今回は、サービス残業の残業代請求 に係る裁判例を紹介しています(つづき)。
(2)判断
(ア)本件不活動時間は、原則として、被告の指示に基づき業務に従事することを義務づけられ、被告の作業上の指揮監督下にある時間として労働時間に該当すると認めるのが相当である。その理由は、以下に述べるとおりである。
 まず、原告の勤務場所は、被告の顧客企業のオフィスであり、しかも、所定労働時間中は小荷物の発着処理などといった同社の一定の業務を割り当てられ、同社社員と同様に執務することが期待されていたともいえる(書証(略)参照)上、所定の時間外業務を含めて勤務においては制服の着用が義務づけられていた。そうすると、制服に着替えて所定の時間外業務を開始すれば、次の所定の時間外業務や所定労働時間までの間も、BS名古屋社員らからは既に勤務に就いたものと見られるなど、その指示等により業務に従事せざるを得ない状況にあったといえる。そして、原告は、職場に住込みで勤務するものとされ、午後一〇時までの間に種々の確認をすることと緊急時には必要な対応をすることを義務づけられていた。そうすると、原告としては、例えば、社員が忘れ物など急用で出勤してきたり、あるいは社員が残業していれば、その間に何らかの対応を求められる可能性があった。このように、本件不活動時間中の原告は、通常、緊急事態やBS名古屋社員の指示による業務に従事する可能性のある状況にあった。
 次に、これが被告の指示に基づくものと認められるかを見るに、本件委託契約に基づいて長年管理人を派遣している被告は上記のような状況を十分に知る機会を有したこと、本件委託契約上、管理人業務についてあいまいな表現を用いる(書証(略)の前文、1(2)、(3))一方、BS名古屋社員からの個別の指示に対応する必要がない旨の記載はなく、かえって、平成五年二月一日付け管理人勤務表(書証略)には、記載のない事項は客先と打合せの上適宜実施する旨記載していることに、被告が残業に関し本件訴訟において割増賃金(残業代)の支払対象となることを自認している休日の所定労働時間を労働時間と扱わず、一部とはいえ本件不活動時間を労働時間として申告するよう指示したこと(前記(1)(ア))も考え併せると、被告は、原告の勤務状況が上記のようなものであることを認識した上で、これを積極的に容認していたものと認められ、少なくとも黙示に指示したものというべきである。
 これに対し、実態として労働の必要が極めて乏しく、原告自身も遊興のため自由に外出するなど、業務に従事するため被告に拘束されていると認められず、又は、被告において業務に従事させるため拘束しているとは認識していないと認められるような特段の事情がある場合には、所定の時間外業務と所定労働時間との間の時間であっても労働時間と認めることはできない。
 そこで、以上のような観点から本件不活動時間について以下順次検討する。
(イ)営業日について
 本件不活動時間中、原告が、モーニングサービスの利用を除き、遊興等のため外出することはごくまれであった。また、所定労働時間外にBS名古屋社員に対応することもあった。よって、営業日の不活動時間は、原則として労働時間に該当すると認めるのが相当である。しかし、他方、以下の時間については労働時間と認めることはできない。
 まず、原告は、相当多数回にわたり、時期によっては連日のように、午前七時ころから七時三〇分ころまで喫茶店へ行きモーニングサービスを利用していた(別紙三(1)~(3)(略)の具体的行動欄)。また、原告はモーニングサービスを利用するため三〇分程度外出することは被告から黙認されていると認識しており(書証略)、かつ、勤務時間の記録(書証略)において、自ら午前六時から八時三〇分までの間に二時間の残業をした旨記載していることに照らしても、上記時間帯については業務に従事するため被告に拘束されていたとは認められず、労働時間とすることはできない。
