最近のわが家のもっともヘビロテ・ディスクはテンプスでありまして、いまやS10もすっかりテンプトされています。


60年代半ばから70年代初めにかけて爆発したテンプスのテンプティングな音楽は、ベリー・ゴーディー(総監督)、スモーキー・ロビンソンとノーマン・ホイットフィールド(企画・開発)とテンプスのメンバーの才能がこれ以上ないほど理想的なバランスでかみ合って生まれたもの。この意味でテンプスは「企画モノの天才」であります。


いかにテンプスが企画モノだったかは、企画開発の中心人物がかわるとわりとガラッとその音楽が変わってしまうという事実に色濃く反映されております。この辺は「純粋天才」のスティーヴィー・ワンダーと対照的ですね、ええ。


テンプスが誰にも止められないほど大爆発した8年間(64年から72年)は期に分けることができます。


1:R&B期

雌伏4年を経て初のヒットとなったスモーキー作の"The Way You Do The Things You Do"から、後述するデヴィット・ラフィンが脱退というかクビになるまでのオリジナル・テンプス時代


2:サイケデリック・ファンク期

ノーマン・ホイットフィールドがその本性を現してサイケなファンク大作主義に突入していった期間。デニス・エドワーズが加入して"Cloud Nine"がリリースされてから、"Papa Was A Rolling Stone"で「侘び寂びファンク」に突き抜けてしまうまで。ゴーディー用語でいう「ニュー・ソウル」に傾倒していった時期。


それ以降は「どうでもいい期」とでも呼ぶべき不毛の30数年。慣性のままにごくフツーのソウル・ファンク・グループとして現在に至りますので、テンプスがテンプスだったのは、あくまでも上の2期8年に限定されます。


The Temptations
Hum Along and Dance: More of the Best (1963-1974)

どうしようもなくテンプティングなテンプテーションズのオリジナル・メンバーはこの5人(キーが高い順)。

エディ・ケンドリックス:通称エディケン。潤んだ瞳のハンサム野郎。超絶ハイトーン・ヴォイスがどこまでも突き抜ける。ノーマンのサイケ大作主義についていけず、またポールの自殺に嫌気が差して途中で脱退。モータウンに残り、ソロでディスコ路線のヒットをだすものの、50才そこそこで肺癌のため死去。S10はエディケンの大ファンであります。「エディケン、かわいー!!」(S10談)


デヴィット・ラフィン:「目の細かい紙やすりでハートをこすり上げるようなヴォーカル」と大絶賛された天才ヴォーカリストであるとともに最高のステージ・エンターテイナー。その反面、完全な社会不適応者で、R&B期に終わりにクビに。その後、天性の才能の貯金でソロとしても成功するが、麻薬の過剰摂取のため50才で死去。トレードマークのメガネも含めて、R&B界の横山やすしとでもいうべき存在。


オーティス・ウイリアムス:実質的なリーダーでグループの取りまとめ役。専門的な音楽解説によれば、オーティスの歌はテンプスのハーモニー構成重要不可欠だったということですが、表面的にはきわめて地味な存在。現在も生存する唯一のオリジナル・メンバー。


ポール・ウイリアムス:初期はリードをとることが多かった魅惑のバリトン。ソウルフルな歌唱、リズムの切れともに最高で、ステップのノリはテンプスで随一。アルコールで精神の安定を欠き、サイケデリック・ファンク期の終わりに34歳で自殺。


メルヴィン・フランクリン:ダンスでもヴォーカルでもリードも取れる超ベース・シンガー。温厚で成熟した人柄はデヴィットと好対照。「どうでもいい期」に入ったテンプスを長らくオーティスとひっぱるが、90年代に力尽きて死去。


左からエディケン(92年死去)、デヴィッド・ラフィン(91年死去)、メルヴィン・フランクリン(95年死去)、オーティス、ポール(73年死去)


えー、「聴くな、観ろ!」というのが正しい天才の味わい方である、というのが長年の僕の主張でありますが、テンプスこそこの真理がガツンとくるアーティスツはございませんよ!曲もリードもハーモニーもバラシースでありますが、これはテンプスの魅力の約43%に過ぎません。残り57%はダンス、ダンス、ダンス!であります。ありとあらゆる黒いノリのステップが最高の状態でパッケージされたテンプス映像はソウル・ステップの満漢全席。ポール・ウイリアムスのステップマニアックな完ぺき主義が他の4人に伝染してできあがった20世紀の奇跡でございます!


その一例をメドレー でご覧ください。数あるテンプス・ステップの中でも僕がいちばんスキなのは、この最後の方にある"I'm Losing You"のステップ。テンプスといえば「テンプス・ウォーク」に目が行く人が多いのですが、ノリ、切れ、コク、黒さ、あらゆる点で"I'm Losing You"には痺れます。


R&B期のハイライトとしましては、以下の名曲をチェキラ!聴覚と視覚を総動員して楽しみますと、まあまあ不思議、いつの間にか嗅覚や触覚までもが黒い魅力のとりこになりますですよ、ええ。

The Way You Do The Things You Do :一列に並んで、はいドーゾ!の怒涛のステップからオリジナルのコーラス・ポジションに戻るところ、何度でもお楽しみください。

My Girl :説明不要の代表曲。デヴィッドの紙やすりに心をゆだねてください。オリジナルなステップも満載です。

Ain't Too Proud To Beg :間奏のときの例のグルグル・ドンの動きがタマリマセン・・・。

Get Ready :エディケンがグルグルと手を回しますと、天まで届けとばかりにハイトーン・ヴォイスがかけ上げっていきます。

You're Everything : エディケンの歌いまわし、とろけます!


サイケデリック・ファンク期の名曲は:

I Can't Get Next To You: 全員でソロをとるタイプの名曲。例のステップ意外にも、細かいフックが満載のテンプス仕事の典型です。

Cloud Nine : 第2期のノーマン路線を決定づけたグラミー賞受賞曲。デニス・エドワーズのハイスピードな声はイイね!

他にもまだまだたくさんあるのですが、今日はこれぐらいのところで勘弁して差し上げましょう。


結論:テンプスの魅力、それは一言でいうと「分化と統合の同時極大化の極致」。組織論的にいえば、ローレンスとローシュの命題を地でいくグループがテンプテーションズであります。ステップをみてもハーモニーを聴いても、完全に調和と一致が確立されているにもかかわらず、一人ひとりの個性がエグイまでに前面に飛び出てくるという、この矛盾した美しさ、イイね!iiner! iinest!! 


ステップで言えば、完全に振り付けが決まっているにもかかわらず、その実5人がバラバラ。あえて小さくノリをまとめるスマートなエディケン、アドリブでグングンとアウトしていく「ミスター横揺れ」ことデヴィッド・ラフィン、抜群の安定感がクールなオーティス、サイドステップの切れとヨコに切れていくときの表情がたまらないポール、豪快で大きなノリのメルヴィン。完璧な規律のもとでの超ワイドレンジの多様性。それは古今東西の美しさの理念型が凝縮された表現形態であります。


Temptations, forever!!