【愛故に四肢を断つ】
♂:足立 庄司
♀:子々崎 愛
総数2
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AorB 「2009年5月3日、その日は燦々と雨が降っていて、空を見上げたら憂鬱な気分になったと思います。ある男はレンターカーを借りて、時速80キロ以上で交差点に突っ込み、死者3名、負傷者18名の大事故を起こしました。血だらけの男は、衝突した車の中から女性を引きずり出し、用意していた包丁で滅多刺しにしたそうです。…ただ、この殺傷事件は直接的には、私に関わりはありません。私達は玉突き事故に巻き込まれただけですから…」
B「足立さん」
A「んん? 何だい愛ちゃん?」
B「義手パンチ」
A「あだっ」
B「ティーゼル重工社さんの四月の売り上げが、報告書から抜け落ちてますよ。あと、ちゃん付はやめてくださいと前にも再三言いましたよね。何度言ったらわかるんですか、不快です」
A「ごめんごめん。 …またやっちまったな」
B「『ごめん』じゃありませんよ。これで三度目ですよ、こういったミス。クビにされたいんですか?」
A「すいません」
B「三時までに直しておいてください」
A「はい」
B「いえ、やっぱり昼までに」
A「…はい」
A「はぁ… (隣と話すように)いや、嫌われてるんだよ。 あぁ、付き合いは長いね。僕が大学の時の後輩だから、10年くらいかな…まぁ、腐れ縁だよ。ん? 彼女怖いか?」
B「…苛めてない。ちゃんと仕事してないのが悪いのよ。………何?…別に手足を動かすことは大したことじゃない、あなただって動かしてる。だからすごくない。そんなことより愛想を振りまく方が難しいわよ」
A「はぁぁ、昼休み返上でやっと終わった… 外食する暇はないけど、コンビニ弁当くらいなら買ってこっそり…」
B「義手キック」
A「はよぉ!」
B「庄司さん」
A「え? あ、はい。何愛ちゃn…子々崎サン?」
B「今夜飲みに行きますよ。庄司さんの奢りで…あと、二人だけの時なら、ちゃん付でも構いません」
A「あっ…はい」
B「(喉が鳴る音 ゴキュ ゴキュ ゴキュ) くはあぁぁぁ。…で、そのまま退社時間までずっと褒められんのよ。本気でブン殴りたかったわ」
A「素直に受け入れればいいのに…」
B「それができたらアンタとこんなとこで飲んでないわよ。人が当たり前の仕事をしてるだけなのに…焼酎ロック」
A「お前が当たり前と思ってることでも、傍から見りゃ奇跡なんだから、気にしてると人生損するぞ…俺は烏龍茶。はぁ、もう何度目だこの会話、もっと明るい話題にしよう」
B「そうねぇ。そういえば前に紹介したミカちゃんと上手くいった? あんたのタイプでしょ、ふわふわした感じの」
A「うっ…あの子ね。うん…多分無理」
B「プッ、人生損してるのはどっちだろうねぇ。オジサン」
A「オバサンが言えた言葉か!」
B「私はまだアラサーだ! 40過ぎのオッサンとは違うんだからね!」
A「32でアラサーと、お茶を濁そうとするなよ。一緒に中間地点を迎えようじゃないか」
B「絶対、イヤ(喉が鳴る音 ゴキュ ゴキュ)…ん、でも…ねぇ。真剣な話。私は32歳でいろいろ望みが薄いのでねぇ。…せめて、庄司さんに良い嫁をもらって幸せな家庭を築いて欲しいのよ」
A「…微妙に上から目線だな。お前は美人なんだから嫁の貰い手くらい居るd」
B「はっ この体を見て逃げ出さない男なんていないよ。…あぁ、もうダメね。……こうなったらとことん呑むしかないわ。焼酎ロックでダブルにして」
B「あはははははは。の~~~んだのんだぁ」
A「飲みすぎだよ」
B「こ~~くらい飲まないとやってられないのよ」
A「はいはい、ほら頭きよつけて」
B「い~や~ん。た~す~け~て~」
A「…路上で寝かせるぞ!」
B「あはぁん。アタシちょっと酔っちゃいましたぁ」
A「……泥酔だろ、アル中め」
B「(スースー)」
A「人に運転させて、気持ちよさそうに寝やがって…」
