今週の水曜、
カーディナルスのトニー・ラルッサ監督の講演に行きました。
ラルッサ監督は、
79年に34歳の若さでホワイトソックスの監督に抜擢され、
89年にはオークランドA'sでワールドシリーズ優勝。
ホワイトソックス、A's、カーディナルスで通算2202勝と、
歴代3位の勝利数を残しています。
その名監督が、日常生活にも通じる、
彼の野球観について1時間ほど話してくれました。
あたりまえのように思える事も入っていますが、
あえてポイントは省かず、最後に自分なりにまとめておきます。
挿話を全部話せば、もっと面白いかもしれませんが、
入れなくても十分長くなっているので、程々に。
1つ目のテーマはfear、「恐れ」について。
まず「良い恐れ」と「悪い恐れ」を認識して、
悪い恐れを抑えなければならない、と言っていました。
良い恐れは、例えばワールドシリーズの第7戦を前にして、
かかったものの大きさのために、不安になったりする事。
悪い恐れの例は、自分が失敗する事を恐れたり、
失敗をする事で恥をかくのでは無いかと思う事です。
悪い恐れをいだいている人は、引っ込み思案で、
何も出来ないままチャンスは通り過ぎてしまいます。
自分がコントロール出来る事なら、
失敗する事を恐れず、どんどん挑戦するべし、と言う事でしょう。
次に話したのは、toughnessについて。
「悪い恐れ」を乗り越えても、プレッシャーの中で、
自分の最高のパフォーマンスが出来るとは限りません。
プレッシャーのかかった時に出来るだけ平静を保つためには、
精神的にタフでなければなりませんが、
どうすればタフになれるのでしょうか?
まず、野球なら、相手の選手の傾向などを、
事前に調べておく事で、
本番でのプレッシャーをそれほど感じなくて済みます。
大事なテストの前も、勉強をしっかりしていた時の方が、
安心して受けられたと言うのは、
多くの人が体験した事だと思います。
加えて、場数を踏めばプレッシャーにも慣れてくる、
と言うのも忘れてはなりません。
ホワイトソックスの監督になり、初めて選手を集めて話したとき、
ラルッサ監督は汗をダラダラ流し、
冗談を話しても落ちを忘れたりと、散々だったそうです。
誰でも最初は失敗するものだ、と言うのは、
「悪い恐れ」を克服する助けにもなるでしょう。
ラルッサ監督が、最近のメジャーリーグで気になることだと話したのは、
6、7割の力を出しても年に何百万ドルも貰えるので、
それで満足して全力を出さない選手の存在です。
同時に、個人成績を伸ばせば給料はもらえることから、
チームが負けても自分が打てればいい、という選手もいます。
カーディナルスでこのような選手が出ないようにするために、
チームの成功を個人的な事として受け止めるよう、
常に念を押しているそうです。
しかし、普段のチームメイトやコーチたちとの関係が無ければ、
そんな事を言われても反応は無いでしょう。
どうやってこれを克服しているのかは、
Q&Aのセッションで明らかになりました。
自分が質問したのは、選手の多様性について。
カーディナルスにはもちろん日本の田口壮選手がいますし、
プホルスをはじめ、スペイン語が母国語の選手も多くいます。
人種で見ても白人、黒人、アジア人、混血の選手が揃っています。
この環境で、チームの調和に関わるトラブルを起こさないように、
監督として、そしてチーム全体で、
どのような事に気をつけているのかを聞いてみました。
答えとして返ってきたのは、
まず母国語が英語でない選手には、
英語を習うための手助けを惜しまないと言う事。
ここまでは恐らくどのチームでもやっているでしょう。
次に話してくれたのは、監督自身も、スペイン語を話し、
選手たちとスペイン語で話すのを楽しんでいると言う事です。
田口選手がカーディナルスに入ったばかりのときも、
毎日1つ、日本語の単語を覚えるように頑張っていたそうです。
1週間ほどで訳が分からなくなってしまったようですが(笑)
質問者(自分)がアジア人だったことから、
多分田口選手について聞きたいのだろう、と思ったのでしょう。
田口選手のホームページに載っているような、
チーム内で起こった話も、監督の視点からいくつかしてくれました。
質問の答えとしては、「変化球」でしたが、
おかげでカーディナルスのマネージメントで、
何がキーワードになっているのか、分かったと思います。
それはfamily。
選手たちが失敗を恐れないようにするには、
コーチたちは親身になってサポートしなければなりませんし、
同時に、失敗を繰り返さないためには、
時には厳しく問題点を指摘しなければなりません。
ここまでは、誰かの指導をする人にとっては当然の話ですが、
カーディナルスでは、勝負と関係のないやりとりも、
家族のような親密さで行われている、と言う事が
監督の話で分かりました。
監督からこれが始まっているので、
選手たちも兄弟のような関係を意識するようになりますし、
その連帯感があれば、チームの勝敗が個人的な問題になります。
無論、家族の中ではいざこざもあります。
しかし、関係のうまくいっている家族なら、
しっかり問題を内部で処理し、解決に持っていけるものです。
カーディナルスでこの処理能力が機能していることは、
メディアに不満を漏らす選手がいないことで分かります。
この質問をした背景の1つには、メディアを巻き込んでの、
ドジャーズのブラッドリーとケントの人種差別問題があるので、
それと比べてもしっくりとくるものがありました。
実は、アメリカのチームスポーツでは、
チームを家族にたとえる事は少なくありませんが、
カーディナルスほど実現出来ていると思える例は珍しいです。
以上が、監督の話から自分が得た、
カーディナルス成功の理由(の一部)のようなものです。
皆さんの考える種にでもなってくれれば満足です。
ラルッサ監督に質問をした理由として、
ドジャーズの現在進行形のトラブルを挙げましたが、
poochaさんの記事 の影響も大きかったです。
記事への直接の反応では無いですが、
トラックバックさせてもらいます。
そして、ブログをやっていなかったら、
質問をせずに終わったかもしれません。
コメントが記事を書く励みになるのはもちろんですし、
日常でも色々考えさせてもらっています。
この機会をもって、読んでくださっている方全員に感謝します。