それから三ヵ月後。
 

 ファリサはすっかり元気になり退院した。
 
 退院後は、少しずつ検事として復帰していった。法廷で被告人が自殺した公判依頼。怖くて逃げていたファリサだが。アーシェスに励まされて、小さな事件から引き受けるようになった。
 
 仕事に復帰したファリサにアーシェスは改めてプロポーズした。
 
 少し迷いはあったが、ファリサはアーシェスを受け入れた。 
 
 結婚が決まったファリサは、早速ロザリスに報告にやって来た。
 
 ロザリスはお腹がだいぶん目立つようになった。とても順調で、現在六ヶ月の終わりに近づいていた。

「結構目立つようになったのね」
 
 ロザリスのお腹に触れながらファリサはとても嬉しそう。
 
「随分と動くようになって。時々、夜中に起こされるのよ」
 
「元気な印じゃない」
 
「そうね。ところで、結婚決まってよかったわね」
 
「うん。有難う」
 
「式はいつなの? 」
 
「来年の春なの。入籍は来月するけどね」
 
「春なら、この子は生まれているわね」
 
「そうね」
 

 2人が楽しそうに話していると、サーチェラスがやって来た。
 

「ご無沙汰しております。国王様」
 
「ファリサ。元気になって良かった」
 
「はい。仕事にも無事に復帰しています」
 
「それを聞いて安心した。レイチェルにも、申し訳ないと思っていた」
 
「もう過去の事です。また、新しく未来に向かっていくつもりですから」
 
「そうだな」
 
 
 
 静かに穏やかな時間が流れて行く。
 

 少しずつ、春が訪れるかのように。
 
 
 
 
 
 粉雪が舞う日。
 
 ロザリスは真冬でも咲き誇っている花壇のバラを見ている。
 
 
 
 粉雪が舞う空を見上げるロザリス。
 
 
 
 真っ白な空に、思い出されるレナスとの思い出。
 

(貴女のお父さんは素晴らしい人。会いたくなったら、いつでも言いなさい。遠慮しなくていいの。貴女にとって、たった一人のお父さんだから。そして、私は貴女の。お母さん)
 

 
 思い出すレナスとの思い出に、ロザリスの目が潤んだ。
 

「お母さん・・・」
 

 そう呟くロザリスの頬に涙が伝う。
 
 
 
「ロザリス。どうしたのだ? 」
 
 
 サーチェラスがやって来た。
 
 ロザリスは潤んだ目で、じっとサーチェラスを見つめる。
 
「ロザリス・・・」
 
 サーチェラスがそっと、ロザリスの頬に伝う涙を指で拭った。
 
「・・・お父さん・・・」
 
 サーチェラスを見つめて、ロザリスがそう呟いた。
 
「ロザリス・・・」
 
 ぎゅっとファリサを抱きしめるサーチェラス。
 
「・・・私の父は。貴方だけです。・・・」
 
「ロザリス。私を、父親だと認めてくれるのか? 」
 
「ごめんなさい、こんなに遅くなって。ずっと、探してくれていたのに」
 
「何を言うのだ。・・・ロザリス・・・愛している・・・」
 
 胸がいっぱいで、サーチェラスは。ただ。ただ。ロザリスをだきしめるしかできなかった。
 

 
 桜が舞い散る暖かい季節が巡ってきた。
 
 
 
 お城にも赤ちゃんの泣き声が響いていた。
 

 ティンケルとロザリスの子供が無事産まれた。雪のような白い肌はロザリスとそっくり、でも顔の輪郭も目元もティンケルにそっくり。全体的に見ると、サーチェラスにも似ている。元気な男の子である。
 
 名前はフェリオと名づけられた。
 
 
 

 スクスクと育って五ヶ月になった。
 

 今日はファリサとアーシェスの結婚式である。
 
 サーチェラスの計らいで、お城の礼拝堂で式を挙げることになった為。今日は使用人達も大忙し。
 
 
 
「ホンギャー」
 
 元気なフェリオの鳴き声が響く。
 
「おいおい。頼むから泣き止んでくれよ」
 
 シルバーのスーツに身を包んで、ぎこちない手つきで赤ちゃんをあやしているティンケル。
 

「ティンケル。そんな怖い顔をしていては、逆効果だ」
 
 ひょいと、フェリオを抱っこしたのは。紺色のスーツに身を包んだサーチェラス。 
 サーチェラスに抱かれると、フェリオはご機嫌がよくなった。
 

「ちぇ。父親は俺なのに」
 
「それにしても、ロザリス遅いなぁ」
 
 
 
 ガチャリとドアが開いて、入って来たのは。出産後にほっそりとなったロザリス。長い髪はばっさり切ってショートヘヤーになった。前髪が長めで左目の傷が隠れるくらいある。こうして見るとサーチェラスと似ている。
 薄いピンクのワンピースにウェスト部分は白いベルトをあてている姿は、とてもかわいらしい。靴は優しい白いヒール。
 