A(M)「…そういえば、十年前もこんな感じだったな。あの日は、猛スピードの車がいきなり突っ込んできて…」
A「嫌なものを思い出した…」
A(M)「あの時運転していたのは俺だ。…もっと早く突っ込んでくる車に気づいていれば、もう少し遅くその交差点に入っていれば。…愛が、愛がこうなったのは俺の」
B「あんたの所為じゃないよ。あんたは何も悪くないよ、だからそんな顔しないで。…Zzz」
A「……起きろ。着いたぞ」
A「はぁ、帰ったぁ」
B「お疲れさま~」
A「よいっしょ、と」
B「いやぁ~ん」
A「変な声を出すな」
B「フフ、庄司さんが部屋に上がってくるの久しぶりだね。1、2年ぶり?」
A「最後は、3年前だね。あと、寝る前にちゃんと水飲むんだぞ」
B「永いね… ねぇ、久しぶりにコレ外すの手伝ってくれる?」
A「自分でやったほうが早いんじゃないのか?」
B「たまには楽したいのよ」
A「昔から人使いが荒いんだよ、お前」
B「………流石に手際がいいね」
A「ずっとお前のリハビリに付き合ってたからな」
B「………あの頃はキツかったわね」
A「お前、いつも泣いてたな」
B「は、恥ずかしいこというな」
A「…手と足がいきなり無くなったら、当たり前か」
B「……そういえば庄司さん、一回もセクハラしなかったね」
A「えっ しないよ」
B「……そう。…何で? やっぱこの体じゃ嫌なの?」
A「嫌じゃないよ。でも、俺が愛ちゃんに手を出しちゃ、いけないだろ」
B「…フフ、庄司さんが昔、私にプロポーズしたときの言葉覚えてる?」
A「…忘れたな」
B「『あぁ、愛ちゃん。僕は君無しじゃ生きていけない。まるで片翼の鳥どうしが、番いになって飛ぶように!!』ってね」
A「そんなことは言っていない」
B「でも、それっぽいことは言ったよね」
A「………」
B「そんなこと言われたら、嫌って言うしかないわよ。…わかってる?」
A「…最近になって、やっと…かな」
B「まだわかってない」
A「……」
B「私が断ったのは、庄司さんの罪滅ぼしで結婚したくなかったから」
A「…別に俺は、罪滅ぼしでプロポーズしたわけじぁ」
B「じゃあ今私を抱ける?」
A「…」
B「抱ける?」
A「…」
B「抱いて」
A「それは…」
B「…まだ、治ってないんだね」
A「あの日のトラウマは治ってきてるよ。でもコレは違うだろ」
B「一緒よ。あなたが悪夢を見なくなっても、私の手足を自分が奪ったと思ってるうちは同じ。絶対にプロポーズを受けてやらない」
A「もう、する気もないよ」
B「…何で!?」
A「僕はそんな資格を持ってない。最近よくわかってきた。」
B「……っ! …ぁあ!!」
A「愛ちゃん?」
B「私に手があったら、あんたを今思いっきりぶん殴ってる! …いい加減にして、私がなくした手足は
私の物。あなたが背負わなくていいの」
A「別に僕は背負ってなんかいない!」
B「じゃぁ、じゃあもう私に同情しないでよぉぉ(泣き崩れる)」
A「…………」
B「……ッグス…ッス(だんだん収まっていく) 私のキズはこの手足、でもあなたの傷は胸の奥にある。その傷は、きっと私より重傷… 私は、乗り越えたよ。」
A「……………ぁぁ、俺は本当に鈍い奴だ」
B「…」
A「…ダメなやつだ」
B「…うん」
A「好きな人を泣かせてしまうような男だ」
B「…そうだね」
A「……」
B「もう一度、あの日の続きをやらしてあげるよ」
A「…愛ちゃん、結婚してください。僕でいいのなら」
B「はい」
間
B「ねぇ、庄司さん」
B「私にもタバコチョーだい」
A「いいのか? 止めたんだろ?」
B「そうね、だから十年ぶり ほら、火」
A「ったく」
B「…私ね… 昔、体を直せたらとか、生まれ変われるのならとか、そういう事ばかり考えてたんだ」
A「…何だい、いきなり。今は違うのか?」
B「んん~~ 今はね… 今のままがいいかなって」
A「……俺もだよ」
end
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