 次に、所定労働時間終了後について、平成一五年八月三一日までの期間を見るに、BS名古屋社員がインターホンを鳴らしたため原告が応対しなければならなかったり、求めに応じて駐車場シャッターの開閉をしたりした時間は午後九時ないし一〇時ころに集中していること(書証略)、勤務時間の記録(書証略)において、自ら午後五時三〇分から一〇時三〇分までの間に三時間三〇分の残業をした旨記載していること、所定の時間外業務の時間帯・所要時間に照らしても、午後六時三〇分から八時までの間又はその前後に、夕食や入浴等のため一時間三〇分の業務に従事しない時間をとることができ、上記時間帯については業務に従事するため被告に拘束されていたとは認められず、労働時間とすることはできない。
 また、所定労働時間終了後について、平成一五年九月一日以降の期間を見るに、駐車場シャッターの閉鎖及びショーウインドー蛍光灯の消灯を最終巡回に合わせて行うようになったため,所定の時間外業務のない時間が午後六時三〇分から午後一〇時まで三時間三〇分できたこと、「業務終了」と記載した札を実際に管理室ドアへ掲げたのが平成一五年一一月八日であったとしても、同年八月中には、BS名古屋社員が午後五時三〇分以降に原告に用事を頼んでも対応する必要がないことが確認されていること、他方、午後九時から一〇時ころまでの間にインターホンが鳴るなど対応を要したことが時々あったことを総合すると、午後五時三〇分から午後九時までの時間帯については被告の指示に基づき業務に従事するため被告に拘束されていたとは認められない。
 以上によると、営業日の不活動時間中、労働時間と認められるのは、朝の始業時までの間に、平成一五年八月三一日までが二時間の残業、同年九月一日以降が一時間の残業、夜の終業時以降が同年八月三一日までが三時間の残業、同年九月一日以降が一時間の残業である。そして、これに最終巡回の三〇分が加わり、かつ、この時間は深夜労働となる。 
(ウ)休業日について
 休業日には、原告が買い物や遊興等のため長時間の外出をすることが多数回に及んでおり(別紙三(1)~(3)(略)の具体的行動欄)、業務に拘束されているとの認識が希薄であった。なお、原告は、勤務が過酷であることから日常生活を営む上でやむを得ない外出であったと主張するが、月に四回程度休日が取得できるようになった平成一五年五月以降にも同様の外出が認められるから、採用できない。原告は、外出時に管理補助員である妻を残したり、二人とも外出する際はBS名古屋社員に留守を頼んでいたから、原告が業務に従事するため被告に拘束されていることは否定されないと主張するが、そのようにして外出することが許容されていたと認めるに足りる証拠はないから採用できない。
 また、休業日にBS名古屋社員が時間外に出入りすることもあったが、それは平均すると月に一回にも満たない(書証略)。
 さらに、本件委託契約及び原告への業務指示において、休業日に原告主張の最終巡回をすること、その他所定労働時間外に戸締まりや火の元などを確認することは義務づけられておらず、出社したBS名古屋社員が退出した後に原告が何らかの具体的な対応をしたとの事実を認めるに足りる証拠はないこと(原告本人一〇、一一、五〇、五一頁参照)に照らし、原告が、所定労働時間を超えて、被告の指示に基づき業務に従事するため拘束されていたとはいえず、本件不活動時間を労働時間と認めることはできない。なお、通用口の開錠及び施錠については、原告は個別の業務に従事した時間を労働時間と主張するものではなく、また、その実施時間帯も証拠上明らかではないから、これだけを取り出して労働時間と認定することはできない。
 これに対し、原告は、原告が外泊する場合に宿直代務員が派遣されたことをもって、休業日の所定労働時間外に場所的拘束を受けて業務を行うことが予定されていたことを裏付けるとも主張するが、宿直代務員の派遣は、本件委託契約上、住込勤務を行うとされていたことに伴うものと解し得るから、このことが上記判断を左右するものではない。その他、原告がるる主張・供述する点はいずれも上記判断を左右するに至らない。
3 原告の労働時間及び割増賃金(残業代)額の算出
 以上によると、原告の労働時間は、営業日の平成一五年八月三一日までが、午前六時から八時三〇分の所定労働時間開始までに二時間、所定労働時間が七時間三〇分、午後五時三〇分の所定労働時間終了から午後一〇時三〇分までの間に三時間三〇分の合計一三時間、うち三〇分が深夜労働となり、営業日の平成一五年九月一日以降が、午前七時三〇分から八時三〇分の所定労働時間開始までに一時間、所定労働時間が七時間三〇分、午後五時三〇分の所定労働時間終了から午後一〇時三〇分までの間に一時間三〇分の合計一〇時間、うち三〇分が深夜労働となり、休業日は所定労働時間のみの七時間三〇分となる。