「ごめんなさいお待たせして」
 
 ふんわりとした笑顔で微笑むロザリス。
 
「ったく、お前のせいで大変だったんだぞ」
 
「え? 」
 
 きょんとするロザリスの額を、ツンと突くティンケル。
 
「ティンケル。ロザリスに当たってはいかんぞ」
 
「そんなんじゃありません」
 
「相変わらずだなお前は。そんな事では、フェリオに嫌われるぞ」
 
 ふて腐れた顔をするティンケルを見て、ロザリスはクスっと笑った。
 
 
 

 礼拝堂。
 

 沢山の人達が、アーシェスとファリサのお祝いに駆けつけてくれた。
 
 
 祭壇の前で神父様と一緒に、ファリサを待つアーシェス。
 
 真っ白なモーニングに身を包んで、とても凛々しく見える。
 

 
 
 扉が開き、純白のウェディングドレスに身を包んだファリサが。カイヌに連れられて入って来た。
 

 ほっそりとしたAラインの肩なしドレスに、レースのヘッドドレス。首元にダイヤのチョーカー。綺麗に化粧をして一段と美しくなったファリサ。
 
 
 
 
 
 
 
 誓いの言葉を述べ、誓いのキスを交わすアーシェスとファリサ。
 
 大きな喝采が響き渡る。
 
 
 
 
 

 披露宴はお城の皇帝で行われる。
 
 豪華な料理がずらりと並んで、綺麗なキャンドルも用意されている。
 
 
 

 ティンケルとロザリスは少し外の空気を吸うために、フェリオを連れて中庭にやって来た。 
 
 
 

 中庭の花壇には白いバラが咲き誇っている。そして、桜の花も満開である。
 

 
 ロザリスは桜の木を見上げた。
 

「あの日も。こうやって、桜の花が咲いていたわ」
 
「あの日? 」
 
 ロザリスはゆっくりと、ティンケルを見る。
 
「貴方は何も覚えていないと思うわ。目も合わなかったと思うもの」
 
「え? 」
 
「私が、失踪する前の日。城下町の公園にある桜並木を歩いていたの。そうしたら、貴方がいたの。公園のベンチに座って、一人で考え込んでいるようだったわ」
 
 
 
 
 
 今から四年ほど前。
 

 ロザリスがまだ弁護士として現役だった頃。
 
 明日の裁判に気が重く。ロザリスは一人桜並木を歩いていた。
 

 すると、ベンチに座っているティンケルがいた。
 

 ファリサはティンケルに気がついたが。自分が近寄れる人ではないと思い、そのまま目を合わせず通り過ぎた。
 
 
 
「おい! 待てよ」
 

 急に呼び止められ、ロザリスはビクっとして立ち止まった。
 

「これ、落としたぜ」
 

 振り向くと、万年筆が差し出されていた。
 
「申し訳ございません。わざわざ、拾って頂きまして」
 
 俯いたまま、ロザリスは万年筆を受け取った。
 
「お前。弁護士か? 」
 
「はい」
 

 ロザリスは俯いたまま答えた。
 

「変な事聞いてもいいか? 」
 
「はい」
 
「左目に傷がある女の子、見た事ないか? 」
 
「えっ・・・」
 
 一瞬、ドキっとしたロザリス。
 
「ごめん。俺が探している子、昔、弁護士になるって言っていたんだ。だから、聞いてみたんだが」
 
「ごめんなさい。判りません」
 
「そっか。仕方ねぇよな。ま、お前も頑張れよ。弁護士って人を助ける事ができるんだろ? 」
 
「はい」
 

 ティンケルはそっとロザリスの手を取った。
 

「悪かったな引き止めて」
 
「いいえ。それじゃあ」
 

 顔を伏せたまま、ロザリスは去って行った。
 
 
 
 

「あの時。掴まれた手の温かさ、ずっと忘れられなかったの」
 
「ああ。あの時の、お前だったんだ。顔見せようとしないから、どうしたのかって気になってはいたけど」
 
 
 
 ヒラヒラと桜の花びらが舞い落ちてくる。
 

「出会いは偶然じゃないのね。きっと」
 
「ああ。運命だったんだな」
 

 ロザリスの腕の中でスヤスヤと眠っているフェリオ。
 

 ティンケルはそっとロザリスの肩を抱いた。
 

「弁護士って本当に人を救えるんだな」
 
「え? 」
 
「だって、俺。救われたもん。お前に」
 
「もう・・・」
 

 ロザリスは照れてしまった。
 
 
 
 暖かい春の日差しの中。桜の花びらが優しく舞い落ちる。
 

 
 グリーンピアトに優しい春が舞い降りてきた。
 

 永遠の春が舞い降りてきた。
 

 END