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1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,愛知学泉大学(以下「本件大学」という。)等を設置し,学校教育を行っている学校法人である。
(2)被上告人は,昭和16年12月生まれであり,同62年4月,上告人に本件大学の助教授として雇用され,後に教授となった。
(3)上告人には,教育職員の定年を満65歳とし,職員は定年に達した日の属する学年末に退職する旨を定めた定年規程があったが,現実には70歳を超えて勤務する教育職員も相当数存在していた。このような実態を踏まえ,上告人の理事の1人は,昭和61年5月,被上告人に対し,定年規程はあるが,定年は実質はなきに等しく,80歳くらいまで勤務することは可能であるとの趣旨の話をした。そのため,被上告人は,80歳くらいまで本件大学に勤務することが可能であると認識していた。
(4)被上告人は,平成18年9月,本件大学の学長から,定年規程により満65歳で定年退職となる旨伝えられ,同19年3月31日,上告人から,定年により職を解く旨の辞令を受けた。
2 本件訴訟において,被上告人は,上告人との間で被上告人の定年を80歳とする旨の合意(以下「本件合意」という。)があったと主張して,上告人に対し,雇用契約上の地位を有することの確認並びに未払賃金及び将来の賃金等の支払を求めている。
3 原審は,本件合意があったとは認められないとして地位確認請求を棄却したが,賃金請求については,要旨次のとおり判断して,その一部を認容した。
(1)上告人は,それまで事実上70歳定年制の運用をし,被上告人を含む教育職員は,長年,その運用を前提として人生設計を立て,生活してきたのであるから,上告人がその運用を改め,本来の定年規程に沿った運用をするのであれば,相当の期間を置いてその旨を教育職員に周知させる必要があった。特に,上告人は,被上告人を雇用するに際して,被上告人に対し,定年は実質はなきに等しく,80歳くらいまで勤務することが可能であるとの認識を抱かせていたのであるから,上告人には,少なくとも,定年退職の1年前までに,被上告人に対し,定年規程を厳格に適用し,かつ,再雇用をしない旨を告知すべき信義則上の義務があったというべきである。
(2)以上の事情にかんがみると,上告人は,被上告人に対し,定年規程による満65歳の退職時期の到来後も,具体的な告知の時から1年を経過するまでは,賃金支払義務との関係では,信義則上,定年退職の効果を主張することができないというべきである。そうすると,被上告人の賃金請求のうち,被上告人が満65歳の定年退職を告知された平成18年9月中(同月中のいつであるか不明であるので末日とするのが相当である。)から1年後である同19年9月末日までの賃金請求を認容すべきである。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)本件訴訟において,被上告人は,前記1(3)の事実を,本件合意の存在を推認させる間接事実としては主張していたが,当事者双方とも,上告人が定年規程による定年退職の効果を主張することが信義則に反するか否かという点については主張していない。
 かえって,記録によれば,本件訴訟の経過として,〔1〕本件は,第1審の第2回口頭弁論期日において弁論準備手続に付され,弁論準備手続期日において本件の争点は本件合意の存否である旨が確認され,第3回口頭弁論期日において,弁論準備手続の結果が陳述されるとともに,被上告人本人及び2名の証人の尋問が行われ,第4回口頭弁論期日において口頭弁論が終結されたこと,〔2〕第1審判決は,本件合意があったとは認められないとして被上告人の請求を棄却するものであったところ,これに対し,被上告人から控訴が提起されたこと,〔3〕原審の第1回口頭弁論期日において,控訴状,被上告人の準備書面(控訴理由が記載されたもの)及び上告人の答弁書が陳述されて口頭弁論が終結されたところ,控訴理由もそれに対する答弁も,専ら本件合意の存否に関するものであったこと,以上の事実が認められる。
(2)上記(1)のような訴訟の経過の下において,前記3のように信義則違反の点についての判断をするのであれば,原審としては,適切に釈明権を行使して,被上告人に信義則違反の点について主張するか否かを明らかにするよう促すとともに,上告人に十分な反論及び反証の機会を与えた上で判断をすべきものである。とりわけ,原審の採った法律構成は,〔1〕上告人には,被上告人に対し,定年退職の1年前までに,定年規程を厳格に適用し,かつ,再雇用をしない旨を告知すべき信義則上の義務があったとした上,さらに,〔2〕具体的な告知の時から1年を経過するまでは,賃金支払義務との関係では、信義則上,定年退職の効果を主張することができないとする法律効果を導き出すというもので,従前の訴訟の経過等からは予測が困難であり,このような法律構成を採るのであれば,なおさら,その法律構成の適否を含め,上告人に十分な反論及び反証の機会を与えた上で判断をすべきものといわなければならない。
(3)原審が,上記(1)のような訴訟の経過の下において,上記(2)のような措置をとることなく前記3のような判断をしたことには,釈明権の行使を怠った違法があるといわざるを得ず,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。 
5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
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