上海ガニ(オーナー夫人)は、売り上げによって性格が

変わる。


日によって セールスがうまくいかないとき、安いものしか

売れない時がある。そんなときは機嫌がわるい。

逆に、売り上げが良いと、ものすごくハイテンションに。


ある日、なんと400ドル以上のペンダント

(マオリのティキのデザインで彫られたグリーンストーン。

メッチャでかい。重い)

をお買い上げの男性が出現。


「彼女にあげるんだ♪」


サエナイ風貌。


彼女は店の前で ニヤニヤしながら男性が精算するのを

待っている。ポリネシア系の顔立ち。(デブ)

彼は、白人だったと思う。


彼らが去ったあと、上海ガニは上機嫌で いつもの

倍はしゃべった。そらそうだ、いっぺんに400ドル以上

もの売り上げになったんだもの。

普段、よっぽど高くても一人あたり100ドルぐらいまで

にしかならない。


しかもセールストークまったくせず。

そのお客がいきなり指差して 「コレください」だもの。

(っていうか、私、実は そんな商品売ってることも

知らなかったよ・・・。)


上海ガニは、私にうれしそうに いつものカタコトで耳打ち。


「あの男、あの彼女にだまされてるよ!彼女きっと

どこかであのペンダント売るよ。クックッ」

こわいです。



私がお客さんとしゃべっているときは、機嫌がいい。

セールスをまじめにやっていると思っているから。

だから、知り合いが店に来たとき、お客さんのフリを

してもらい、


「しばらく話してって」

と頼んだこともある。



上海ガニは、機嫌のいい時、とてもよくしゃべる。


「あなたはこの国に一人で来ていて、親もここにいない。

だから私はあなたの親になったような気持ちで心配する」


ってな やさしいことを言ってくれたりもする。


たまには、


上海ガニ 「そのクツいいわね。チョッと見せてよ」

私 「これ?いいでしょ~。履きやすいよ♪」


なんていう、女同士の楽しい会話もあった。

(思い出せる限りでは、1回きりだけど・・・)



今思えば、彼女は打ち解けるといい人だったのだろう。


今の私なら もうちょっと彼女とうまくやっていけたかも

しれない。精神的に 私は幼すぎたのかも・・・。


でも 彼女の異常なほど厳しい監視の目、口調などに

ストレスを感じないわけにはいかなかった。


働き始めて1ヶ月が過ぎようとしていたとき、

オーナーから


「今度、もう一人面接して、ためしに働いてもらうよ。

君にはやめてもらいたくないけど、もっと強く

セールスをできる人のほうがいいんだ。

だから、君ももうチョッと頑張ってお客さんに勧めなきゃ。

もう一人の人が良かったらそっちにするかも」


といわれた。

もし 私が この店が大好きで辞めたくない、という思いが

強かったら、


「そんなことやめてください、頑張りますから!!」


と粘っただろうと思う。でも、もうそのつもりもなかった。


「じゃあ、私 やめてもいいですか?」


と口走っていた。


オーナーは、しばらく引きとめようとしていたけど、

一度口に出したら もうやめる気100%になっていた。


結局 私は 1ヶ月でその店を辞めてしまった。


今思えば、あの店で 耐えながらズルズルと続けて

いなくて良かったとは思うけど。



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