 また、平成一四年六月二八日、八月二四日、九月七日、平成一五年四月一二日、四月二〇日、六月七日については代務員が派遣されて原告が休日を取得したから、所定労働時間はなく、外出については、上記労働時間内であれば減算され、同時間外であれば減算しないことになる。なお、別表二(2)(略)において、上記時間を労働時間としていないものはそれを前提とする。
 以上に基づいて原告の労働時間を集計すると別紙一(2)(略)のとおりとなる。
 これに基づき原告に支払われるべき賃金の額を算出し、後記4の一部弁済を除く既払金を控除すると別紙一(3)(略)の「不足額」欄記載のとおりとなる(各割増賃金(残業代)の算出は四九捨五〇入によっている)。なお、平成一五年九月分について過払が生じているが、その後の賃金債務との間で当然に充当処理されるものではない。
4 争点(2)(一部弁済の有無)について
 証拠(略)によれば、原告は、平成一五年九月ころ、名古屋北労働基準監督署へ被告に割増賃金(残業代)不払の労働基準法違反の事実があると申告するとともに、その支払を求めて被告と交渉を継続したこと、同労働基準監督署は被告に対し割増賃金(残業代)不払について行政指導を行ったこと、平成一六年二月、被告は原告ら夫婦に対し、新たな雇用契約を締結せず、同年三月三一日限り管理員居室を明け渡すよう請求したこと、原告は、原告代理人を通じて、割増賃金(残業代)の支払と雇用契約上の地位及び管理員居室の使用について交渉し、前者について金額の折り合いがつかなかったため、後者について解決することとなったこと、その際、被告は、当時被告が主張していた未払割増賃金(残業代)額六四万二二六一円を支払うことにこだわり、その結果、雇用契約上の地位及び管理員居室の使用に関する紛争の解決の中で、被告が原告に対し被告が主張する未払賃金に相当する額として上記金額を支払う旨合意し、これを履行したこと、その後、被告は同労基署を訪問して上記金額を支払ったことなどを報告し、担当官は被告に対する行政指導を終了した旨告知したことが認められる。
 これによれば、被告は原告に対し、未払賃金債務の元本全額に相当するものとして上記金額を支払う旨指定し、これについて原告も異議を述べなかったものというべきであり、上記金額は弁済期の先に到来したものの元本から順次充当されるものと認めるのが相当である。
 これに対し、原告は、上記金額が原告ら夫婦の雇用契約上の労働者たる地位と管理員居室の使用関係に関する紛争に関する和解金として支払われたものであると主張するが、上記経過及び約定書(書証略)の記載内容からしても採用することができない。
 よって、被告の一部弁済の主張は理由がある。
 これによると、原告が被告に請求できる割増賃金(残業代)の額は別紙一(1)(略)欄の「不足額」欄の記載のとおりとなる。
5 争点(3)(賃確法六条一項の適用)について
 前記3の割増賃金(残業代)残額の支払義務を争うことに合理的な理由があったとは認められないから、被告の主張は採用できない。
 従って、被告は原告に対し、賃確法六条一項により未払賃金に対する退職の日の翌日(それ以降に支払日が到来するものは支払日)から年一四・六%の遅延損害金の支払義務を負う。
6 争点(4)(労働基準法一一四条の基づく付加金の支払義務)について
 本件に現れた諸事情を総合すれば、原告が求めるように、発生した割増賃金(残業代)の割増部分と同額の付加金の支払いを命じるのが相当であり、これに反する被告の主張は採用できない。
 従って、被告は原告に対し、本件訴訟提起まで二年以内の平成一四年一一月分から平成一六年三月までの間の割増賃金(残業代)につき割増部分と同額の労働基準法一一四条の基づく付加金の支払義務を負う。
 上記付加金の額は、時間外が一四三万七七二五円に一・二五分の〇・二五を乗じた二八万七五四五円、夜間が二万九四六三円、休日が四三万八六六六円に一・三五分の〇・三五を乗じた一一万三七二八円、以上合計四三万〇七三六円である。
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