time after time
来てみらんしょ in 福島 ~ 番外編 その⑤ ~
【 Sojiro 】
『あの時も… 俺をあっためてって。
そう、頼んだんだよな…?』
『… はい』
『くくっ… すげぇ緊張する。
なんか、初めてん時…「ドーテイ」のガキに、戻っちまった気分』
『……? ふふ… 何ですか、それ?』
『いや… ある意味、そうなんかも。
セックスの本来の意味、考えっと… さ?
今こうして… 未来を思って「女」を抱くコトって、俺にとって、初めてになるんだから…』
今こうして… 未来を思って「女」を抱くコトって、俺にとって、初めてになるんだから…』
『ありがとう… 西門さん。
そう… 思ってくれて…。
私も凄く、緊張してます。
…それで… あの…』
私も凄く、緊張してます。
…それで… あの…』
『ん… 何? どーした?』
『私… あの、実は…。
あれから… 初めてなんです。
あれから… 初めてなんです。
だから、お手柔らかに… お願いします』
『え?』
『えっと、あの… 付き合ってた男の人は居たんですけど。
ごめんなさい… 引かないでくださいね?
私、どうしても… 西門さんが忘れられなくて』
私、どうしても… 西門さんが忘れられなくて』
『優紀ちゃん…』
『… やっぱりダメだったんです。
視界に入ってしまったら、追いかけてしまう。
いやらしいって、思われちゃうかもしれませんけど… またあの時のように、西門さんに抱き締めてもらいたい、薫りに包まれたいって。
… そんな感情ばかり、湧き起こっちゃって。
それでも、ずっと… 忘れなきゃって。
それでも、ずっと… 忘れなきゃって。
その為にお茶の時間も、変えて頂いたりしてたんですけど…』
『……』
『… いいんですか? こんな私で。
ホントに何も出来ません… 未だ自分にも自信が持て無い…』
『……』
淡い光彩に包まれた部屋で、俺は彼女をベッドに仰向けに寝かせて。
その短い髪に指を絡めながら、言葉を交わし合っていた。
彼女の口元から、弱気な言の葉が呟かれる瞬間… 俺はその唇を、無言のままに塞ぐ。
『… んっ…』
ブラケットライトに照らされた、部屋の壁に映る俺達の影が、はっきりとひとつに繋がる。
一瞬硬直を魅せた彼女の身体が、柔らかく脱力して行く様相も、其の影から見てとれた。
『「私なんか」じゃ、無い…』
唇を解放しながら、俺は囁きを続ける。
『西門さん…』
『キミがいい… キミじゃなきゃダメなんだ。
もう「独り」では、寒くて… 居られそうにないから…』
『……』
再び触れる、唇… 繋がる影。
「ふたり」の射影も… 其処から徐々に「ひとつ」になってゆく。
唇から頬へ… 肌の曲線を伝い、俺の口付けは彼女の身体へと降りて行き。
… 温かい。
なんて、彼女の肌は… 温もりに満ちているのだろう?
今まで幾人もの女の身体に、触れて来たってのに。
… 緊張… 興奮?
俺の身体… 汗ばんでる。
唇が、彼女の胸元に辿りつく。
なだらかな丘陵が、まるで息づくように、大きく弾んでいた。
『… すげ。
ホント、緊張… してる?』
膨らみを掌で包み淡い愛撫を施しながら、耳元に向け囁きを送る。
瞬間… 全身を震わせ、俺の問いに昂りを魅せる声で応える彼女に、愛しさは尚のこと、積もってゆき。
『あ… っ… 当たり前です…!
またこんな「瞬間」… 貰えるなんて。
夢にだって… 思って無かったもの…』
『… 違うって』
『え?』
『俺と優紀ちゃん… 与えるとか、貰う、じゃ無いよ?
