ファーストリテイリング社の手伝いをするようになってずいぶんたつのですが、ご一緒に仕事をする一人に神保さんという方がいらっしゃいます。この方の仕事に対する姿勢が清々しくも素晴らしく、僕は前々からひそかに尊敬していたのですが、神保さんから同じFRで働く塩田さんという方を紹介していただきました。

塩田さんは生まれつき聴覚がなく、ようするに音のない世界でずっと生きていらっしゃいます。身体上の不自由が頭髪以外にない僕にとって想像するのも難しいのですが、塩田さんは訓練をしてさまざまな問題を克服し、健常者と同じように発声することができます。学生時代はサッカー選手として活躍し、ユニクロのお店で務めたことをきっかけに、FRに入社、現在は本社で活躍していらっしゃいます。

神保さん(左)と塩田さん(中央)。塩田さんにこちらから話しかけるときはボードに書く。

塩田さんからお手紙をいただいて知ったのですが、旧知の神保さんが(塩田さんがそう呼んでいるのですが)ご自分の仕事以外の時間を使って塩田さんのために「神保塾」を開き、一対一で事細かに指導・育成に取り組んでいるとのこと。障碍を克服して立派な社会人として立っている塩田さんが偉大なのはもちろん、詳細は省略しますが神保塾で神保さんがなさっていることのひとつひとつが素晴らしく、あの神保さんならそういうことをするだろうな、と思いつつも、なかなかできないこと(少なくとも僕にはできない)、神保さんだからできることだと感嘆するものがありました。

自分のお仕事だけでも大変なのによくこれほどのことができると思うのですが、当の神保さんに言わせるとこれは彼にとっての「塩田塾」であり、自分にとって学びとるものの方がずっと多いということでした。

この話を聞いてますます神保さんに対する尊敬の念を深めたわけですが、考えてみますに、自分がそういう人間でないゆえに知らないだけで、世の中には塩田さんや神保さんのような人間として本質的に上等な人、立派な人がけっこうたくさんいて、だからこそこの世の中がこうして回っているのでしょうね。

翻って自分を顧みてみますに、これまで50年、流れるように生きてきたわけで、イージー極まりない性格と生活の明け暮れ。日々の仕事が終わると横になってグータラすることだけを真剣に追求してきたわけですが、いくらなんでもこれでいいのか、もう少しはきちんと仕事や生活に向き合わなければいけないのではないか。おまえもちっとは善いことをしてみろよ!という声がどこからか聞こえてきたような気がしました。

とはいうものの、「そもそもそういうことができない人間だから、お前が今日のていたらくになってるのではないかね?」というもう一つの声がかなりの説得力をもって心の奥底に響いたこともまた事実であります。

いずれにせよ、若干の手遅れ感はぬぐいようもありませんが、塩田さんと神保さんのような立派な人が身近にいるということだけは忘れないようにここに書いておきます。