IN・NY  ~ 10 ~
 
 
 
 
 
牧野が世話になったという、トーマスとその友人を、
セントラルパーク近くのレストランに、招待する。
 
牧野は… こんな 「高級レストラン」 で? … と、恐縮してるけど。
普通お礼の食事っていったら、こういう所でとるもんでしょ?

 
『ちょっとまって。  あのあの、あたし… お金ないよ、花沢類』

 
相変わらず、お金の心配から入る、牧野。  … 根っからの貧乏性だよな。

ここであんたに、お金を払わせようなんて、
俺だって始めから、思ってないよ。


 
『平気。  あるから』
 
『あ、あるからって…。  … でも。
    … 言っとくけど、この人達…。 すごい食べるのよ?』

 
「すごい食べる」 って言ったって… 牛やカバじゃあるまいし。

そんなに気にするような事じゃ、ないだろ?


 
… が、食事が始まると同時に、俺は。
牧野が言いたかった 「すごい食べる」 って言葉の 「本当の意味」 を、理解する。
 
お金がかかる… とかいう、問題ではなく。
… こういう 「食事」 も、あるのか… と。

 
… 「こういう食事」 …。   
 
まるで、動物。  … いや、飢えた猛獣が。
「餌」 に、喰らいついてる… みたいな。

 
でもその食べっぷりは、見ていて、とっても気持ちがいい。
食べるコト… 本当に、楽しんでるって感じで。
 
次から次へと、凄く美味そうに、全ての料理を平らげていく。

 
『すごい』

 
思わずその姿に見惚れ、感嘆の声をあげた。

すると、そんな俺の呟きを聞きつけたトーマスが、
ニヤリと笑いながら、顔を上げて…。

 
『類クン!
    スープなんて、スプーンで飲むもんじゃないよ!
    一気、一気!』

 
スープ皿に直接、口を付けて飲め… と、彼等流の食事流儀をレクチャーしてくる。  

 
『ぎゃっ!
    ちょっと、トーマス!!  変なこと、させないで!』

 
隣で牧野が、慌てて諌めるけど。
俺は此処でも、興味の方が先立ってしまって。

言われたとおりに皿を持ち上げ、ゆっくりと、口元に運んだ。


… 口腔に流れ込んでくる、スープ。

… うん…! 

確かに此のほうが、スープの味… はっきり判って、美味い気がする。


 
『うん。  こっちの方が、おいしいかも』
 
『おお!!  話せるね、類くん。
    次はラムの食い方、行くよ。  ボブ、GO!!』

 
今度は隣席のボブが、ラム肉を頬張って見せた。  

手掴み、かぶりつき… すげぇ、ワイルド。 

俺も早速、真似てみる。


 
『熱い』
 
『ぎゃはは!
    金持ちは手の皮も薄いんだな!  訓練しなよ!』
 
『うん。  がんばる』

 
いろんなコト、新発見で。  すげー、楽しくて。

初めて接するタイプのヤツらだけど… こんなに、面白いもんなんだな。


 
そうだ… 俺って。
 
何も 「しなかった」 から… 何も 「知らなかった」。

 
何も 「せずに」…。   
何も 「出来ない」 … 何も 「見つけられない」 … って。
 
そう… 思い込んでて。
 
 
こんな、すぐ近くに、「きっかけ」 は存在したのに。

 

ホント… 俺の世界は、狭いって。   
こういう時に、思う。

 

 

牧野と知り合わなきゃ、一生知らずに過ぎてしまった 「コト」 ばかりだ。
 
… 知ることが出来て、良かった。  
今、心から… そう、思うよ?

 
世の中には、自分が知らないこと… まだ沢山あるってコト。

そして。

 

他人と関わりを持つっていうのは… こんなに楽しいんだってコト。
 
 
知ることが出来て。  

「あんた」 を… 「きっかけ」 を、得ることが出来て。

 
 
… 本当に…。