ふたり女子会は蜜の味…? 〜 その② 〜
じっと、静さんの話に耳を傾けるつくしちゃん。
そんなつくしちゃんに、静さんは。
「でも、こんな立派な事、口では言っているけれど、私も結構、好きモノなのよ?」
… と、突然とんでもない告白をし始めます。
そしてつくしちゃんに、初体験はいつ?と、此れまたとんでもない質問を、軽やかに投げかけて。
… 顔を真っ赤にし声を上ずらせながらも、類くんとの「初めて」を告白するつくしちゃん。
静さんは、その姿を幸せそうに見つめつつ、更に自身の経験について語っていきます…。
ふふ、解ってるわ… 類には内緒ね。
でも、お酒を飲んでいるのですもの、口も滑ってしまうわ。
もっと、お話してしまいましょうよ?
そうね、私の方は…。
… 牧野さんは、どう見てくれていたかはわからないけれど。
多分に、藤堂の鎧を纏っていた頃の私は、周囲から「聖人君子」か何かだと思われていたのではないかしら?
… ううん、いいのよ。
そう見られていただろうとは、自分でも解っているから。
でもね、本当の私は、恥ずかしいくらい「俗物」なの。
そういう男女のコトとか… 幼い頃から凄く興味を持っていたわ。
そうね… 初めての経験は中等部の頃。
… え? 早いかしら?
初めて海外へ留学をさせてもらった時で… 確かクリスマス。
お友達のホームパーティにお呼ばれして、其処で、ね。
相手はやはり留学生で、後々とある国の皇太子になられた方だった。
いいえ、特別なお付き合いをさせて頂いていた訳では無いわ。
その方は既にご結婚なされていて、お国に奥様がいらしたもの。
何番目かのお妃にとお申込は頂いたけれども、10代で… なんて、嫌でしょ?
丁重に御断りさせて頂いた… 父は突然の申出に、とても驚いていたけれどもね。
… 留学中やモデルのお仕事をしている時は、家が付けた監視が比較的緩くて、結構自由だったのよ。
その目を盗んでという訳では無かったのだけれど、男女のお付き合いは海外に出ていた時の方が、フランクでオープンだったわね。
きちんとお付き合いさせて頂いた方だけでなく、雰囲気やその場の流れで、そう云う関係になられた方も居たわ。
… え? そんな風には見えなかった?
ふふふ、私の演技力もなかなかのモノだったと云う事ね。
幻滅させてしまったかしら… 実際の私は、こんなに軽いオンナなのよ。
… でも今振り返ると、私が此れまでお付き合いさせて頂いた男性の中で、自分から傍に居て欲しいと願ったのは、ふたりだけだわ。
今、共にいる、主人。
それと、もうひとりは… 類、ね。
ふふ、だけど勘違いしないでね。
オンナとして「彼」を求めているのでは無いの。
多分に私の男性遍歴は、ヒトの温もりを求めての結果だと思うのよ。
幼い頃から藤堂の跡取りとして、多くの人に囲まれて育った私だけど、沢山のハグやキスを受けても、其処に愛情を感じた事はあまり無くて。
本来その温もりを与えてくれるはずの両親も、やはり類や司のご家族同様、とても忙しい人達でね。
親と子のスキンシップが取れるような、そんな環境では無かったから。
周囲に求められ、何時も笑顔では居たけれども… やはり私も、寂しかったのだと思うわ。
… ベッドの中でヒトと肌を重ねると、とても温かいでしょう?
其処に私は、癒しを憶えたの。
抱かれると云うよりは、人肌を… 其処から感じる愛情を、欲して居たのね、ずっと。
だから、あの熱海でのクルージング中に、類が私を… あ、ごめんなさい。
此れは言わない方がいいのかしら…。
… え、知っているの?
… まあ。
それじゃ、牧野さんがいいのなら、お話… 続けるわね?
