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Rain 33

 

 

 

 

 

【 総二郎 】
 
 
『……。  何勝手に、ふたりで解決してやがるんだ…!』
 
『……』
 
其処に、ひとり 「怒気」 を込めた声で参入してきたのは、
司の不意打ちパンチの犠牲になり、ぶっ倒れていた、あきら。
 
「声」 どころか、怒りを露にした表情を俺達に向けながら、
脇に滑り落ちていたタブレットをむんずと掴み取り、直ぐさま画面を探り始める。
 
『ったく!  ふざけんなってのは、俺の台詞だろ!
 突然殴られて、間違いでしたで済まされて… 何だよ、それ!』
 
俺と司に向け、スゲー剣幕で捲し立てて。
… まぁ、あきらの受難を考えれば、当たり前の怒号だけど。
しかしその手元は、先程同様、冷静にタブレットを探り。
 
『あきら?』
 
俺の問いかけにも、憮然とした表情のまま何も応えず… 間も無く。
 
『そもそもなぁ、司!
 今のお前は総二郎のコト、殴れる立場じゃねぇだろ!
 お前の 「件」 だって… 誰も知らないとでも思ってんのか!?』
 
『え?』
 
そう怒鳴りながら、俺達にタブレット画面を向けて見せる。
 
『… ったくよ!  何が 「牧野を寝盗られた」 だ!
 お前こそ、アメリカ随一の大富豪・オンナ主 (あるじ) に手、出しやがって!
 ヒモのダンナに慰謝料・ン億なんて、バカみてぇな金額、支払ってよ… アホか!』
 
『あ?  慰謝料?』
 
『そうだぜ!  
 そりゃ、それくらいの金額、道明寺財閥にとっちゃ 「はした金」 だろうけどよ。
 … しかし、不倫の結末としては戴けねぇ。
 慰謝料なんて、泥沼結末の最悪パターンじゃねぇか。
 もっとこういうのはスマートにだな…』
 
『……』
 
あきらの 「口撃」 に対し、司は無言を貫いていたが。
しかし、しばらくすると、その顔色を徐々に変えていって。
 
… おい、あきら。  その辺で止めとけって。
… で、ないと。  … お前。  ……。
 
『… 牧野が総二郎と付き合っても、文句は言えねぇだろ!
 逆に 「よろしく頼む」 って、総二郎に頭下げるくらいの…』
 
… 「バキッ!」  「ドサッ」。
 
『!!  あきら!』
 
そして、とうとう。
未だ 「発言」 が終わらぬうち、あきらの身体は再び宙を舞った。
返答… 司からは 「言葉」 で無く 「拳」 で、あきらに対し応えが返されたのだ。
 
『……』
 
『司…』
 
あきらの 「情報」 にも、司の 「行動」 にも、未だ理解が追いつかない俺は、
倒れたあきらを介抱しつつ、司を茫然と見詰める。
 
すると、司は…。
 
『うるせぇな… 余計なコト、グダグダ言ってんじゃねぇよ。
 仕方ねぇだろ。  「犠牲事実」 だ、俺だって嵌められたんだから。
 気付いた時にはアブねぇ感じの 「ねぇちゃん」 が、俺の上… 跨がってて。
 … 「ヤられ」 ちまった。
 それ以来、俺のコト気に入っちまったとか言ってよ。  毎晩だ… ほぼ。
 そしたら先月 「ガキ」 が出来たって話で。
 じゃあ、仕方ねぇ… 結婚すっか。  … ってな』
 
『……』
 
「犠牲」?  … あぁ 「既成事実」。  成る程… 「子供」 ね。
 
自分は 「犠牲者」 だと言い張る司だが、そう呟く表情は満更でも無い様子で。
相当の「にやけ」 … 「腑抜け」 面。
 
もともと 「椿ねぇちゃん」 といい 「牧野」 といい、強い女に弱いヤツだから。
きっと今回の 「相手」 にも、
押し倒されているウチ 「ココロ」 … 持って行かれちまったんだろう。
 
『… あ。  … そう』
 
… 常識を全く無視しての、司の 「言い草」 には、
俺のココロん中、言いたいコトが多分に湧いて来てはいたけれど。
 
まぁ司も… 独りアメリカに渡り、苦しいコト、ツラいコトがあったろうし。
… やはり寂しさも、随分と感じていたんだろう。
 
それに何て言ったって、司も健全な 「オトコ」 であるのだから、
「オンナ (のカラダ) 」 を欲するのも、当然なコト。
そこは俺も 「同性」 … 理解出来るトコロだ。
 
