電車に乗り込むと混んでいる車内に一つだけあいている席があった。

大抵こういう場合は誰かの吐瀉物があるのだが、この日は違った。

シートの上にシートと同じ色の大きな布がかぶせられ、ガムテープで止められているのだ。

 

どういう状態かは写真を貼ってしまえばすぐ伝わるのだが、「写真はインスタ・短文はツイッター・長文はブログ・気になる人バトンはmixi」という住み分けでやらせてもらっているので、ブログには写真は載せないようにしている。皆さんには頑張って想像して欲しい。

 

時刻は夕方、布とシートの色はあずき色、素材は音楽室のカーテンのようなフカフカ、ガムテープの長さや方向はバラバラで駅員さんが急いで補修したことが伺える。それを発見した僕の顔は「エーデルワイス門田」で画像検索したときに7番目くらいに出てくる石出奈々子ちゃんのブロクに掲載されているワイングラスを片手に微笑む僕の写真の顔で想像して欲しい。アタシ的にかなり盛れてるから。

 

何人もの人が座ろうと近づいてはシートの異変に気づき、離れていく。

この布の下がどうなっているかわからないから不安なのだろう。

時間帯からして吐瀉物ではなさそうだし、匂いも無い。

だとしたら何かの事情でシートの布が破れてしまったのだろうか。

事情ってなに?こわいんですけど。

そんなところだろう。

 

僕がサラリーマンだったら同じように席から離れて、ドア近くにもたれかかってグラブり始めるんだろうけど、エーデルワイス門田はお笑い芸人だ。

お笑い芸人は常にエピソードトークの種を探している。

何かハプニングが起こることを期待している。

街でヘイトスピーチめいたものを見かければわけもわからず近寄ってみるし、

調味料がいっぱいあるタイプのラーメン屋では薄目を開けて大雑把に選んだものを勢い良くふりかけてみる。

山崎まさよしばりにいつでもハプニングを探しているのだ。

 

探してるという言葉が出ると芸人はすぐ山崎まさよしを連れてくるのだが、

「one more time one more chance」はもう10年以上前の曲だ。

そろそろ探してるソングをアップデートしてもいいんじゃないかと思って調べてみたが

西野カナが「Set me free」という曲中「いつも寄ってたコンビニ」「手を繋いでだ帰り道」で「あなた」を探してるくらいで

山崎まさよしほど色々なところを探してる人は見つからなかった。

探してるソングを探してるという時間ほど無駄なものはないので話を戻すと

ハプニングを期待して僕はその席に座ってみることにしたのだ。

 

結果からいうと何も起こらなかった。

布の下の状況はわからなかったし、座り心地はとても良かった。

周りの人にも何も言われることもなく快適に降車駅にたどり着いてしまった。

 

なので以下に起こってほしかったハプニングを書いていく。

 

・布の下がなぜか水でビショビショ

・見習い忍者の隠れ身の術だったらしく、座った瞬間うめき声

・市村正親が「君がお尻に敷いてるの、僕がミス・サイゴンで着るジャケットだから」と取り返しにくる

 

大喜利の弱さを露呈した所で、

この文章で皆さんに伝えたかったことは何かというと、

ハプニングを期待しているお笑い芸人っぽい人を見かけたら何か話しかけてあげると喜ぶよ。

ということだ。

 

写メをとって「常磐線にすげー勇気あるやついる!」とツイートしてくれるだけでもいいし、

「よくそんなとこ座れんな!」と悪態をついてくれてもいい。

 

そうするとお笑い芸人はその話を膨らませ

ライブのオープニングで

「こないだめっちゃ腹立つ事あってんけど・・」と

終盤とのコントラストをつけるために

わざと低いトーンで話し始めるのだ。

 

そんなこと言われても街中にいるお笑い芸人なんて見分けられないよ!

という方のために売れてないお笑い芸人の見つけ方を教えよう。

 

肌の質感は衰えているのに服装は若い。

大きな荷物はコント師で、スケッチブックはピン芸人。

足元はだいたい原色のスニーカー。

NIKEだったらよしもとクリエイティブ・エージェンシー、

ニューバランスならワタナベエンターテインメント、

sauconyなら人力舎。

ただ、その人のカバンから白シャツ黒ズボンが見えたら話しかける必要はない。

その人はシュール系なのでエピソードトークよりも突飛な設定を探している最中だ。