類が私を求めてきた時も、私と「同じ」だと思った。
此の子も私同様、愛情を… 温もりを求めているんだ… って。
だからあの時、直ぐに受け容れようと思ったの… 類を抱き、癒そうと。
でも司の乱入で、あの場は未遂に終わり… あの時のイカは、本当に美味しかったわよね。
そしてその後、私はパリへ… 類とは、何も話せないままで。
…「偽善者」と、類に突き放されたままであったことも、悲しく心残りであったし、またそうして愛情を求めて来た類が、今後どうなってしまうのかも、とても心配だった。
だから彼が自らパリに来てくれた時は、私の独り立ちへの不安感も重なり、本当に心強く… 純粋に嬉しいと思えたわ。
一歩を踏み出した私を、彼は認めてくれたのだ… と。
そして彼もまた、私を追って外の世界へ飛び出して来てくれたのだと… そう、思ったから。
だけど何より幸せだと感じたのは、類が私を、未だ欲してくれていたと云うコト。
… 何ひとつ持たない私でも、此の子に温もりだけは、与えてあげられる。
そして何ひとつ持たない私を、此の子だけは温めてくれる… 抱き締めてくれる… って。
… その晩、類を抱き締めながら私、泣いてしまったわ。
あまりに、温かで… 穏やかで。
其れ迄の、どの男の方からも感じ得なかった、安堵。
これ以上の幸福は、もう有り得無いと… 心から思ったの。
でも… 違ったのね。
類とのそれは、男と女では無く… どちらかと云うと、家族愛に近いモノだったのよ。
だから、カラダを求め合うコトに、段々と違和を感じて。
… 多分に類も、似た様な感情を懐いて居たのだと思うわ。
私の元にいることに、苦しみを感じているようだった。
でも私は、彼の温もりを、自ら手放す事はしたく無くて。
そこから目を逸らし、滞在を促し続けたわ。
… 酷い女でしょう?
エゴの為に、彼を縛り続けて居たのよ?
でも類が、それに耐えられなくなってしまって… 何も言わず、日本に帰ってしまったの。
類が居なくなってしまってから数日は、夜ベッドに入る度に、人恋しくて… 類を求めて、泣いたわ。
でも、間も無く気付いたの。
それを覚悟で、私は藤堂を… 日本を捨てたのではなかったのか?… って。
此の涙は、類への甘えだ… 早く一人前にならなきゃって。
その後は其れ迄以上に、勉強と仕事に没頭したわ。
それこそ、恋愛とか人肌なんて、求める時間が無いくらい。
夜は泥のようにぐっすりと眠って… 私が求めていたのは此の感覚だって、疲労も心地良く思えた。
そしてそこまで辿り着いて、やっと、類はどうしているだろう?… と、気になったの。
私はこうして、自分の生活に満足出来るようになったけれども… 類は?
彼は今、笑っているかしら?
孤独で震えたりはしていないかしら?… って。
… でも、それは杞憂に終わったの。
気になり始めたら落ち着かなくて… カナダで無理矢理、確認の為に皆の所へ会いに行ったワケだけど。
其処で彼は、笑っていて… 話をしてみても、あの頃とは全くの別人になっていて。
… もう私の抱擁なんて、彼は求めていなかったのよ。
そう… 類を変えたのは、貴女だったの… 牧野さん。
温もりを求めてばかりいたあの子が、逆に温もりを与えたいと、初めて思えた相手。
それが貴女だと、あの時知ることが出来て… 私がどれほど嬉しかったか、解る?
私がパリに拠点を置くと決めた時、類の為に行かないでくれと、貴女が訴えて来てくれたことがあったわよね。
類のコトを此れだけ想ってくれる女の子がいるのかと、とても嬉しく思ったわ。
そしてカナダで、今度は類の、貴女への感情を聴いて。
… ああ、もう類は大丈夫。
彼はひとりでは無いって、思えたの。
牧野さんと司が、もし、あのままお付き合いを続けたとしても、類が孤独を感じる事は、もう無いだろう… って。
… だから私も、今度こそ卒業しようと思った。
類の想いに甘えて、ずっと彼を自分の癒しとして求めて居たけれども、もう解放しようって。
寂しさもあったけれども… それは弟離れが出来ない姉の感情だと気付いたわ。
仕事に没頭し、主人に出会い、その気持ちは徐々に薄れていったから…。
……。 … 牧野さん? 牧野さん、大丈夫?
どうしたの、そんなに泣いて?
嫌な思い、させちゃったかしら?
ごめんなさいね、私の懺悔のような話だったものね。
……。 違うの?
… 不安? 類のコトで、不安になってしまったの?
… ふふ、大丈夫。
此の先も、貴女は何も不安に思うコトなんてないのよ?
貴女は… 貴女達ふたりは、今のままで。
互いを自然に守り、癒していける二人だから… 私は安心しているわよ?
… あら?
ちょうど男性陣のお話も終わったみたい。
さ、涙を拭いて? 類のコト、呼んでくるから。
… 彼を不安にさせるといけないし。
貴女を泣かせたと知れたら、私が怒られてしまうから… ね?
さあ、笑って?
… 何時もの笑顔で、待って居て?
※ 此のお話… つくしちゃんと対話形式にしたモノも描いてみたいです。 というより、女の子のお喋りを考えるのはとても楽しい 類くんや総ちゃんのセリフを妄想する時間も、とっても幸せだけど