嫌がる私を夫は半ば強引にオデッセイに乗せた。

何処に行くの?と聞かずとも、病院に行くのだとわかっていた。

強い風に雨が混じり、叩きつけるように窓を打っていた。


夫は恐らく、鈴木医師から、このままでは私が死んでしまうから連れてきて欲しいとでも言われたのだろう。

深夜の街は人の姿も通り過ぎる車も少なく、20分程で病院の駐車場に着いた。
 


入り口の警備室にはまだ20代前半に見られる男の子が座っていて、私たちを見ると電話をとった後、自動ドアの鍵を開けた。

暗闇の中に鈴木医師が立っている。

夫に外で待つように言うと、私に診察室に入るよう目で合図をした。
 

診察室の電気が灯る。

いつものように、私を膝の上には乗せない。
 
抱きしめもしない。

口を開く。

『なんでこんな夜中に病院に来なきゃいけないの?』

『君、僕がいなくなったら死ぬもの。』

『死なない。』

『いや、死ぬよ。君は僕に依存しすぎている。しかも同種がいなくなる。君は死ぬ。』
 

鈴木医師が電話の受話器をとった。

『いや、二人じゃなくて、三人お願い。うん。今すぐ。』


そして受話器を置いた。

『何するの?』

『君を死なせないように』

『どういう・・・』

言いかけた時に、診察室の扉が勢いよく開き、三人の男が入ってきた。

いきなり私を押さえつける。
 
私は抵抗する。
 
すればするほど力強く羽交い締めにされ、三人で私を担ぎ上げた。

 
『離して!』

私の絶叫が夜の病院に響き渡る。

押さえつけられれば抵抗する。人間の本能だ。
 

そのまま廊下に出る。
 
私の絶叫がこだまする。
 
 
心配そうに警備室の男の子が見ていて、
 
私は
 
『助けて!!警察呼んで!!』

一瞬受話器に手をかけるが、鈴木医師がかけなくていいからね。
 
と言うと手を引っ込める。
 
鈴木医師が夫に何か言うのが見える。
 
担がれ絶叫する私の後を夫と鈴木医師がついてくる。
 
エレベーターに乗る。
 
上がってゆく。
 
開くはずの扉が開かない。
 
開くはずのない反対側の壁になっている方がウィーンと開いた。
 


始めに聞こえてきたのは、風の唸るような人々の叫び声だ。
 
渦を巻くような怒涛の叫び声。

一人や二人じゃない。
 
何十という唸るような叫び声だ。

私は全神経が凍りつくのを感じた。
 
いや、一瞬、完全に凍りついた。
 


そこは、地獄という世界に通じる扉だったのだった。
 
 
 
 
「ようこそオレンジ病棟へ」
 
 
 
 
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読んでくださりありがとうございます。
今日もいい日でしたか?
どんな一日だったでしょうか。
あと一話で「オレンジ病棟~親愛なる鈴木医師へ」が終わります。
回想シーンが終わります。
本編に戻ります。
もうしばらくお付き合い頂けたら幸いです。
明日もよき日をお過ごしください。
 
sae