何年も前になりますが、僕は義父に向かってこう言いました。
「男として認めるわけにはいかない」
男と女の情愛がなくなり離婚するのは仕方ないです。
それはもう仕方ない。
しかし、子供には関係ない話しです。
妻が18歳のとき親が離婚。
家族はバラバラ。
15歳の妹を連れて2人暮らし。
養育費などもらえなく、妻は職を求めて履歴書を書くも、電話番号欄に番号を入れられない。
電話を入れるお金がなかったのだ。
『電話を入れるお金を貸して欲しい』と義父に連絡をしても『金なんてない』の一点張り。
そもそも愛人が常にいて、離婚してからも、お金は女に使っていた。
病気や怪我で、どうしても養育費が払えないなら仕方ないと思う。
でも、泡銭で入ったかなりの額のお金も、豪遊して使ってしまった。
子供たちには一銭もお金を渡さず。
18歳で友人だった妻のアパートに行った時、チャブ台に食べかけの人参がゴロンと。
ふやふやに増やしたお粥と食べていた。
僕は何の苦労もしない若者(バカもの)だったので、明るく笑っている妻の苦労がよく分からなかった。
悲壮感を出さないのが、彼女のプライドであり、弱点でもあるだろう。
わけを話して『1万円ください』と言ったら、絶対にあげていたのに。
妻は、本当に悩んでいることほど話さない。
男女の情愛が冷めて離婚するのは仕方ない。
でも、子供には関係のない話し。
払えたのに、養育費をいっさい払わなかったことへの怒りは、もしかしたら妻以上です。
一銭もないような状態で、15歳の妹と家を出なくてはいけなかった。
妹を守るしかなかった。
それに対して何も思わず、新しい女と豪遊していた。
あることで口論になり、僕は言った。
「同じ男として認めるわけにはいかない」
年上だとか、義父とか関係ない。
我が子なら、最低限お金を作って守るべき。命削ってでも働いて守るべき。それが男だ。
そんな最低限のこと、当たり前すぎて『守る』だなんて言えないレベルの話し。
今さら父親ぶって偉そうにするなんて許さないと言った。
義父が『癌かもしれない』と連絡してきた。
『検査しますが、ほぼ癌と思っていいでしょう』と医者にも言われた。
その後も、妻と義父は色々あった。
色々あったのだが、『癌かも』の言葉で、妻は全てを許した。
献身的に義父に付き添った。
義父はアクの強い人なので友人はいない。
親族とも喧嘩して会っていないらしい。
許してくれるのは妻しかいなかった。
許すとか許さないではなく、『孤独な1人の老人』が困っている。
ただそれだけだ。
妻が献身的に付き添っているのに、僕が許さないわけにはいかない。
娘も思うところはあったのだが許した。
義父は、血気盛んだった僕の暴言を許した。
皆んなが皆んなを許した。
義父は結果的に癌が見つからなかった。
皆んなで笑いながら『良かった良かった』と食事をした。
いろんなわだかまりも溶けて、『良かった良かった』と笑って食事をした。
また何かのきっかけで口論になるかもしれない。
僕は切り札のように
『養育費払わないで女に貢ぐ男は、男として認めない』と言ってしまうかもしれない。
そんなことをしながら、また何かで笑いながら食事をしているのだろう。
義父は自分がしてしまった過ちを、全てなかったことにしてしまう特技がある。
そこに腹が立つ。
義父は、僕から言われたことも全てなかったことにしてしまう特技がある。
そこは尊敬する。