互いを支え、高め合うんだ。
実際、俺は… キミに、そうして貰ってた。
ありがとう… 俺を支えてくれて。
… 愛してくれて』
『……』
『… 愛してる。 此れから先、俺はキミを守るよ。
優紀… 此の先… ずっと…』
『西門さん…』
彼女の頬を滑る涙に、俺はそっと唇を寄せて、その滴を淡く、舌先で掬い取る。
擽ったそうに肩を竦める彼女の額に、軽いキスを落とし…。
… すると彼女は、今までに見たことも無い程の魅力的な笑顔を俺に向ける。
『… 優紀…』
その笑顔に癒され… また、幸福の想いに満たされた俺は、安息の海に浸りながら、彼女の中に身体を沈めた。
翌日、海に向かいバイクを走らせ、東京への帰路を進む。
彼女には「最低限」の手荷物だけを持って貰い、サイドカーに着座させた。
以前所有していたビッグバイクから通しても、自身が運転するバイクに女を乗せるのは初めてだ。
… 彼女の未来に対する責任。
それを自覚したからこそ、今、何の抵抗もなく、彼女を隣に導けるのだろう。
始めこそ直接受ける風の抵抗に、恐怖心を露にしていた彼女も、バイクが山間の道に差し掛かり視界に春の装いを見止め始めると、感嘆の声をあげつつ景勝を観賞出来る位の、余裕を見せ始めた。
『怖く無い…!?』
『はい! とても素敵…! 気持ちいいです!』
薫風のような爽やかな笑顔を魅せる彼女に、俺の頬も自然に綻んでいく。
福島の海岸沿いを走る国道へと辿りつき、波打ち際まで降りられる場所を探した。
広く美しい浜辺と、荒々しい岩壁を擁する海岸線を見つける。
『「これき」?』
パーキングに設置された海岸名が表記されている看板を見詰め、訝しげに呟く彼女に、俺はヘルメットを外しながら答えを教えた。
『ぶーっ。 残念、はずれ。
「なこそ」だよ、読み方』
『え? 「勿来」… で「なこそ」って、読むんですか?
私… 地理、全然ダメで』
私… 地理、全然ダメで』
『……』
そう言って恥ずかしげに微笑む彼女の掌を、無言のまま掴み握る。
『!! 西門さん…!』
咄嗟に、腕を引こうとする彼女。
しかし俺は、握り締めた掌を決して離しはしなかった。
持たせていた荷物をもう一方の掌に持ち、俺は彼女の掌を引きながら、ゆっくりと浜辺を歩き始める。
『……』
『……』
… 言葉を交わすワケでも無く。
… ふたり、無言のままで。
しかし…「気まずさ」を、持て余しているワケじゃない。
何も言葉にしなくても、此の繋がる掌から。
互いの熱が… 想いが… 流れこんで居るようで。
… 声にする必要が無い。
… そんな感じ。
『すげぇ… 蒼い、な』
『はい。 それに… とても広い…』
『うん…』
… 歩みを留め、海を見詰めた。
本当に、此の勿来の浜から眺める海は、果てを感じさせぬ程に、広大で… 惹き込まれそうな程の、紺碧を湛えていて。
其処から吹き抜けていく海風は… 全てを浚ってしまうかのように、強く… そして、清爽として。
… 透明な光輝に… 満ちている。
それらのモノに包まれ、俺は自身の転生を誓う。
隣に佇む、彼女を… もう二度と、傷つけるコト無く。
生涯… 傍らに置き、尊び続ける… と。
『… 優紀』
『……? 呼びましたか?』
波の音に消される呼び名。
しかし、確信に満ちた表情で、振り向く彼女。
その頬に、柔らかな微笑を浮かべて。
その頬に、柔らかな微笑を浮かべて。
俺は吸い寄せられるように、その唇にキスを落とす。
『!! … に、西門さん!』
顔を真っ赤にさせ驚愕を示す彼女に、俺は幸福を露にした、笑顔を送った。
… そうだ。
彼女の頬の熱がさめたら、今此処で、約束の「ピアス」を贈ろう。
彼女の… 白磁を思わせる美しい肌に。
此の「碧」の滴を、一粒落として。
きっと似合うよ? … 優紀。
キミの眩しい笑顔に、俺が選んだ「碧」の石は。
君に捧ぐ …「誓い」も共に、籠めておく。
だから、受け取って?
… 恥ずかしがらずに。
眼前に広がる… 此の蒼海のような…
キミに寄せる… 俺からの深い「愛情」を …
※ 「来てみらんしょ・福島」此れにて終了です 震災で甚大な被害を受けた福島を応援しようと描き始めたお話でしたが結果的にはgreenの欲求不満解消の為のお話になってしまったような?? 此の拙いお話に最後までお付き合い頂きありがとうございました。 感想など頂けましたら嬉しいです よろしくお願いいたします