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Rain 10

 

 

 

 

 

【 つくし 】

 
 
西門さんからの誘いで、類からのように 「何処かへ」 … って、連れ出されるのは、
あたしには初めてのコトだった。
バイクでの遠出も、あの 「告白の日」 以来。
 
… 一体、何?
突然、どういう風の吹きまわし?  … って。
彼のあまりの変貌ぶりに、あたしのアタマの中は思い切り困惑してるのだけど。
 
その上、
類に気付かれてるんじゃ無いかって… あんなに自身、気にしてたのに。
何故こんな、自ら付き合いを公にするような 「行動」、
西門さんは急に起こしたんだろうって。
それもまた、あたしにとっては、とても不思議で。
 
……。
 
… 「席、外してくんね?」。
 
… 「うん… 好きだよ」。
 
……。
 
ふたりの台詞が繰り返し、あたしの頭の中を過り、交錯して…。
更に 「気持ち」 を混乱させていく。
 
でも…。
 
『ほら』
 
『え?』
 
徐に渡される、オートバイのヘルメット。
え… あたしの分?  用意してくれてたの?  … って。
今日は始めから、あたしと出かけるつもりだったのだと、今更ながら気付いて。
 
… それに。
 
『… ったく。  飯は美味いもん、つくるってのに。
 結構、不器用なんだよな… お前って』

『……』
 
そう言って、フルフェイスのヘルメット… 顎ヒモが締められず、もたつくあたしの 「首筋」。
西門さんの 「指先」 … 「掌」 が、軽やかに触れて。
… あたしの鼓動を一瞬にして高鳴らせ、激しくさせてく。
 
……。
 
… どうしよう?  嬉しいのに… 苦しい。
 
一緒に居るってだけで、緊張して。  … ドキドキして。
触れられるだけで、震えて。  カラダ… 固まっちゃって。
 
でも… もっと、触れて… って。  … ううん。
あたしから、彼に… もっと、触れたい… って。
 
そして、その 「存在」 … その 「想い」 を。
もっと… もっと、感じたい。  … 感じさせてほしい。
 
そう… 思って。
 
……。
 
… 「それ」 … なのかな?
「類」 とは違う… 「西門さん」 への、感情。
「彼」 に対して、あたしが 「知りたい」 「関わりたい」 って… 凄く思っているコト。
 
……。
 
絶大な優しさで、あたしを包みこんでくれる、類。
西門さんが、そんな類のような優しさを魅せてくれるコトは、決して無いけど。
 
でも、例えば… こうしてバイクに乗った時、彼の背に被る、あたしの身体に。
ふとした瞬間、触れる… 彼の掌。
辿り着いた山麓… 頂の展望台に向う、混みあったロープウェイ。
人混みから断するように、あたしを囲い、擁いてくれる身体…。
そんなとき、肌に感じる彼の熱… 包みこまれるような、彼の匂いに。
あたし、これ迄に経験したコトの無い程の昂り… 感じてしまって。
 
… 持て余してしまうくらいの、幸福。  … 悦び。
… 「涙」 … 出そうになる。
 
……。
 
それに…。
 
『ちっ… また 「雨」 か…。
 ……。  … 牧野、明日の予定は?  今夜、泊まって行けっか?』
 
『え?』
 
『此の雨じゃ、帰る迄にずぶ濡れになっちまう。
 この先… 下りたトコに、西門が懇意にしてる 「宿」 があっから…。
 … 大丈夫なら 「其処」 へ…』
 
『……』
 
… 突然降り出した 「雨」 を理由に、駆け込むコトになった山の宿。
 
今夜、今まで見た事もない、西門さんの 「一面」。
新たに見付けられる… そんな 「予感」を。  
この時の、あたし… 微かに感じていた。
 
 
 
