五月晴れの日曜。

 朝から日帰り温泉に行って来た。


 と、言うのも...


 数日前から『足だる病』(=両足全体がだるく、チリチリと痛みもありじっとしていられない)を発症してしまった。なんの病なのか、きちんと調べたこともないので、便宜上『足だる病』と呼んでいる。


 ときどき前触れもなくやってくるこの症状とは長い付き合いで、以前はバファリンなどを飲んでしのいでいたけれど..『世界一の嫌われ医者うつみん』の教えを知った以上、安易に薬も飲めない。

 天然温泉のあつ湯に浸かって暖めよう、と出掛けたのだった。


 露天風呂で、湯船の端に体育座りし呆けていると、「奥さん」と呼ぶ声が聞こえた。見ると、目の前で白髪のおばさまがまっすぐにこちらを見て微笑んでいる。


 「奥さん、ちょっとお訊ねしてもいい?」

 「あ、わたし...ですか?」と自分を指さす。

 「そう。あのね、わたし人探ししてるんです」


 聞くと、以前にその日帰り温泉で、若い女性に並々ならぬ親切を受けたのだそうだ。白髪のおばさまは病気持ちらしく、右の下肢が極端に膨れ上がっている。親切なその女性は、湯から上がり帰ろうとするおばさまを呼び止めて、二十分以上、足を丁寧にマッサージしてくれたそうだ。


 「わたしもホントに気付かなくてねぇ…親切にしてもらって。何か飲み物でもご馳走すれば良かったのに」と繰り返し言う。そのことがずっと心に残ってしまっているようだった。


 それから何度も温泉に来ているのだが、いまだに彼女と再会できないのだと言う。彼女の名前と住んでいる地域は聞いてあったので、

 「それでこうやって、お風呂に入っているときに時折ほかのお客さんに声をかけて聞いてるんですよ」と言う。


 なるほど、良い方と出会ったんですね...と

無言で相づちを打っていたが、次第にわたしは不安になった。人探しの話で終わると思っていたおばさまのトークが広がり始めたからだ。


 話はいつの間にかおばさまの娘、素晴らしくかわいい孫の自慢、自身の厳格な教育方針へと展開し、わたしは焦った。


 まだ午前中の露天風呂はひとり客がほとんどで、静かに湯船に浸かりたい人たちばかりなのだ。(もちろんわたしもその一人)

 そのくつろぎの空間であるはずの露天風呂におばさまの声は通る通る。


 間髪いれずに話続けるおばさまに「話はいつ終わるんですか?」というわたしの無言の訴えは伝わるはずもない。


 お湯からザバっと上がって、話の腰を折ろうとも思ったけれど、なんとなく気が引けてなかなかタイミングを図れずにいた。


 しばらくすると、温泉のスタッフさんが泉質チェックのためコップを持って風呂を巡回しにやって来た。おばさまはその姿に気付くとすぐさま「あっ!(まずい)」という表情で口を閉じた。


 「もしや常習犯...」


 「湯船ではお静かに」とする注意書きを何度か見かけたことがある。コロナの頃はしつこいくらいそういった貼り紙を見かけたけれど。

 おばさまはおそらく、何度か注意されたことがあるのだろう。スタッフが通り過ぎるともう大丈夫という表情を見せ、「それでね...」とすぐさま話の続きを再開した。 


 「(話を)続けるんかい!」


 と、心の中で突っ込みを入れ、力なく話を聞き続けていたが、突如、知らない人の話をガマン強く聞いている自分の状況がバカらしくなり、話の流れを遮るようにザバっと湯から上がった。

 

 「上がります」


 おばさまは立ち上がった全裸のわたしをキョトンと見つめ、「あら、そう」と無表情で言った。

 

 

 オチもなく、

 誰かに言う程の話でもなく、

 でも、一部始終が文字になって脳内をぐるぐるしてしまったので、とりあえず記録として書き出してしまった。


 満月が近いからか、体調も悪いし、気持ちもなんだか晴れない。

 こーゆうときは、前向きな言葉や教えを想起してみてもまったく響かない…


 とりあえず満月が過ぎるのをじっと待とう。