ファイナルファンタジー<その4>



  その夜は、マリが生まれた日と同じ光曜日の満月で、邸宅の大広間のステンドグラスからは虹色の光がやんわり漏れていた。

   純白の衣装に包まれて、アシュリーはいつかのあの青空を想った。最期に着た真っ白なワンピースの日のあの青空を。


   私は、お前の恋人になれて良かった。


   彼の胸の中で、最期に綴ったのは、確かに……彼への愛の言葉。

   最後の幻想。

「"私"が最後の恋人になるよ……"マリ"」

   アシュリーは呟いた。ステンドグラスに描かれた女神像に祈る。

「女神様、どうか。彼に一雫の武運を……

   もしも、世界が、今日で終わってしまうのなら、最愛の人とこの世で最も美しい物だけをかき集め、愛の言葉だけを並べて、幻想の中で……

「ほう、めかしこんだものだね」

   セルベスが手を取る。

   私は、泣かない。

   私は、負けない。

   ダイヤモンドで飾られたギラギラとする婚約指輪が、その薬指に。

   アシュリーは瞳を閉じて、上向き、息を吸った。

   そして叫ぶ。

……遅いぞっ!シルバー!いつまで待たせるつもりだ!時既に時間切れだっ!!」

   大広間の扉が静かに開く。

   真っ白い燕尾服の男が1人。

   男は深く被ったその白いシルクハットを脱ぎ捨てた。

「それほどでもない。」

   少し垂れた大きな耳。縞模様の入ったフサフサとした長い尻尾をゆったり揺らしながら入ってくる。

   半分くらいまで歩いた所で、用心棒に囲まれ、彼は抜刀する。

   手には、古い双剣。

……このような席にお招き頂き有難う、セルベス殿」

「誰だ?私はネコなんか呼んだ覚えはないんだが」

「私は貴方が招いたミルドリアンMメルヴィウスですが何か?」

   彼の剣が紫電と紅蓮を纏う。

「喧嘩を売る相手の顔もご存知なかった、と……そうですか……まあいい。私の恋人を、返して頂けますか……?」

   流転。彼は数人薙ぎ払うと、すんと牽制した。

「シルバー……全く心臓に悪いぞ。もう来ないのかと思った」

「こういうのはギリギリまで来ないのが決まりだろう?」

   呆れるアシュリーに、シルバーはニヤリ余裕げに笑って見せた。

いやはや。まさか、あの汚れた混血児の噂は本当だったのか。メルヴィウス卿、ようこそお越しくださいました。私は、てっきり、貴方様はもっと高貴なお姿のエルヴァーンだと思っていましてね?まさか、どうして、チビの猫耳だなんて思わない」

   セルベスはシルバーにいやらしく敬礼をすると、ジタバタと暴れるマリをひょいと引っつかみ、彼女のこめかみに銃を突きつける。

「貴公にはご着席願おう。……そうだ、そこで大人しく見ているといい」

   シルバーは片眉跳ね上げ、セルベスと対峙する。セルベスは続ける。

「アシュリー、結婚してほしい」

   もう一度、 黄金の婚約指輪が、彼女の薬指に。なんて趣味の悪い指輪だ、とシルバーは額に手を当てて嘆いた。

早く『はい』と言え!」

   アシュリーは顔を背ける。

「早く!!」

ママにゃ……

   シルバーが固唾を飲んでいる。

さあ!」

「私は……

   アシュリーはきっと顔を上げた。


   絶対言わない。


   アシュリーは翻した身で、裏拳をセルベスの顎に叩き込んだ。彼は不意の出来事によろめき、子供と銃を落とす。黄金の婚約指輪は滑り落ち、床に落ちて高い音を響かせた。その音と共に、満月の瞳がすぅと細くなる。

仮にも婚約者に向かっていきなり裏拳ぶち込むだなんて……流石だよ…」

   靴のヒールが踊る。双剣が舞う。

「全く君らしい」

   その白い燕尾のテールはくるり一周すると、ピタリと彼女の背に着いた。

「僕のお嫁さんはちょっとした暴れ馬みたいだね。まあ……僕は少し乱暴なくらい跳ね返ってる方が好みだけど」

……うるさい」

「さあ武器を持って。君は戦う姿の方が、綺麗だよ」

   また満月の瞳がすぅと細くなって、いつもの様に不敵に笑いながら、事も無げに言う。アシュリーはシルバーからベルトとダガーを受け取り、頭を横に振りながら、背中なら任せておけと笑った。

「リトルレディ」

しるばーているにゃ?」

「そうだよ。僕はシルバーテイル。……いい子だ。しっかり掴まっておいで」

   シルバーは2本のレイピアを納めると、正装用のサーベルを抜いて、マリを左脇に抱える。

子供を抱えて片腕で戦えるのかな?」

「私を誰だと思っている。この国では不敗の赤騎士と呼ばれた男だぞ。貴殿ごとき片腕で十分だ。度重なる非礼、その身を持って償ってもらおうか」

   セルベスの言葉をシルバーは一蹴する。出合え出合えと用心棒に囲まれ、アシュリーは眉を跳ねあげたが、シルバーは口元を少し吊り上げて、大丈夫と応えた。

「まだ僕のゲスト達が未到着だ。……そうだろう!?」