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寝物語     





今更過去の… それも他人の話なんて聞いて、何が面白いの?って思うし、
そういうモノの詮索とかされるのも、俺は大嫌いなんだけど。
でも此の話俺と静については、あんたも気にしているんでしょ?
口には出してこないけどさ。
だから、寝物語ついでに話してあげるよ…。


… 静は「憧れ」だったんだ。   
今思うとホント、その一言で済ませられる存在だったって思う。
オンナとかオトコとか、そういうんじゃなく。
人間(ヒト)として… 「幼い俺」 の支えだった。
事実、静が留学等で日本を離れたとしても、
俺は寂しいとは思いこそすれ、自分から会いに行こうとはしなかった。
聞き分けよく親を待つ、子供と同じ。
自分で動く事もせず、ただ彼女の帰りを待ち続ける。
静は必ず戻って来ると、信じてきっていたから。
でも、あの時… 静が藤堂の名を捨てると宣言した日。
その均衡は、儚く崩れた。
静はもう戻らない。   
俺のもとへ戻るという確約静との縁というような物が、
あの瞬間、全て喪失したのだと、俺は漠然と理解した。
だからと言って、親の温熱に包まれていた雛鳥が、直ぐに巣立てるはずもなく。
俺はその喪失感寂しさや悲しさが、
どういう想いから湧きおこるモノであるのか、理解もしないまま、
ただただ、静が俺に与えてくれていた愛情や温もりを求め、自分の中に閉じこもった。
それを壊し、外へと連れ出してくれたのが、
牧野あんただ。
あんたの言葉に押され、そして、支えられて、俺は一歩を踏み出した。
自らヒトの熱と情を求め、更に、自分を満たしてくれる存在を求めて、
静の住むパリへと向かい…。
しかし静と再会し得られたモノ達は、全て俺が求めていた「それ」とは違っていた。
そんなの当たり前だ、って今なら解る。    
でも、あの時は未だ解らなかった。
確かに俺は、静に 「温もり」 を求めた。    
オトコとオンナその証として、SEXもした。
静の柔らかな肌にまた、抱き、抱かれて得られる快楽に、
幸福を感じながら、日夜、溺れていたのも事実だ。
でもそんなコト、そんなモノを求めて、静を追いかけた訳じゃない。
徐々に感じ始める、二人でいることへの違和感。
静も同じ思いを懐いていたのだと思う。    
彼女の多忙と社交性を理由に、擦れ違いの日々が始まり
それでも。    
此のパリでも俺は、待つコトしかしなかった。    
日本に居る時と何も変わらない。    
ただ待つ場所が、パリのアパルトマンになっただけ。
温もりと優しさを求め彼女の帰りをひとり、部屋で待って居る。
それが自分の愛情だと温もりの与え方だと、未だ信じて。
でも、ある日。    
ぼんやりパリの街並みを眺めて居る時、気付いてしまった。    
その状況に満足してしまって居る「巣立てていない俺」の存在に。
そしてそれ以上の関係を、静に求めていない自分の 「ココロ」 に。
更にその時、脳裏に浮かんできたのが「牧野」あんたの泣き顔だった。
「それでも男なの!?」…    あのセリフ、言われた時の。
……    
そうだ、俺此処で何してるんだ?  
何も成長していない。    
静に対してもそして、オトコとしても、人間としても。
……
そして、更に気付いた。
俺が求めるモノは、もう、静の傍に居るだけでは得られなくなってる。
そして俺もまた、それだけでは満たされなくなっているって。
……    だから、決めた。   日本に帰ろうって。    
先の事は解らなかったし、何も決めてもいなかったけれど。
こんな俺でも、あんたやあいつらは待ってくれてるって思ったから。
逃げだったのかもしれない。    
違う温もりを、求めていただけなのかもしれない。
でも、帰ろうって思った。    
帰りたかった    … あんた達が居る場所に。
……


……    寝たの?
気にしてる素ぶり見せる割には、毎回落ちるの早すぎだよね。
何処まで話、聴けてたんだろ?    
ホント、マイペースで。    
こういうとこ、たまにムカついてくるよ。

でも此の寝顔が、可愛い、愛しいって思うんだ。
そして、ずっと見ていたい守ってやりたいって、思うんだよ。

で、ふと気付く。    
俺はあれだけ寝食を共にしていたのに、静の寝顔を見たことがないって。
こうして、こいつみたいに、胸元に抱いて眠った事もない。
静には、何時も見守られていたし、抱き締められていた。
与えられるだけで、与えるコトは無かったんだって。


あれから、俺をヒトとしてオトコとして成長させてくれたのは、
やはり、あんただったんだね牧野。
そして此の先もずっと、俺はあんたに… あんただけに、満たしてもらいたいって、
そう、願ってる。

あんたはどうなんだろ?    俺と同じコト、思ってくれてるのかな?

でも此の安心しきった、寝顔。
今のところ、彼女を満たせているのは間違いないみたいだから。

これからも愛していくよあんたを懐き続ける。
だからずっと、俺の傍で…。


… 彼女を腕に抱き、その温もりを甘受しながら、俺も微睡の世界へ落ちていく。

今夜も幸福の想いに、深く深く、浸りながら。





※ 寝物語で昔の女の話をされたら、普通の女の子なら怒りそうな気がしますが… そこは流石のつくしちゃん、寝落ちです。 類くんに愛されてる自覚、無意識のうちにあるってコトなのでしょうね。