽が生まれるプロセスにおける土着性の重みであります。僕は以前から、軽音楽創造の理想のモデルとして、モータウンの音楽が生まれた成り行きに多大な興味をもってさまざまな本を読み漁ってきたのですが、デトロイト→マッスル・ショールズ、ベリー・ゴーディ―→リック・ホール、ヒッツビル→フェイム・スタジオ、ファンク・ブラザース→スワンパーズと読み替えると、まったく相似形の話になっていることに驚きを覚えました。

極小時空間において自然発生的に生まれる濃密かつユルい人間の相互作用の中からこそ偉大な音楽は創発する。この命題の正しさを心の底から確信した次第です。

で、さらにおどろいたのが「スワンパーズ」という、スリーリズムを核とするスタジオ・バンドの存在。これが全員白人。しかも田舎町の兄ちゃん大集合。完全になりゆきまかせの手作りバンドなのですが、この人たちがウィルソン・ピケットの名曲の数々を録音していたといういうんですよ、これが!

ウィルソン・ピケットはスタックスの人で、演奏もブッカ―・T&ザMG'sだとばかり思い込んでおりました。ピケットの曲は僕が自宅クラブで踊るときのヘビロテ・ナンバーズなので、バンドさんとしてはスティーブ・クロッパー、DDD、アル・ジャクソンを脳内でイメージしながらこれまで踊ってきました。ところが、ジッサイに演奏していたのは、「ファンキー・ブロードウェイ」にしても「マスタング・サリー」にしても、マッスル・ショールズ土着ローカルなごくフツー(にみえる)の若者だったわけで、びっくりしたなあもう!僕が踊る曲としていちばんスキなピケット・ナンバーは当然ですけど当たり前ですけど"She's Looking Good"なのですが、これも演奏はスワンパーズなのかな?

話はそれますが、ここで僕が機会があるごとに繰り返してきた自慢話を聞いてやってください。20年ほど前にスティーブ・クロッパーがブルース・ブラザース・バンドで来日してブルーノート東京でライブをやったとき(そのころ、BNTはソーセージレストラン「スモーキー」の横にあった)、飛び入りして「ノック・オン・ウッド」を歌わせてもらったことがございます。ステージ至近の場所でノリノリで踊りまくっていたら、クロッパー先生が「そこのおまえ、ステージに上がってきて歌え!」とお声がけくださったんですね。右をみればスティーブ・クロッパー、左をみればマット・マーフィー(二人とも想像よりもずっと小さい人でした)、ヒジョーに気持ちよく歌わせていただきました。当然ですけど。当たり前ですけど。思えばこのときが僕の人生のピークだったわけですね、ええ。

で、話を戻しますと、スワンパーズでとりわけスゴくイイのが、ドラムのロジャー・ホーキンスとベースのデヴィッド・フッド。このリズム体は本気(と書いてマジと読む)で最高です。見た目と音楽のギャップがたまりません。


前列左の眼鏡がホーキンス、その右がフッド。ホーキンス氏のシンプルかつさりげないグルーヴは半端じゃないんですよ、これが。


で、映画に影響されて久しぶりにクラレンス・カーター(この人もマッスル・ショールズのアーティスト)を聴いてみました。「パッチズ」、改めて聴くとeeなあ!この声!たまりません…。


驚くほど驚く音楽映画どう? この辺の音楽がスキな方に、『黄金のメロディー:マッスル・ショールズ』を全力でお勧めします。