*************これまでの話********************************

父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送されたと妹の莉子から連絡があった。
父に万が一のことが起こることを考えて、早いうちに妹の莉子にFAXで送ったToDoリストからはじまったコオと莉子のやりとりは険悪さを日々増すだけであった。

しかし、2日後父は意識を取り戻し、順調に回復しERから別病院に転院することになった。

転院前日に、莉子はコオの代わりにコオの夫・遼吾に送迎を依頼する。腹を立てるコオに遼吾は、「大事なことは、お義父さんの回復」と言い聞かせる。しかしコオは、父が遼吾を認識していることを確認してから、送迎を頼むことにする、と遼吾と話し、転院の朝、二人で病院に向かった。

 

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 面会者は、ERに入るにはER内から開けてもらう。

 コオと遼吾がついたとき、ERからインターホン越しに外側で暫く待つように言われた。

 少し、離れた場所に、ソファのおいてあるスペースを見つけて、コオと遼吾は、自動販売機で飲み物を買って、そこで待つことにした。

 

 「・・・転院先に言って手続きのこととか、聞いてるの?」

 「いや。ただ、転院先まで連れてってくれって。それだけ。」

 「・・・なに、それ?」

 

  遼吾は基本的に省エネだ。興味のないことには、最低限の労力しか払わない。人が物を落としたのを見ても、「落としましたよ」と知らせるのがせいぜいで、拾って差し出す事はしない。結婚前からロボットみたいだ、とよく思ったものだ。

 でも、莉子も莉子だ。ただ転院先に連れて行ってくれって・・・入院手続きのこととか、どうするつもりなのだろう。

 しかし、時間のほうが気になっていたコオはそれ以上は考えず、看護婦に呼ばれるまで、いつERへのドアが開くのかばかり見ていた。

 

 「嶋崎さん、どうぞ!」

 

コオは頭を下げて、遼吾と病室に入った。父は起きていた。

 

 「おはよう。今日はね、嶋崎くんも連れきたの。わかる?」

 「おお、おはようございます、すみませんね、迷惑かけて。」

 

父は、どれくらい記憶があるかはわからないが、少なくともこれで遼吾は知らない人ではなくなった。よし。

 

「今日ね、病院、ここから移るんだって。聞いてる?」

「ああ、そうなんだ。でどうやっていくんだ?」

「私ね、仕事があるんで転院先まで一緒に行けないんだ。それで・・・莉子もこれないっていうし、それで、嶋崎くんが一緒に行ってくれるから…ごめんね。一緒に行けなくて。会議があるから抜けられないの。」

 

父はまた、それは申し訳ない、と遼吾に頭を下げた。