そしてまた、牧野への 「心残り」 と自身の心変りの 「後ろめたさ」 に、
今回のような 「行動」 を起こしたのだろうということも、
司の性格からして、納得できるコトではある。
 
結論… 皆、収まるトコロに収まった 「結果オーライ」 ってコトで。
俺はこれ以上、司を追及しないコトにした。
 
司が幸せならいいじゃん… 理由無く二発も殴られた、あきらには悪いが。
これで 「問題」 は全て解決… 何も無くなるのだから。
 
… と。  
 
… が!
 
『… ところで俺様を 「コケ」 にした、もう 「片割れ」 はどうした?
 またバイトか?  呼び出せよ。  「俺様が来てる」 って、言ってよ』
 
『……』
 
そう、司に 「振られ」 て… 気づく。
 
そうだ、違うって… まだ 「問題」 は、全く解決していないじゃねぇか。
 
周りが片付いたって、肝心要の 「彼女」 が居ない。
その 「居場所」 すら解ってない… 「気持ち」 の確認も出来て無いままなんだ。
 
『?  どうした?』
 
『いや、あの… 牧野、な…?』
 
途端、口調がしどろもどろになった俺を、司が怪訝そうに見詰める。
 
『… 何だよ。  俺には会わせられねぇってのか?』
 
『……』
 
しかし、彼女が何時見つかるのか予測も出来ない今時点、
「今回の一件」 を司に黙っていたとしても、その耳に入ってしまうのは時間の問題だ。
俺は 「コト」 の次第を、全て司に話すコトにした。
 
『……。  … な~る。
 牧野が類の所に居るのは間違いねぇが、その 「保護者・類」 が居場所を教えねぇ… と。
 類にとって、お前… 総二郎は、
 牧野を託せるオトコじゃ、未だ無ぇ… 認められ無ぇってコトか』
 
『……』
 
『それも、無視の仕方も徹底してる。
 総二郎だけじゃねぇ… 俺からの電話にも出ねぇし。
 周りも類に協力的で、ぜってー居場所を教えようとしないしな。
 … 八方塞がり、って感じで』
 
意識を取り戻したあきらも加わり、司に現状を伝える。
 
『……』
 
すると司は、突然自身の携帯を取り出し、徐に何処かへ連絡をとり始めた。
 
『司?』
 
あきらからの呼びかけにも、掌を翳すだけで応えは返さず。
 
そして、間も無く…。
 
『あ、西田か?
 悪い… 「長官」 の直電、どれだか解んなくなった。
 あ?  違うって… 官房長官じゃねえよ、警察…。  … いや、どっちでもいいか。
 ちっと、頼み事が出来たから、
 どっちでも構わねぇ… すぐ俺に電話してくるよう、伝えてくれ』
 
『!!』
 
… 再び 「牧野探索」 の為  「国家機関」 を動かそうとし始めた。
  
『だ~!  待て、待て!  司!!
 電話!  止めろ!
 国家権力をこんな 「コト」 で、使わなくていいから!』
 
俺は慌てて、警視総監に 「私事私用」 を依頼しようとする、司を止める。
すると司は、疑問視で俺の顔をじっと見詰め憮然とした表情を浮かべた。
 
『こんなコトって… 何だよ。
 こういう時だからこそ、警察だろうと何だろうと使うべきなんだろうが。
 アイツ見つかんねぇままで、お前、いいのかよ?』
 
……。  
… 駄目だ。
やっぱりコイツは、警察や省庁… いわゆる 「国家」 ってもんを、
私物同様に思っていやがる。
 
別の 「視点」 で 「きちんと」 断んねぇと…
「警察も何も、この世のモノは全て、俺のモンなんだ! どう使おうと構わねぇだろう!」
… なんて、無茶苦茶なコトまでも、言い出しかね無い。
 
まあ、確かに 「道明寺司」 … 道明寺財閥の御曹司。
こんだけの財力と権力を持つ者であれば、叶えられない 「モノ」 は実際無い。
そういう考えに至るのも、コイツの立場なら当たり前のコトなんだろう。
 
だが、あくまでもそれは 「物理的」 なモノのハナシ。
 
… 俺が、今、求めるのは…。
 
……。