離れの形式をとる、こじんまりとした宿の一角。
広々とした和室… 落ち着いた雰囲気を漂わせる、純日本的な造りの寝所で。
先に湯を済ませ、浴衣に身を包んだラフな姿の西門さんは、
障子の桟へ軽やかに身体を預けながら、雨に濡れた庭先を、無言のままに眺めて居た。
 
山の雨は、気紛れで… 瞬く間、あたしたちの上を通り過ぎて行き。
今、夜を迎えた空には、
闇を覆う程の、星々… 神々しいばかりに輝く月輪のみが存在している。
 
… 蒼光を放つ、月明かり。
その色彩は庭先の樹木だけでなく、西門さんの身体をも寒色に染めて。

そんな 「光景」 …まるで、その景観の一部になってしまったかのような、西門さんの姿は…。
 
『……』
 
「高貴」 で… なおかつ 「美しく」。  
 
……。
 
あたしから呼びかけるコトを、怯ませ… ただ部屋の入口に佇み、
その姿を見留めるコトしか許さなくて。
 
『… 出た?  身体… あったまったか?』
 
『……。  … うん』
 
あたしの存在に気付くと、西門さんは、途端。
其れまで属していた 「空間」 を、自身の声で破滅させる。
そして、その頬に何時もの淡い微笑を浮かべ。
先程とは違った 「空間」 … 突如辺りに醸し出して。
 
あたしは何時も、其処でやっと… 彼の 「世界」 に入るコト、許される。
今まで… 傍に居られるようになってからも、ずっと。
 
此の変貌が 「西門総二郎」 の魅力。
周囲の者を魅了する、彼の絶対的な 「存在感」 の理由。
 
……。
 
でも…… でもね?  … 「其れ」 って。
あたしが入るコト、許されてる… その 「世界」 の 「彼」 って。
 
… 「本当」 の 「西門総二郎」 なのかな…?
 
……。
 
ましろな布団に寝かされる、あたしの身体に、西門さんの美しい裸体が、重ねられていく。
 
… 蒼に染まっていた 「彼」 を、
あたし、無意識のうち… 「冷たいモノ」 と、思い込んで居たみたいで。
 
『… あっ…!』
 
触れ合う素肌から、滲み合う熱… 其れ、感受した 「瞬間」。
思わず 「声」 … 発してしまって。
 
『… なん…?』
 
『あ… 「熱く」 … て…』

『……。  … じゃ …。  これ… は?』
 
『……!』
 
あたしの胸に唇を寄せる彼の口元から、比較を促す問いが為された瞬間。
 
突然、あたしの肌に伝う… 淡い 「戦慄」。
彼の唇が 「触れる場所」 より起こる… 甘美な刺激。
其処に、残る… 「薄紅の花弁」 。
 
……。
 
  『 「キスのシルシ」 … 残しても、いいよ?
   西門さんが残したんだ… って。
   その 「アト」 見て、今の幸せ… 後々、噛み締めるコト出来るから』
 
……。
 
あたしからの 「恥ずかしい願い」 に、あのとき彼は… 「何」 て、応えた?
 
……。
 
  『ば~か。  俺はオンナの肌に 「キズ」 残すようなコト、ぜってーしねーよ。
   其処までする独占欲なんて… もともと持ち合わせてねーもん。
   … んなの。  「ひとりの相手」 にしか執着出来ねぇ、モテねー野郎がするこった。
   … 俺には必要ねーだろ?』
 
……。
 
… じゃあ、今の 「行為」 は?
此の、あたしの胸元に咲く…  「薄紅の花弁」 は?
 
此れは、彼が持つ 「独占欲」 … 「執着心」 の、顕れ?
あたしを 「誰」 にも渡さない… 譲りたくは無い… と。
 
……。
 
『… どう?  … 「つくし」 …』
 
『!!  … 西門さん…!  … 西門さん… っ!!』
 
……。
 
気付けば、あたし… 西門さんのコト。
自ら、あたしの 「ナカ」 … 導いて。
 
「喜悦」 と 「恍惚」 とを… 甘受していた。