イメージ 1
 
 
 
 
Rain 11

 

 

 

 

【 総二郎 】

 
 
… ふと、予告無しに、牧野の腕が俺に向かい、静かに伸ばされる。
その指先を、俺の髪に絡めつつ… 徐に梳き遊び始める、彼女。
 
『……。  … 何?』
 
「理由」 を訊ねると… 俺の下。
上気させた頬… 其処に淡い微笑を浮かべながら、穏やかに 「応え」 を囁き。
 
『髪… 濡れてる。  乾かさなかったのかな… って。
 雨に濡れないようにって、此処… 来たのに』
 
『……』
 
… 「濡れてる」 理由も 「此処に来た」 理由も。
如何に鈍感なコイツでも、もう既に解ってんだろうに。
 
どうしても、俺に 「言わせたい」 のか?
 
何故… 今。
俺達がこうして、肌を重ねて居るのか… 一夜を過ごしているのか。
 
その 「理由」 となる 「想い」 を。
 
俺は苦笑を魅せつつ、彼女のカラダ… 紅い小花を全身に散らした華奢な肢体を、キツく抱き締め。
其の耳元に唇を寄せ、そっと 「理由」 を囁き返してやる。
 
淡い… 喘ぎのような、吐息と共に。
 
『どうして、お前… 欲張りすぎ。  これ以上、まだ俺から求めんのか?
 「さすが、牧野」 って、言うべきなのかね?  その、貪欲。
 でも… まぁ、いい。  … 今夜だけ。
 そうそう 「素直」 になんて、俺もなるもんじゃねーから』
 
『… 西門さん…』
 
耳元への、愛撫にも似た俺からの囁きに。
俺の腕の中、牧野は身を捩るようにして昂揚に堪え、「言葉」 を待ち求めて。
 
『動くな… それに逃げんなよ、堪えて聴け。
 もう二度と、口にしねーかも知んねぇし。  こんな気持ちになるコトも、ねーかも』
 
『……』
 
『初めてだかんな。  永遠なんてもんも信じてねーし。
 「これ」 が何時まで続くかなんて、俺にもわかんねーから。
 … でも…』

『……。  「でも」 …?』

『それでも良いんなら… お前が聴きたいって言うなら。
 … 応えてやる。
 今の、俺の… 「本音」 として』

『……。  … 「ごくっ」 …』
 
返答の代わりに、俺の応えを欲する牧野の喉元から、緊張と昂奮を表す小さな鳴音が響く。
 
… ったく。  
この状況  (シチュ) で… 「生唾」 ?  
普通のオンナじゃ、ぜってー有り得ねぇだろう!?
 
そして… 続け様、思う。
どうしてコイツは、此処まで 「飾る」ってコト… 知らないのかと。
こんなに 「ストレート」 に… 馬鹿正直に俺に向かい、ぶつかってくるのだろう… と。
 
しかし、生唾って… 俺は堪らず、その場で吹き出し。
それでも笑いを湛えたまま、彼女に向け 「呟き」 を発した。
 
『… 「好き」 だ。  
 そんなお前を、今… 誰よりも愛しい、俺の傍に居て欲しい、と。  
 そう思ってる。
 ……。  お前の前で、だけなんだ。
 ありのままの自分で居られるのも… 素直に自分、曝け出せるのも…』
 
『… 「あたし」 … の?』
 
『… はっきり言って。
 お前に対する此の 「感情」 が、どういうもんなのかは俺にもわかんねぇ。
 … お前も以前 (まえ) に言ってたけど。
 「恋」 とか 「愛」 とか言うもんなのか、ただの 「慣れ」 なのか。
 でも、更の時にはこんな気持ち… ならなかった。
 優紀ちゃんに対するもんとも、全然違う。
 … 何て言うか…』

『……』

『俺の 「モノ」 … いや 「一部」?  「居る」 コト当たり前っつうか。
  「抱く」 って行為も、他のオンナとスルのとは何か違う。
 よく… わかんねぇけど』
 
『……。  ふふ…』
 
俺の鼓膜に突然、牧野の微笑が響く。
 
『……?  … んだよ、急に。  俺、変なコト言ったか?』
 
抱擁を解きながら、俺は照れもあって。
彼女の表情(かお)を覗き込みつつ、少々ぶっきらぼうに理由を訊ねた。
 
すると、彼女は…。
 
『そうね… 同じね?』
 
『え?』
 
その頬に淡い笑みを浮かべつつ、穏やかな声で言葉を紡ぎ。
 
『うん… 好きとか、嫌いとか。  そんな 「感情的」 なモノより、もっと…。
 もっと… 「ヒト」 としてね?
 西門さんを知りたい… 傍に居たいって。
 あたしも… そう、思うの』
 
『… 俺を?』
 
『うん… でも』
 
『… ん?』
 
『無理に、あたしに合わせてくれなくていい。
 今のまま… 今の言葉までで、充分。
 此処からは、あたしが… あたしから素顔の西門さんを、探して行くから』
 
『… 牧野』
 
『あたしがあなたを見付け出す。  必ず… 「本当」 の西門さんを』
 
『……。  「ホンモノ」 の、俺… か』
 
彼女の言葉に、俺のココロが逸って行く。
 
素直になることはそうそう無い… と、はっきり言い放った 「俺」 に向かい、
自力で 「素の俺」 に近付くから、そのままで構わない… と、
そう、挑戦状を叩き付けてきた 「彼女」。
 
やはり流石、牧野つくし。  
真正面からぶつかってきやがるのか… この俺に対しても。
 
… ったく。  何処までチャレンジャーなんだよ、お前は。
 
『ね?』
 
『……。  くく… やってみ?
 お前の瞳 (め) で 「本当の俺」 … 見付けてくれ』
 
俺はこみ上げてくる喜びを隠す事が出来ず。
彼女を再び抱き締め… 此の日も一晩中、その海に浸り続けた。