奇跡が消える頃。虚しい。夏の陽射しもかかしの軍手も雲の移ろいもスズメの囀ずりも錆びた看板もじっとりとまさぐる潮風もあの山に響く汽笛も蹴り飛ばした空き缶も誰かの葬式もあの悲しそうな笑顔もなにひとつその透明な美しさを音楽は伝えてくれなくなった。こんなにも自然は無機質でこんなにも心は敏感なのに。音楽はなにも伝えてくれない。なんと虚しいことか。あの撫でられるような音楽はあの町の風に還ってしまった。枯れていく町に錆び付く看板の「新発売」は風に吹かれて― 古志野光